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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第二章 俺×鐘の音=不幸が聞こえます。〜不幸の手紙編〜
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53話 俺×日常の再開=少しだけ救われる気がします。

自室。

ベッドに腰を下ろしたまま、真守はぼんやりと天井を見上げていた。静かな時間。

けれど、その静けさが逆に落ち着かない。


「ねぇ、真希ねぇ」


少しだけ間を置いて、声をかける。


「んー?」


すぐ隣から、間延びした声が返ってくる。


気づけば、距離がやけに近い。真希那は、いつの間にかベッドの上にいて。当然のように、すぐ横にいた。


「前にさ、視線感じるって言ってたじゃん」


「あー、言ったねぇ〜」


ころん、と寝転がりながら笑う。


「今日はどうなのかなって」


少しだけ真面目な声。


「心配してくれてるの?まーくん」


にやり、と悪戯っぽい笑み。


「……普通に確認してるだけ」


「ふーん?」


じり、と距離が詰まる。


「優しいな〜まーくんは」


「ちょ、近いって」


肩が触れる。

いや、普通にくっついている。


「別にいいじゃん」


「よくない!」


真守は慌てて体を少し離す。けれど、真希那はどこか楽しそうで。


「……で、どうなんだよ」


少し強引に話を戻す。


「んー」


わざとらしく考える仕草。


「今日はね、特に何も感じないかな」


「……そっか」


その一言で、ふっと力が抜けた。胸の奥にあった、見えない緊張がほどけていく。


「なーんだ、そんなに心配してたの?」


「してないし」


即答。


「してたでしょ」


「してない」


「してたって顔してる」


「してないって!」


やり取りに、少しだけいつもの空気が戻る。

くすくすと笑う真希那。


「まあ、何も起きてないならよかったよ」


真守は小さく息を吐いた。


「ふふ、ありがとね、まーくん」


その言い方がやけに優しくて、少しだけ調子が狂う。


「……別に」


視線を逸らす。

それを見て、真希那はまた笑った。


その後、真守は白ヶ崎の部屋へ向かった。ドアの前で一度立ち止まる。

軽く息を整えてから、インターホンを鳴らす。


「白ヶ崎さん……調子どう?」


インターホン越しに、静かに声をかけた。


「あ……真守くん」


ベッドから身体を起こし、白ヶ崎がドアを開け微笑む。

その表情は、以前よりもずっと柔らかかった。

けれど、どこかまだ繊細で、壊れそうな危うさも残っている。


「うん、だいぶ良くなってきたよ」


そう言って、自分の腕に巻かれた包帯に軽く視線を落とす。まだ痛々しさは残る。

けれど、確実に回復しているのがわかった。


「そっか……よかった」


真守は部屋に入り白ヶ崎の横に座る。

少しだけ距離を詰めて、様子をうかがう。


「まだ怖い?」


あえて、やわらかく聞く。

白ヶ崎は一瞬だけ視線を揺らしてから、ゆっくり頷いた。


「……少しだけ、ね」


その答えは、正直だった。


「そっか」


否定も、無理な励ましもしない。


「無理しなくていいからね」


落ち着いた声で、そう言う。


「うん……でもね」


白ヶ崎は小さく息を吐いた。

その仕草は、どこか決意を含んでいて。


「思ってたより、大丈夫かも」


「……ほんと?」


自然と聞き返す。


「うん。真守くんが……」


少しだけ言葉に詰まる。けれど、逃げずに続ける。


「ちゃんとそばにいてくれるから」


まっすぐな言葉だった。


取り繕っていない、本音。


「……」


一瞬、言葉に詰まる。


「そっか」


それでも、少しだけ笑って返す。


「ならよかった」


白ヶ崎も、ほっとしたように微笑んだ。


「うん」


そして、少し間を置いてから。


「明日から、学校行こうと思うの」


「……え」


思わず声が漏れる。

予想より、少し早い。


「大丈夫なのか?」


無意識に心配が先に出る。


「赤坂先輩がね、護衛してくれるって言いに来てくれたの」


白ヶ崎は安心したように言った。


「登下校も一緒にって」


「そっか……赤坂先輩が」


納得する。それなら、少なくとも危険は減る。


「念の為、俺は一応、別行動になるけど」


少しだけ、間を置いて言う。


「うん、それがいいと思う」


白ヶ崎は迷いなく頷いた。


「真守くんまで狙われたら、嫌だし」


その言葉に、少しだけ胸が温かくなる。


「……ありがと」


短く返す。


照れを隠すように、少し視線を逸らした。


「じゃあ、明日だね」


軽く言う。


「うん、明日」


そのやり取りは、自然で。

少しだけ、いつもの距離に戻っていた。



翌日、教室。


扉を開けた瞬間——

いつものざわめきの中に、ひとつだけ違う景色があった。


「……あ」


自然と目が留まる。


「白ヶ崎さん!」


気づいた瞬間、足が動いていた。


「真守くん」


白ヶ崎がこちらを見て、少し驚いたように笑う。その姿が、教室にある。

それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「来れたんだね」


言葉にしながら、改めて実感する。


「うん……まだちょっと怖いけど」


小さく答える。

けれど、その表情はしっかり前を向いていた。


「でも、来てよかった」


「そっか」


自然と頷く。


「ありがとね、真守くん」


ふいに言われる。


「え?」


少しだけ驚く。


「ここまで来れたの、真守くんのおかげだから」


やわらかく、でもはっきりとした声。


「……俺は何もしてないよ」


照れ隠しのように返す。


「そんなことないよ」


優しく否定される。

その空気は、穏やかで、どこか特別だった。


そのとき。


「おーい」


後ろから、軽い声が割り込む。


「お前ら、なんかいい雰囲気じゃん」


振り向くと、神宮丸がニヤニヤしていた。


「もしかして付き合ってんのか?」


「……は?」


一瞬、思考が止まる。

その直後——


「はあ!?何言ってんの!?」


白ヶ崎の声が響いた。

空気が一変する。


「こんなやつとどこがいい雰囲気なの!?」


さっきまでの柔らかさは、完全に消えていた。


「ありえないんだけど!」


いつもの調子。

少し強気で、遠慮のない言い方。


「……」


それを見た瞬間。


「……はは」


思わず、笑いが漏れる。


胸の奥にあった何かが、ほどけていく。


そして——


「……っ」


視界が、にじんだ。


「……え?」


神宮丸が目を丸くする。


「お前、なんで泣いてんの」


「え」


自分でも、よくわからない。

頬に触れると、確かに涙があった。


「ち、違っ……!」


白ヶ崎が慌てる。


「別にそういうつもりで言ったんじゃ……!」


「いや」


真守はゆっくり首を振る。


「いいんだ」


少しだけ、笑う。


「なんか……嬉しくてさ」


その一言で、空気が少しだけ緩む。


白ヶ崎はきょとんとして、それから少しだけ視線を逸らした。

照れたように、小さく笑う。


その表情を見て——


真守は、もう一度思う。


ちゃんと戻ってきたんだと。


日常が。

この場所が。


少しだけ、前に進んでいた。

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