表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第二章 俺×鐘の音=不幸が聞こえます。〜不幸の手紙編〜
PR
55/224

54話 俺×静かな違和感=少しだけ気づき始めています。

あれから、何も起きないまま、一週間が過ぎようとしていた。

あまりにも、静かすぎる日常。それが逆に、どこか落ち着かない。


「……はぁ」


真守は、生徒会室で小さく息を吐いた。

ここ数日、毎日のように三宝の“仕事”を手伝っている。


呼び出し、確認、選定——そして制裁。


「楽々浦、次はこいつや」


「……はい」


淡々と資料を受け取る。

慣れてきたとはいえ、さすがに少しだけうんざりしていた。


ただ、


(……あれ)


ひとつだけ、引っかかることがある。


「三宝先輩」


「なんや」


「制裁受けた人って……全員退学じゃないんですね」


「ん?」


三宝は軽く笑う。


「そらそうやろ。内容次第や」


「……そうなんですね」


思っていたよりも、極端ではない。


すべてが終わるわけじゃない。


(……じゃあ、この役割って)


そこで、ふと気づく。

自分がやっているのは、


「選んでる……だけか」


ぽつりと呟く。

処分の重さを決める、その判断材料。その一部を担っているだけ。


「……」


その違和感を抱えたまま、真守は会長の方へ向いた。


「会長」


「どうしたのかな、楽々浦くん」


穏やかな声。


「この仕事……俺じゃなくてもいいんじゃないですか」


静かに言う。


「他の人がやるべきだと思います」


一瞬、空気が止まる。

けれど、


「いいや」


会長はすぐに首を横に振った。


「君じゃなきゃダメなんだ」


柔らかい声音。

だが、その言葉には迷いがない。


「……なんでですか」


「君はね、偏らない」


ゆっくりと続ける。


「感情に流されず、誰に対しても同じ距離で見れる」


「……」


「だからこそ、線引きを任せられる」


静かに微笑む。


「適任なんだよ、楽々浦君」


「……わかりました」


完全には納得しきれない。

それでも、小さく頷いた。


そのとき——


(……なんでだ)


別の疑問が浮かぶ。


(この学校……)


問題が、多すぎる。

真守が口に出す前に、


「この学校はね」


会長が先に口を開く。


「マンモス校だからだよ」


「……え」


思考を読まれたようで、少し驚く。


「人数が多ければ、それだけ問題も増える」


「……」


「表で処理しきれない分を——僕たちが裏で処理している」


静かな説明。


「……なるほど」


納得せざるを得なかった。


「だから、君の役割も必要なんだ」


「……はい」


短く返す。

そのとき。


「会長」


落ち着いた声が入る。

振り向くと、池鶴が書類を持って立っていた。背筋を伸ばし、きちんとした姿勢。


「今月の学級だよりが完成いたしました。ご確認をお願いいたします」


丁寧な口調で差し出す。


「ほう」


会長がそれを受け取る。

ぺらり、とページをめくる。一枚一枚、しっかりと目を通していく。


数秒の沈黙。


「……うん」


満足げに頷いた。


「よくできている。合格だ」


「ありがとうございます」


池鶴は深く頭を下げた。


「引き続き、改善点があれば反映いたします」


「頼もしいね」


会長が軽く微笑む。


「楽々浦君も見るといい」


「あ、はい」


真守は書類を受け取る。

内容に目を通す。行事、部活動、日常の出来事。丁寧にまとめられている。


だが——


(……あれ)


指が止まる。


(……ない)


どこにも書かれていない。

上高の件。あれだけの出来事。

クラスも、学校も巻き込んだはずの問題。


(……なんで)


まるで、存在しなかったかのように。


「……」


小さな違和感が、胸に残る。


「どうかしたのかな?」


会長の声。


「……いえ」


一瞬、言いかけてやめる。


「なんでもないです」


軽く笑って、誤魔化した。


今はいい、そう判断する。

すると、


「では、ちょうどいい」


会長が言う。


「新しい仕事を頼もうか」


「え?」


「校内の見回りだ」


視線が移る。


「神楽坂君と一緒に行ってくれ」


「……はい」


真守は頷く。

部屋の端で、おどおどしていた少女、アリスが、小さく頭を下げる。


「よ、よろしく……お願いします……」


消え入りそうな声。


そして、言われた通りに真守はアリスと二人で見回りに行く。

廊下は、静かだった。放課後の空気が、ゆっくり流れている。


「えっと……こっち、です……」


アリスが小さな声で先導する。


「はい」


その後ろを歩く。


「……」


妙な気配がし、振り向くと、少し距離を取って、葵がついてきていた。


「……どうしてついてきてるんですか?」


「んー……なんとなく、かな」


葵はやわらかく笑う。


「邪魔、だった?」


優しい声。


「いえ、そんなことないです」


少しだけ慌てて否定する。


「ならよかった」


それ以上は何も言わない。

ただ、静かについてくる。


「……」


少し不思議な空気のまま、前を向く。


「神楽坂先輩」


「は、はいっ……!」


アリスの肩がびくっと跳ねる。


「前に言ってたことなんですけど」


「……え?」


「黒ヶ峰さんは違うって」


その言葉にアリスの足が止まる。


静寂。


ゆっくりと振り向く。

夕陽が、その表情を赤く染める。


「……あのね」


小さな声。

おどおどしたまま。それでも、どこか違う。


「私……全部、知ってるの」


ぞくり、とした。

空気が、わずかに変わる。


何かを知っている。

何かを隠している。


そのままそれ以上は、何も語られなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ