表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第二章 俺×鐘の音=不幸が聞こえます。〜不幸の手紙編〜
PR
61/224

60話 俺×その後=何かがおかしいです。

サイレンの音が、少しずつ遠ざかっていく。

さっきまで張り詰めていた空気が、ゆっくりと緩んでいった。


「……終わった、のか」


真守はその場に立ったまま、小さく息を吐く。

足の力が抜ける。ようやく、実感が追いついてきた。


そのとき——


「……怖かった」


小さな声。

振り向くよりも先に、体に衝撃が走る。


「……っ」


葵が、そのまま真守に抱きついていた。


強く。


そして真守は逃げるように。


「……すみません、ちょっと」


言葉は冷静でも、手は離れない。

肩に顔を埋めるようにして、ぎゅっとしがみついてくる。


体温が伝わる。

震えも、はっきりとわかる。


「……大丈夫です」


真守は少し戸惑いながらも、静かに言った。


「もう、終わりましたから」


「……うん」


返事はあったが、離れる様子はない。むしろ、少しだけ力が強くなる。


その瞬間——


「ちょっと」


低い声が入る。


「離れて」


奏だった。


「今の状況でそれ必要?」


「必要」


即答。


「過剰接触」


「言い方」


葵が少しだけ顔を上げる。


「……少しくらいいいでしょ」


「よくない」


一歩踏み込む。


「離して」


「やだ」


「……」


一瞬の間。


そして、奏が無言で手を伸ばす。


「ちょっ」


引き剥がそうとする。


「ちょっと待って!」


「待たない」


軽く揉める。


その横で——


「え、え、え!?」


赤坂が完全に混乱していた。


「ちょっと何これ!?今そういう流れ!?」


「違います」


真守が即答する。


「違うの!?」


「違います」


「でも距離近くない!?」


「近いですけど違います」


「なにそれ!?」


会話がぐちゃぐちゃになる。

さっきまでの緊張が嘘みたいに、空気が崩れる。笑いそうになるくらい、普通だった。


けれど——


「……あれ」


真守の視線が、自然と周囲を探す。


違和感。


「神楽坂先輩は?」


誰も、答えない。

さっきまで、確かにいた。


なのに——


どこにもいない。


「……ちょっと行ってきます」


真守は短く言って、その場を離れた。


走る。


足音が廊下に響く。息が上がるが、それでも止まらない。


(なんでいない)


あの場で、いなくなる理由がない。


それなのに——


嫌な予感だけが膨らむ。


生徒会室の前に着き、扉を開ける。


「……」


中は静かだった。

そして。


「……来たのね」


一人。


アリスが、椅子に座っていた。

いつもと同じ、少し俯いた姿勢。


けれど——


空気が違う。


「……なんで」


真守は息を整えながら言う。


「なんで、あそこにいなかったんですか」


「……」


アリスはすぐには答えない。


「作戦は、成功した」


ぽつりと呟く。


「問題ない」


「問題あります」


即座に返す。


「全部、うまくいきすぎてる」


一歩近づく。


「なんで、あんなに正確なんですか」


「……」


「襲われる場所も、タイミングも」


言葉が少し強くなる。


「なんでわかるんですか」


「……」


沈黙。


そして——


「全部、知ろうとしない方がいい」


アリスの声が、落ちる。いつもと違う。少し低く、重い。


「……は?」


「楽々浦くん」


ゆっくりと顔を上げる。

その目が、真っ直ぐに向く。


「それ以上、踏み込まない方がいい」


「なんでですか」


「あなたのため」


「納得できません」


即答だった。


「じゃあ何ですか」


さらに踏み込む。


「全部知ってるって言ってたの、あれなんなんですか」


「……言い過ぎたって言ったじゃん」


「じゃあ今のはなんですか」


「……」


一瞬の間。


「知らない方がいいこともある。ただそれだけ」


「……」


空気がぶつかる。

静かに。けれど確実に。


「……ふざけないでください」


真守の声が、少しだけ揺れる。


「こっちは——」


言葉が止まる。

感情が先に出る。


「……」


アリスは、何も言わない。

ただ見ている。その視線が、逆に重かった。


「……もういいです」


小さく吐き出す。

それ以上、言葉が続かなかった。


「……失礼します」


背を向けてそのまま、生徒会室を出た。

廊下は少しだけ冷たい空気だった。作戦は成功したはずなのに、解決はしていないような感覚になる。


真守は頭を振り、悪いことは考えないようにと歩き出したその時。


「……やあ、楽々浦君」


声がかかり、振り向く。そこには、いつもの穏やかな表情をした会長がいた。


「……会長」


「お疲れ様」


ゆっくりと近づいてくる。


「今回の件、よくやってくれたね」


柔らかい声。


「警察の方でも、男たちの身元はすぐに確認されるだろうし、主犯もすぐ捕まるさ」


「……そうなんですか」


「うん」


軽く頷く。


「だから、同じようなことは起きないはずだ」


その言葉は、どこか安心感があった。


「……そうですか」


「僕からも警察に話をするから、警備体制とかも今まで以上に厳しくしてもらうようにするよ」


真守は小さく息を吐く。


「……ありがとうございます」


素直に、そう言えた。


「いいんだよ」


会長は微笑む。


「君たちが頑張ったから、僕も役に立ちたくてね」


優しい声。穏やかな空気。

さっきまでの重さが、少しだけ薄れていく。


「……助かります」


真守は最後に軽く頭を下げ、そのまま歩き出す。


背中越しに感じるのは——


いつも通りの、日常の気配。


けれど。


心の奥に、何かが引っかかっていた。

それが何なのかは、まだわからないまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ