44話 俺×作戦=予想外の展開です。
「赤坂先輩ッ!!!」
真守の叫び声が、夕暮れの道路へ響いた。
その瞬間、覆面の男たちが一斉に赤坂へ向かって走り出す。
「……っ!」
真守は考えるより先に体が動いていた。
危ない。
まただ。また、自分のせいで誰かが壊される。
その恐怖だけが頭を埋め尽くしていた。
「楽々浦くん、待って!!」
後ろから葵の声が聞こえる。
さらにアリスの焦った声も重なった。
「危険だよ……! 今飛び出したら……!」
でも、真守は止まれなかった。
全力で道路を駆け抜ける。男たちとの距離が一気に縮まる。
赤坂は突然こちらへ向かってくる真守を見て、驚いたように目を丸くした。
「え……? 真守?」
「先輩、下がって!!」
真守は赤坂の前へ飛び込む。
同時に。
覆面の男の拳が飛んできた。
「っ!!」
頬へ衝撃。
視界が揺れる。
次の瞬間には腹へ蹴りが入った。
「ぐっ……!」
息が詰まる。
だが、倒れない。真守は必死に赤坂を庇うように立つ。
「真守!?」
赤坂の声が震える。
覆面の男たちは躊躇がなかった。
まるで最初から真守ごと潰すつもりだったみたいに、四人が一斉に襲いかかってくる。
拳。
蹴り。
肘。
次々と衝撃が飛んでくる。
「ぐぁっ……!」
背中へ強い衝撃。
真守はよろけながらも、赤坂を後ろへ押した。
「先輩……逃げて……!」
「でも……!」
「いいから!!」
その時だった。
赤坂へ向かっていた男の一人が、突然横へ吹き飛んだ。
「……え?」
真守の動きが止まる。
男が地面へ転がる。
周囲も一瞬固まった。
次の瞬間——
「っ!?」
別の男の顔へ、鋭い回し蹴りが叩き込まれる。
鈍い音。
男が崩れ落ちた。
真守は目を見開く。そこにいたのは、赤坂だった。
「……え?」
赤坂の雰囲気が変わっていた。いつもの明るい笑顔じゃない。
真剣な目。低い姿勢。洗練された構え。
その瞬間、三人目の男が殴りかかる。
だが、赤坂は最小限の動きでそれを避ける。そして、肘打ち。
「がっ……!?」
男が呻き声を上げる。
続けて掌底。喉元へ綺麗に入る。
男が膝から崩れ落ちた。
「……」
真守は呆然としていた。
強い。それも、想像を遥かに超えて。
赤坂は迷いなく動いていた。無駄がない。まるで、こういう状況へ慣れているみたいに。
「真守! 下がって!」
赤坂が叫ぶ。
真守は反射的に後ろへ下がった。
次の瞬間。
最後の男がナイフを取り出そうとする。だが、その前に赤坂の蹴りが腹へ突き刺さる。
「っぐぁ!?」
男が吹き飛び、地面へ転がった。
静寂。
数秒前までの乱闘が嘘みたいだった。
「……はぁ……」
赤坂が小さく息を吐く。
夕陽が、その横顔を照らしていた。
真守は完全に固まっている。
「……え?」
頭が追いつかない。
なんで赤坂がこんなに強いのか。
いつもの小柄で明るい先輩から、まったく想像できなかった。
その横で、アリスが素早くスマホを取り出していた。
「も、もしもし警察ですか!? い、今すぐ来てください……!」
声は震えている。
でも、行動は早かった。
場所を説明しながらも、アリスの目はずっと周囲を警戒していた。
「車がまだいます……!」
その言葉で真守もハッとする。
黒い車。
まだエンジンが動いていた。
倒れた男たちを見て、残りの人間が慌てて車へ乗り込もうとしている。
その瞬間。
真守は気づいた。
「……っ!」
車内、運転席の後ろ。そこに、別の人影がいた。
襲ってきた男たちとは違う。もっと細いシルエット。
まるで、状況を確認しているみたいに静かに座っている。
(……あいつが主犯か!?)
真守の心臓が跳ねる。
次の瞬間には走り出していた。
「待てッ!!!」
全力で車へ向かう。
だが。
ブォンッ!!
エンジン音。
黒い車が急発進する。
「っ……!!」
真守は必死に追いかける。だが距離は一気に離れていく。
タイヤが道路を擦る音。そして、そのまま車は角を曲がり消えていった。
「はぁ……っ、はぁ……!」
真守はその場で立ち止まる。
悔しかった。あと少しだった。
顔さえ見えれば。何か分かったかもしれないのに。
「真守!」
後ろから赤坂の声が聞こえる。
真守は息を切らしながら振り返った。
赤坂が駆け寄ってくる。
「大丈夫!? 怪我してない!?」
「いや……俺は……」
真守は赤坂を見つめる。
「それより、先輩……」
まだ頭が整理できていない。
「なんで……あんなに強いんですか……?」
赤坂は「あっ」と気まずそうな顔をした。そして、少し照れくさそうに頭を掻く。
「実は……空手やってるの」
「空手……?」
「うん。小さい頃からずっと」
赤坂がえへへ、と笑う。
「しかも結構強いよ? 一応、全国レベルって言われたりもするし!」
「全国……?」
真守は完全に固まる。
「真守、顔すごいことになってるよ?」
「いや、だって……」
想像と違いすぎる。
いつも明るくて、小柄で、元気で。そんな赤坂が、まさか武道の達人レベルだったなんて。
赤坂は少し頬を赤くした。
「でも……」
視線を逸らしながら、小さく笑う。
「真守が飛び出してきてくれたから、ちゃんと対応できたよ」
「……」
「ありがとう」
その笑顔が眩しかった。
真守は何も言えなくなる。
そこへ、アリスも近づいてきた。
「み、みんな無事でよかった……」
安心したのか、少し涙目になっている。
葵も駆け寄ってきた。
「楽々浦くん! 急に飛び出すから心臓止まるかと思った……!」
「……すみません」
真守が苦笑する。
その時だった。
地面へ倒れていた男の一人が、突然叫び出した。
「俺は関係ねぇ!!」
「……!」
全員の視線が向く。
男は顔を歪めながら叫ぶ。
「命令されたんだ!! あの女に!!」
「……女?」
真守の背筋が凍る。
頭の中に、一瞬でいくつもの顔が浮かんだ。
「……」
真守の呼吸が浅くなる。
夕暮れの空気が、急に冷たく感じた。
この事件は、まだ終わっていない。
むしろ。
もっと深い“何か”が、確実に近づいてきている気がした。




