5話 俺×クラス委員=犠牲になりました。
うっ……
イニアナガアキソウダ。
ストレスのせいだろう。こんなにも早く学校が終わって欲しいと思ったことはない。
なぜ、こんなにも追い込まれてるかって?
入学式当日に、まさか『クラス委員』を決めるとは思わないからだ。
『クラス委員』とは、クラスをまとめる存在。それを男女から各1名ずつ選出する。主な仕事は学校全体の行事に全て参加し、職務を全うするというものだ。災難の宝庫と言っておかしくない役職だ。
せめて明日なら俺は存在を消す能力を使い、その場を乗り切る予定だった。だが、よりによってなぜ今日なのだ!この、俺が晒し者にされている日になぜ!?
「えっーと、クラス委員を決めたいんだけど、誰かやりたい人いますか?」
担任は軽い口調で淡々と事を進めていく。
てか、今思ったんだが、俺は担任の名前を知らない。まぁ、きっと俺が学校をさまよっているときに担任の自己紹介はすでに終わっていたのだろう。
「なぁなぁ」
嫌な声が後ろから聞こえる。
「聞こえない、聞こえない、聞こえないーー、
呪文のように唱える。人間って不思議だ。頭の中で考えていることは微かであるが現実になる。妄想などの思い込みで簡単に脳が自由に組み立ててくれるのだから。
「おい、聞こえてるだろっ!」
だが、神宮丸には通用しなかった。
「なんだよ、また騒いでると担任に怒られるぞ」
俺は小声で返す。こんなところまた怒られてみろ。更に担任からのマークが厳しくなるだけだ。
「すまんすまん、それじゃ、単刀直入に言わしてもらうが、クラス委員はお前がやれ!」
「はぁ!?」
意味の分からない発言で、思わず大声を出してしまう。
「そこうるさい!って、また楽々浦君なの?本当にあなたは世話の焼ける人ね」
「す、すみません!」
話が読めなさすぎる。まず、お前に俺をクラス委員にさせる権限はないだろ!?
てか、案の定また怒られたし……
「俺は絶対にやらない、これ以上の災難はこりごりだ」
「でもよ、お前の評価を上げるチャンスでもあるんだぞ!」
確かにそうかもしれない。ここでみんなが嫌がる役職を率先して引き受けることで、俺に対する評価が少しはマシになるかもしれない。だが、仮に俺が選ばれたとしたら、相方の選出に困るだけだ。
こんな晒し者と仕事をしたいなんて思うやつ他にいないだろ。
「あのな、俺がやったとして、俺と一緒にクラス委員になりたい奴がいると思うか?」
「それは、なってみないと分からないんじゃないか?」
「た、確かにそうだけどさ……」
教室に沈黙が訪れる。もちろん誰も立候補などせず、みんながみんなお互いの顔色を伺っている。
その時、こんな沈黙を破るものがいた。それはこの教室で一番偉い存在、そう、担任だった。
「それじゃ、男子は楽々浦君でいいかしら?」
「えっ、お、俺スカ!?」
急に喋り出したと思ったら、この担任、とんでもないこと言いやがった。
「先生賛成でーすっ!」
ここで神宮丸登場。
「お前、俺はやるなんてまだ言ってないからな!」
俺は神宮丸に体を向け、威嚇のポーズをとる。その瞬間、背後から冷たい言葉が俺を凍りつかした。
「あら、あなたに断る権利があるかしら?」
「うっ……」
俺は何も言い返すことなどできなかった。
だって、入学式をすっぽかしたんだから。てか、そんなに罪が重いものなのか、入学式をすっぽかすことって。
「それと、女子は白ヶ崎さんでいいかしら」
「えっ、私ですか!?」
「ま、まじかよ……」
し、白ヶ崎だって!?ありえない、ありえないよこの展開!
「どうなの白ヶ崎さん」
担任は白ヶ崎に視線を移す。
周りの生徒たちは担任に顔を合わせないように下を向いている。
ここぞとばかりに白ヶ崎を売るなんて、最低なクラスだな。
いや、まだ顔を合わせて間もないクラスだ。慈悲なんて言ってられる場合じゃないか。
「あの、先生。私がなぜ選ばれたのか理由をおっしゃってください」
白ヶ崎が対抗する。担任をその冷たい目で見つめ、威嚇している。
そんなに俺とクラス委員やりたくないのかよ……
「あなたは特待生組の女子なんだから、クラス委員は適任だと思うのだけれど」
えっ、ちょっと待てよ。特待生組だから選ばれたのか?だったら俺じゃなくて石井が選出されるべきだと思うが。
「ちょっと待ってください、だったら『ゴミ』……じゃなくて、楽々浦君ではなく石井君が選出されるべきです」
まさに俺が思っていたことを言っている。
てか、今『ゴミ』って言わなかったかこいつ。
「だったんだけどね、どうしても楽々浦君がやりたいって言ってるから」
言ってねぇっつーの!
なんなら、俺だって石井に全て丸投げしたいさ。
「あのー、俺は別にやらなくてもいいので石井君に譲りたいと思いま――、
――ギロっ……
つい言葉が詰まってしまった。
すごい睨みだ。ドスが効いてるというか、担任の目つきは、なぜか白ヶ崎に似ている気がする。
「楽々浦君、やるわよね?」
笑顔で威圧。怖すぎる、怖すぎるよ……
「はい、やります……」
諦めた。負けた。もう受け入れるしか選択肢はない。
「それと、白ヶ崎さんもいいわね?」
「だから……もうっ!いいわよ、私がクラス委員を引き受けるわ」
さすがの白ヶ崎でも担任の押しに負けたか。ここは突っ張って欲しかったところでもあるが、仕方ない。あの担任怖いんだもん……
こうしてクラス委員は、犬猿の仲?の二人に決まった。