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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第三章 俺×過去=探し出します。〜過去探索編〜
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78話 俺×朝風呂=目のやりどころに困ります。

目を覚ましたとき、やっと見慣れてきた実家の天井が目に入った。


(……ああ、今日の夜には帰るのか)


昨日の騒がしさが、ぼんやりと頭の中で繋がる。花火、笑い声、浴衣、そしてそのまま倒れるように寝たこと。


体を起こすと、リビングにはもう人の気配があった。


「……あ」


葵だった。


静かに、帰る支度をしている。髪は軽く整えられていて、すでに“日常”の顔に戻っているように見えた。


「起きたんだ」


「はい……おはようございます」


「おはよう」


短いやり取り。


そのまま、葵が少しだけ視線を落とす。


「シャワー、お借りしてもいい?」


「どうぞ……って、もう帰るんですか?」


「うん。無理言って二日も休んじゃったし」


さらっと言う。


「午後からは作業戻らないと」


いつもの、しっかりした口調だった。


「……」


少しだけ、間が空く。

本当なら、ここで「気をつけて」とか言って終わるはずなのに。


「……俺も戻ります」


気づけば口に出していた。

葵が、ほんの少しだけ驚いた顔をする。


「いいの?まだ休んでても」


「いや……」


言葉を探す。


「一人で戻るのもあれですし」


苦しい言い訳。


でも。


「……そっか」


小さく笑う。


「じゃあ一緒に帰ろうか」


その表情が、少しだけ柔らかかった。


「先にシャワーどうぞ」


「ありがとうございます」


急いで浴室に向かう。

扉を閉めて、ようやく一息つく。


(……なんか変な感じだな)


昨日からずっと、距離感が揺れている気がする。シャワーを浴びながら、ぼんやりと考える。


水音が、やけに大きく響く。


そのとき。


——コトッ。


小さな音。


「……?」


気のせいかと思ったが、確かに何かの気配がある。


浴室のドアの向こう。


(……嫌な予感しかしない)


反射的にシャワーを止める。

そして、迷わず湯船に飛び込んだ。


冷たい。


追い焚きしていない水が、体に一気に広がる。


「っ……!」


声を抑える。その瞬間。


ガチャ。


ドアが開いた。


「お邪魔しまーす♪」

「お邪魔します」


「はぁ!?」


思わず声が出る。


そこにいたのは——


真希那と、葵。


しかも。


「……なんで水着なんだよ!!」


「いやだって、お風呂入るし?」


悪びれもない。


「意味わかんねぇよ!!」


葵はというと、少しだけ困ったような顔をしている。


「……その、流れで」


「どんな流れだよ!?」


完全におかしい。


「まー君もいるしちょうどいいかなって」


「よくねぇよ!!」


全力で否定する。


だが。


体は湯船から出られない。

冷たい水に沈みながら、必死に体勢を保つ。


「まあまあ」


真希那が勝手に話を進める。


「背中流し合おうよ」


「なんでだよ!!」


完全にスルーされた。


そのまま二人は普通に体を洗い始める。


水音。


泡の音。


距離が、近い。


「……」


視線の置き場がない。とりあえず一点を見つめる。


「……楽々浦くん」


「見てません」


「まだ何も言ってない」


「見てません」


強く言い切る。


「……」


葵が少しだけ笑った気配がした。


その横で。


「まー君顔真っ赤じゃん」


「うるせぇ!!」


もうどうしようもない。


とりあえず追い焚きを入れる。徐々に温度が上がっていく。逃げ場は、ない。


やがて。


「はぁ、さっぱりした〜」


真希那が満足そうに言う。


「……入る?」


「入らないでくれ!!」


願いは届かなかった。


二人がそのまま湯船に入ってくる。


「狭っ」


「当たり前だろ!!」


距離が、完全に壊れる。


湯気が立ち上る。


体温が上がる。


思考が追いつかない。


「……」


葵は、少しだけ静かに隣にいる。

その距離が、やけに近い。


(無理だろこれ……)


耐えられない。


「……ちょっと熱いかも」


「いや普通だろ……」


「まー君顔やばいよ?」


「うるさい……」


視界が揺れる……意識が遠のく。


「……あ」


「ちょっと、大丈夫?」


「やばいかも……」


さすがに限界だった。そのまま、ぐらりと体が揺れる。


「出るよ!」


「うん!」


慌てて二人が湯船から上がる。


その後を追うように、真守もなんとか外に出る。そして、冷たい空気が一気に流れ込んでくる。


「……死ぬかと思った」


「大げさ」


「大げさじゃねぇよ……」


タオルで体を覆う。


「ごめんね〜」


真希那が軽く言う。全く反省していない顔。


「……はぁ」


ため息しか出ない。


着替えて、リビングに戻る。準備はもう整っていた。


「じゃあ行こうか」


葵がそう言って、玄関へ向かう。


そのとき。


「もう帰るの?」


母親が起きてきた。


「あ、はい」


「また来てね」


柔らかい声。

そして、少しだけ真守の方を見る。


「真守」


「……?」


「これから、色々思い出すかもしれないけど」


唐突だった。


「全部、無駄じゃないからね」


「……は?」


意味がわからない。


「いってらっしゃい」


それ以上は何も言わなかった。


「……行ってきます」


外に出る。


朝の空気が、少しだけ冷たい。


駅までの道。


二人で歩く。


さっきのことが頭から離れない。


「……」


「……」


沈黙。


電車に乗る。


隣に座る。


距離が、近い。


「……さっきは」


葵がぽつりと言う。


「ごめんね」


「いや……」


視線を逸らす。


「その……楽しかったので」


思わず本音が出る。


「……そっか」


小さく笑う。

それだけで、少しだけ空気が軽くなる。


電車が揺れる。


景色が流れていく。

やがて、学校の最寄り駅。


「戻ってきましたね」


「うん」


短く頷く。


寮へ荷物を置き、校門へ向かう。

そして、そのまま。


「行きますか」


「うん」


生徒会室へ。

日常が、また始まる。

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