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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第三章 俺×過去=探し出します。〜過去探索編〜
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75話 俺×回復=少しだけ前を向きます。

実家に帰ってから、一週間が経った。


真守はベッドに横になったまま、ぼんやりと天井を見ていた。カーテンの隙間から差し込む光が、ゆっくりと部屋の中を照らしている。時間の感覚は曖昧で、朝なのか昼なのかもはっきりしない。ただ、何もしていない時間だけが静かに積み重なっていた。


あの夜から、外に出ていない。


出る理由がなかったわけじゃない。ただ、足が向かなかった。あの公園で感じたものを、もう一度味わうかもしれないと思うと、無意識に体が拒否していた。


思い出したわけじゃない。けれど確実に“触れてしまった”感覚だけが残っている。


(……めんどくせぇな)


心の中で呟く。怖いわけではない。ただ、またあの状態になるかもしれないと思うと、一歩が踏み出せなくなる。


中学の頃は、こんなことはなかった。思い出そうともしなかったし、触れようともしなかった。だから何も起きなかった。それでよかったはずなのに、今回は自分から踏み込んでしまっている。


アルバムを見て、話を聞いて、思い出そうとしている。


(……戻れねぇな)


小さく息を吐いたときだった。


「まーくん!!」


ドアが勢いよく開く。


「いい加減出てきなさい!!」


「……うるせぇ」


「一週間も引きこもるとかダメでしょ!」


「引きこもってねぇよ」


「引きこもりです!」


即断だった。


「外行くよ!」


「いや——」


「行くの!!」


強引に話を切られる。


数分後、玄関で靴を履きながら、真守は呆れたように言った。


「なんで水着持ってんだよ」


「いつでも海行けるように!」


「今から行かねぇだろ」


「気分大事でしょ!」


「その気分がおかしい」


軽く言い合いながらも、結局外に出ることになった。


外の空気は思ったより軽かった。たった一週間ぶりなのに、少しだけ違って感じる。

歩き出すと、隣に真希那がいる。それでも、いつもより少しだけ距離を取っていた。無意識に距離を作っている自分に気づきながら、何も言わない。


真希那も、それを分かっているのか、無理に詰めてこない。ただ、その代わりに軽い会話を投げてくる。


「ねぇ、浮き輪どれにする?」


「いらねぇよ」


「形から入るのが大事なの!」


「泳げるからいらない」


「そういう問題じゃない!」


そんなやり取りをしながら店に入る。カラフルな商品が並び、どこか夏の匂いがした。

浮き輪やゴーグルを手に取りながら、どうでもいい会話を続けているうちに、胸の奥にあった重さが少しだけ薄れていくのを感じた。


帰り道、袋を持って歩く。空は少し傾き始めていて、昼よりも柔らかい風が吹いている。


そして、あの公園が見えた。


真守の足が、わずかに止まる。


意識していたわけじゃない。けれど気づけば、真希那のすぐ隣に寄っていた。


「……え」


真希那が一瞬だけ固まる。しかしすぐに状況を理解し、何も言わずに歩幅を合わせる。


真守は視線を逸らしたまま、そっと真希那の袖を掴んだ。


弱い力だった。それでも確かに、そこに頼っている。


(……やばい)


真希那の心臓が一気に跳ねる。顔には出さないが、内心は完全に崩壊していた。


「……大丈夫」


小さく呟きながら、守るように少しだけ前に出る。


そのまま、公園の前を通り過ぎる。何も起きない。ただ静かに、時間だけが流れていく。


やがて真守の呼吸が落ち着いていく。手の力が抜け、そっと袖から離れた。


「……あ」


その瞬間、真希那の中で何かが崩れた。


「なんで離すの!?」


「戻ったから」


「戻るな!!」


「意味わかんねぇよ」


「もうちょっと掴んでてよ!!」


勢いのまま抱きつく。


「うおっ!?」


「今のはチャンスだったのに!」


「何のだよ!」


「お姉ちゃん的なやつ!」


「雑すぎる」


なんとか引き剥がしながら歩き出す。


家に着く頃には、さっきまでの重さはかなり薄れていた。


玄関を開け、靴を脱ぐ。


「……疲れた」


「楽しかったでしょ?」


「まあな」


素直に答える。


部屋に戻り、ベッドに座る。買ってきた袋が視界に入る。


スマホの通知がきて画面を見る。

赤坂からの急な連絡。


『真守!せっかく夏休み貰えたんだから一緒に海に行くよ!咲音ちゃんもいるからよろしく!』


半ば強制的な文だった。


たまたま、赤坂の実家は真守の隣町だったため、真希那が事前に打ち合わせしていたらしい。その隣町は海がとても近く、遊ぶにはとても環境の良いところだった。

白ヶ崎とも連絡をとっており、真守の知らないところで話が進んでいた。


いつもなら気が進まないはずだが、"せっかくの夏休み"その言葉に少し流される。

気分転換は大事だと、自分に言い聞かせる。そう思った途端に面倒臭い感情より、楽しみな感情が勝ってきた。


海。赤坂。白ヶ崎。


頭の中に、これからの光景が浮かぶ。


(……楽しみだな)


自然とそう思えた。


さっきまでの重たい感覚とは違う、少しだけ軽い気持ち。

まだ全部は整理できていない。それでも、今はそれでいいと思えた。


「……まあ、いっか」


小さく呟き、そのまま横になる。


静かな部屋の中で、ほんの少しだけ前を向いた自分を感じながら、ゆっくりと目を閉じた。

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