表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第二章 俺×鐘の音=不幸が聞こえます。〜不幸の手紙編〜
PR
66/224

65話 俺×新体制=軽すぎませんか。

生徒会室の空気は、昨日とは違っていた。


いや、正確には——

同じように整っているのに、どこか“新しい”空気が混ざっている。


席に座りながら、真守は静かに周囲を見渡した。見慣れた顔ぶれの中に、いくつかの“知らない顔”がある。


それが、新生徒会。


「……」


胸の奥に、小さな違和感が残る。


祇園の姿は、やっぱりない。

昨夜の公園での出来事が、頭をよぎる。


泣いていた姿。

震えていた声。


——半分、辞めさせられたようなもの。


「……」


軽く息を吐く。


納得はしていない。むしろ、はっきりと嫌悪感があった。

あの会長のやり方に。


けれど——


それを口に出すほど、真守は愚かじゃなかった。


ここで何か言ったところで、何も変わらない。

それどころか、自分の立場が悪くなるだけだ。


だから、飲み込む。全部、心の中に押し込める。


「それじゃあ」


会長の声が、場の空気を切り替えた。


「新生徒会の顔合わせといこうか」


軽い調子。まるで何事もなかったかのように。


「まずは庶務から」


その一言で、一人の男子生徒が前に出る。

床を踏む音が、やけに重い。


「2年A組、山影(やまかげ) 武尊(たける)だ」


低く、よく通る声。


その姿は、三宝と並べても違和感がないほどの体格だった。肩幅が広く、腕も太い。制服の上からでも分かるほど鍛えられている。


「よろしく頼む」


短い。それだけなのに、妙な圧がある。


(……強そうだな)


単純な感想が浮かぶ。


隣に三宝がいるせいで、余計に“この学校どうなってるんだ”という気持ちになる。


「次は会計」


今度は、静かに一人の女子生徒が前に出た。


「2年A組、坂下(さかした) 絢音(あやね)です」


柔らかい声。


動きも無駄がなく、どこか品がある。


長い黒髪を揺らしながら、軽く頭を下げるその姿は、いかにも“お淑やか”という印象だった。


「よろしくお願いします」


それだけ。控えめな自己紹介。

けれど——


「……」


なぜか、ほんの少しだけ引っかかる。

表情は穏やかで、声も優しい。

なのに、その奥に何かが隠れているような。


(……気のせいか?)


すぐに思考を切る。

深く考えるほどの材料はない。


「続いて書記」


会長の言葉に合わせて、次の人物が前に出る。


「1年A組、黒ヶ峰姫花です」


その名前を聞いた瞬間。


「……え」


思わず声が漏れそうになる。


(黒ヶ峰……?)


顔を上げる。


そこにいたのは、間違いなく見覚えのある人物だった。


(なんでここに——)


一瞬だけ目が合う。


だが、黒ヶ峰は何事もなかったかのように視線を逸らし、凛とした表情のまま前を向いた。


まるで——

最初から他人であるかのように。


「よろしくお願いします」


淡々とした挨拶。それ以上も、それ以下もない。


「……」


真守は何も言わない。言えない。


(知らないふり、か)


それなら、こちらも合わせるしかない。


「そして」


会長の声。


「副会長」


その名前は、言うまでもなかった。


「2年A組、夢百合葵です」


一歩前に出る。

その立ち姿だけで、場の空気が少し引き締まる。


「改めてよろしくお願いします」


軽く、自然な口調。だが、その余裕は明らかだった。


もう“決まっている”人間のそれ。


「楽々浦くん、ちゃんと見ててね」


ちらりとこちらを見る。


「は、はい」


思わず背筋が伸びる。

敬語になる。それが自然だった。


「それじゃあ、以上だね」


会長が軽く手を叩く。


「各自、自分の担当の先輩について仕事を覚えていってくれ」


シンプルな指示。


だが、それだけで全員が動き出す。


山影は三宝の方へ。


坂下は神楽坂の元へ。


黒ヶ峰は池鶴の横へ。


「……」


流れが早い。無駄がない。


まるで、最初からこうなることが決まっていたかのように。

真守も動こうとした、その時。


「……ああ、そうだ」


会長が、ふと思い出したように声を上げた。


「楽々浦君」


「はい?」


名前を呼ばれそのまま、軽く手招きされる。


「ちょっと前に出てくれるかな」


「……え?」


意味が分からないまま、前に出る。

全員の視線が集まる。


(なんだこれ)


妙な緊張感。


「彼を紹介しておこう」


会長が穏やかに笑う。


「時期、生徒会長だ」


「……は?」


思考が止まる。


「この楽々浦真守君が、次の生徒会長になる予定だからね」


軽い口調。あまりにも軽く。


「え?」


「は?」


「……え?」


ざわつく空気。新メンバーたちの反応が一斉に揺れる。


当然だ。

当の本人が、一番理解していない。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


思わず声が出る。


「俺、そんな話——」


「大丈夫、大丈夫」


会長が軽く手を振る。


「向いてるよ、君は」


「いや、そういう問題じゃ——」


「だから、みんな」


会長が周囲を見る。


「優しくしてあげてね」


にこやかに言い放つ。

完全に決定事項だった。


「……」


空気が固まる。


山影が無言でこちらを見る。坂下が静かに目を細める。黒ヶ峰は——何も言わない。

葵だけが、少しだけ面白そうに口元を緩めていた。


「……はは」


会長が小さく笑う。

そして、真守の方に少しだけ顔を寄せる。


「逃げちゃだめだよ?」


囁くように。軽く、茶化すように。


「君ならできる」


その一言だけ残して、離れる。


「……」


背中に冷たいものが流れる。

冷や汗が止まらない。


(なんだこれ……)


状況が一気に変わりすぎている。


「楽々浦くん」


葵が声をかける。


「仕事、やるよ」


「あ、はい……」


反射的に返事をする。


「とりあえずこっち」


自然に手招きされる。

その流れに逆らえないまま、真守は葵の隣へと移動した。


資料を渡され、説明が始まる。


「ここはこうで——」


落ち着いた声。


分かりやすい。


けれど。


「……」


頭に入ってこない。

さっきの一言が、ずっと残っている。


——時期、生徒会長。


「……」


ふと、視線が空いた席に向く。


祇園の席。そこには、誰もいない。

その空白が、妙に大きく感じた。


「楽々浦くん、聞いてる?」


「は、はい!」


慌てて前を向く。


「ちゃんとやってよ?」


「すみません……」


軽くため息をつかれる。でも、そのやり取りすらどこか現実感がなかった。


新しい体制。


新しい役割。


そして——


自分に与えられた、理解不能な未来。全部が一気に押し寄せてくる。


「……」


それでも。止まることはできない。

流れは、もう動き出している。


(この先、どうなるんだよ……)


生徒会室の中で。


真守はただ、流されるようにその一歩を踏み出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ