7話 俺×生徒会勧誘=勘弁してください。
「い、今なんて?」
「だから、君を生徒会に呼び込もうとしているんだって」
あぁ、周りの視線が痛い。
生徒会長を一目見ようとクラス委員を立候補した一年生は少なからず何人かいるはずだ。
もしかしたら、白ヶ崎以外の人はみんなそうなのかもしれない。
だとしたら、その人たちにとって夢のような出来事が今まさに起こっていることになる。
「あはは、会長はご冗談がお上手で」
ここでテキトーに返事をする。
一番の理想形は自然消滅だ。しかし、会長がそんなことをするはずもない。だって、さっきからすごい真っ直ぐな瞳で俺を見ているのだから。
「僕は冗談なんか言わないよ。全て有言実行をしてきた男だからね」
とてつもない自信だ。こんな人がこの国を、いや、世界を変えられるのかもしれない。もしかしたら宇宙も変えられたりして。
だが、ここで引き下がったら、俺の高校生活の計画がめちゃくちゃになってしまう。だから、少しでも話が流れるように仕向けるしかない。
「か、会長、その話はまた次の機会にゆっくり決めるということは出来ないのでしょうか?」
必殺の延期作戦。
この場でグダグダしていたら、後の生徒たちの自己紹介出来なくなってしまう。そんな状況を察して、会長はきっと話を流してくれるはずだ。
「いや、今ここで決めてくれ」
あらら、意思がお固いこと。
「ちょ、ちょっと待ってください!俺はまだこの高校に来て間もないんですし、こういうことはちゃんと考えたくて……」
真守は申し訳なさそうに頭を軽く下げ、会長を下から覗く。
「はぁ、また君は嘘をついている。本当はやりたくないんだろ?はっきり言ったらどうなんだ」
うん、やっぱりバレてた。
バレてるも何も、この高校の絶対的存在からの勧誘を躊躇うなんて、普通に考えて有り得ないことだからな。
まぁ、しかし、会長自ら逃げる選択肢を作ってしまったな。ならば、ここで勝負に出るしかない!
真守はここぞとばかりと言わんばかりの顔を浮かべ会長に刃向かった。
「はい、やりたくないです。全力で断らしていただきます」
「そっか……」
これはさすがに会長であっても諦めてくれるはず。ここまではっきり伝えたんだ。
「だが、僕は諦めないよ。さっき有言実行する男だと自分で言ってしまったからね。君をどうにかして生徒会に引き込むよ」
この人、絶対に折れないな。
白ヶ崎に助けを求めたいが、どうせ俺のことなんて助けてくれないだろう。
だが、一か八かで真守は白ヶ崎に視線を送った。
「なに、こっち見てるのよ気持ち悪い」
やはりダメだった。
諦めて生徒会に入るしかないのか、俺史上、究極の選択が迫っている。
どうすればいいんだ!?
そんな重たい空気を一瞬で切り裂いてくれる出来事が今まさに起こった。
ガラガラと大きな音を立て、勢いよく会議室の扉を開く小さな女の子。
「遅れてしまい申し訳ございません!ただいま二学年のクラス委員、到着いたしました!」
会議室には威勢のいい挨拶が室内に響き渡った。
「あ、あぁ、君たちか」
突然のことでさすがの会長でも驚きの様子。
会議室内に沈黙が訪れる。
果たして会長は一度崩れた空気をまた自分のペースに戻すことができるのか、はたまた、一度は流してしまうのかは見ものだ。
って、あれ……?
会議室の扉をもう一度見直す真守。
そこには運命と言っていいほどの出来事が始まっていた。
「ま、まじかよ……」
「えっ、真守……?」
驚きのあまり、思わず席を立ち、二学年クラス委員の先頭にいた女の子を見つめる。同じく、その二学年クラス委員の女の子は真守のことを見つめていた。
「あんた、先輩のこといきなりジロジロ見ちゃって気持ち悪いわよ」
白ヶ崎からのいつも通りの罵倒は真守の耳には届かなかった。
「ちょっと、あんた聞いてるの?」
「……」
「チッ……」
無視された白ヶ崎は不機嫌になり、机下の真守の足を蹴飛ばす。
「い、痛っ!?」
ここでようやく我に返り、白ヶ崎の方に目を移す。
「ちょっと、あんたいい加減にしなさいよ!人のこと無視しといて何その態度?」
白ヶ崎はご立腹の様子だった。
なぜ、こんなことになってしまったか。それは目の前の女の子が全てを物語っている。
まさか、二学年クラス委員代表は"入学式にぶつかった例の先輩女子生徒"だったとは誰が予想できたのか。