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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第三章 俺×過去=探し出します。〜過去探索編〜
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77話 俺×花火=風情があります。

騒がしさは、そのまま家の中に持ち込まれた。


「お邪魔しまーす!」


「ちょ、靴くらい揃えて——」


玄関を開けた瞬間、赤坂の元気な声が先に飛び込んでくる。続いて白ヶ崎、葵、奏と次々に上がり込んでいき、あっという間に実家の空気が変わった。


「……なんでこうなるんだ」


小さく呟くが、止められるはずもない。


「まあまあ、いいじゃない。こんなに賑やかなの久しぶりだし」


奥から出てきた母親が、楽しそうに笑う。


事情を軽く説明すると、あっさりと頷かれた。


「いいわよ、泊まっていきなさい」


(いや断ってくれよ……)


心の中でだけ反論する。


「やったー!真守ママありがとう!」


赤坂が両手を上げて喜ぶ。


「ありがとうございます」


白ヶ崎も一応頭を下げるが、すでに靴を脱いで上がる準備は万端だった。


そのまま勢いよくリビングへ。


広い空間に、見慣れない人数が一気に集まる。

ざわざわとした空気、笑い声、足音。


——落ち着く暇がない。


そのとき。


「じゃーん!」


赤坂が、どこか得意げに袋を掲げた。

中から少しだけ覗くカラフルなパッケージ。


「花火大会、やろうよ!」


「……は?」


思わず間抜けな声が出る。


「え、今から?」


「うん!」


迷いがない。


「いや急すぎるだろ……」


真守の隣で、葵も少しだけ驚いたように目を瞬かせる。


「聞いてないんだけど」


「え?言ってなかったっけ?」


そんな中、白ヶ崎だけがニヤリと口角を上げた。


「……え、白ヶ崎さんは知ってたの?」


「……まあ」


そう言いながら、ちらっと荷物の方を見る。

少しだけ開いたバッグの中に、折り畳まれた布。


——浴衣。


「準備いいな」


「別に……普通でしょ」


そっぽを向く。


「え、咲音ちゃんだけ知ってたの!?」


赤坂が驚く。


「みんなに言ったつもりだったんだけどな〜」


「言ってませんよ……」


呆れた声。


そのやり取りを横目に。


「……浴衣、ね」


母親がふと思い出したように言う。


「真希那のが何着かあるから、よかったら使う?」


「え、いいんですか?」


葵が少し目を輝かせる。


「もちろん」


「じゃあお言葉に甘えて」


即答だった。


一方で。


「……借り物か」


奏が少しだけ眉を寄せる。


「いいじゃんいいじゃん!せっかくだし!」


赤坂が背中を押す。


「……仕方ない」


渋々といった様子で頷く。


「よし、じゃあ決まり!」


「私も着る!」


真希那が急にテンションを上げる。


「絶対似合うやつ選ぶから!」


「いや真希ねぇは別に——」


「うるさい!」


一蹴された。


そして。


「じゃあ着替えるから、まー君は外ね」


「は?」


「男子は立ち入り禁止」

「当たり前でしょ」

「早く行って」


背中を押される。

気づけばリビングから追い出されていた。


ドアが閉まる。


「……」


静かになった、はずなのに。

向こうからは、はっきりと声が聞こえてくる。


「ねえこれどうやって着るの!?」


「帯はこうして——ちょっとじっとして」


「え、胸のとこ余るんだけど」


「……あ、それ私も」


「ちょっと!なんで余るのよ!」


「知らな〜い、サイズの問題じゃない?」


「うるさい!」


笑い声が混ざる。


布が擦れる音。


バタバタと動く気配。


(……なんなんだよこの状況)


壁に寄りかかりながら、ぼんやりと天井を見上げる。

やけに長く感じる時間。でも、どこか心地いい騒がしさだった。


そして。


「——まー君、いいよ」


ドアが開く。


ゆっくりと顔を上げる。


「……」


言葉が、出なかった。


最初に目に入ったのは、赤坂。


明るい色の浴衣に、いつもの笑顔。動くたびに袖が揺れて、普段よりも少しだけ大人びて見える。


「どう!?似合う?」


「……ああ」


短くしか返せない。


その隣に、白ヶ崎。


落ち着いた色合いの浴衣。髪も少しだけ整えていて、いつもより柔らかい印象。視線が合うと、すぐに逸らされる。


「……なによ」


「いや……」


続けられない。


そして。


少し遅れて、葵が出てくる。


「……どう?」


静かな声。


真希那の浴衣を着ているはずなのに、不思議と違和感がない。むしろ——似合いすぎている。


普段の制服とは違う、柔らかい雰囲気。


それでも目だけは、まっすぐこちらを見ている。


「……似合ってます」


思わず出た本音だった。


「……そっか」


嬉しそうに小さく笑う。


その隣に、奏。


同じ浴衣でも、どこか落ち着いた雰囲気。静かに立っているだけで、空気が締まる。


「……見すぎ」


「見てない」


「見てる」


短いやり取り。


最後に、真希那。


「どう!?最高でしょ!」


一番テンションが高い。


「……なんで真希ねぇが一番楽しそうなんだよ」


「当たり前でしょ!」


笑い声が重なる。


そのまま。


もう一度、海へ向かう。


夜の海は、昼とはまったく違う顔をしていた。


波の音だけが響く静けさ。空には、ゆっくりと色を変える夕焼けの残り。


砂浜に座り、花火の袋を開ける。


「よし、やるよー!」


火が灯る。


パチパチと音を立てて、光が弾ける。


「危なっ!そっち向けるなって!」


「ごめんごめん!」


ロケット花火が変な方向に飛ぶ。


「ちょっと!こっち来た!」


「逃げろ!」


笑いながら、砂の上を走る。

騒がしくて、まとまりがなくて。

でも、楽しい。


やがて。


火が落ち着いていく。


最後に残ったのは——線香花火。


「これが一番いいよね」


赤坂がぽつりと言う。


小さな火が、静かに揺れる。誰も大きな声は出さない。ただ、隣にいる。


「ねえ」


不意に、真希那が口を開いた。


「まー君ってさ」


嫌な予感がする。


「この中で、一番誰が好き?」


「……は?」


空気が止まる。


全員の視線が集まる。


「え、いや、その……」


言葉が出ない。逃げ場もない。


「……みんな一緒だよ」


絞り出す。


その瞬間。


「はぁ……」


大きなため息が、綺麗に重なった。


「最低」

「最低だね」

「最低」

「……最低」


「なんでだよ!?」


最後の火が、静かに消える。

さっきまでの騒がしさが嘘みたいに、夜は静かだった。


帰り道も、家に着いてからも。

気づけば、みんな無言に近かった。


着替える気力もないのか、そのまま順番に崩れるように寝ていく。


リビングに、静かな寝息が重なる。


「……」


真守も、ソファに腰を下ろす。


さっきまでの光景が、頭の中でゆっくりと再生される。


浴衣。


笑い声。


花火の光。


「……」


目を閉じる。


騒がしい一日が、ようやく終わる。

そのまま、ゆっくりと意識が沈んでいった。


静かな夜だった。

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