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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第二章 俺×鐘の音=不幸が聞こえます。〜不幸の手紙編〜
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41話 俺×教室=少しの違和感があります。

生徒会室を出た頃には、空はすっかり暗くなっていた。


真守は肩を回しながら、ゆっくり帰り道を歩く。祇園を途中まで送ったあと、一人になってからも、さっきの会話が頭から離れなかった。


考えれば考えるほど、胸の奥が重くなる。


真守は小さく息を吐き、家の前まで辿り着いた。


玄関を開けた瞬間——


「まー君、おかえり〜!!」


勢いよく真希那が飛び出してきた。


エプロン姿のまま、満面の笑みで突進してくる。


「うわっ!?」


避ける暇もなく抱きつかれ、真守は後ろへよろけた。


「ちょ、真希ねぇ!?」


「えへへ〜、今日も生徒会お疲れ様〜!」


ぎゅうっと首に腕を回される。


柔らかい匂いと体温が一気に近づいてきた。


「またすぐくっつくなよ……今日はほんと疲れてるんだって」


真守が呆れ気味に言うと、真希那は頬を膨らませる。


「えー!? お姉ちゃんの愛情表現を拒否するなんて冷たい!」


「いや、距離感がおかしいんだよ毎回」


「だって、まー君不足だったんだもん」


「毎日会ってるだろ……」


「気持ちの問題なの!」


意味が分からない。


真守は呆れながらも、小さく笑ってしまう。


このやり取りをしている時だけは、嫌なことを少し忘れられた。


真希那は真守の腕を引っ張りながら、楽しそうに言う。


「今日はハンバーグだよ! まー君の好きなやつ!」


「……だから特別感出してるけど、それ割と頻繁に出るからな?」


「愛情がいっぱい入ってるから毎回違うの!」


「そういう問題じゃないだろ……」


リビングへ入る。


暖かい匂い。


明るい照明。


テレビの音。


さっきまでいた生徒会室とは、まるで別世界だった。


真守は少しだけ肩の力を抜きながら椅子へ座る。


「いただきます」


「はい、召し上がれ〜♪」


真希那は嬉しそうに向かいへ座った。


夕食の時間は、他愛もない会話ばかりだった。


学校の話、スーパーの安売りの話、近所の猫の話。そんな普通の会話をしながら、真守はぼんやりと思う。


(……普通って、こんな感じだったよな)


ここ最近、濃すぎることばかり起きていた。


だからこそ、この時間が妙に安心できた。


真希那がハンバーグを切りながら、ふと思い出したように言う。


「そういえば、もうすぐ夏休みだね」


「……あー」


「今年は実家帰ろうよ。ママも絶対喜ぶって」


真守はフォークを止めた。


夏休み。


そんな時期か。


「でも、生徒会あるんだよな……」


真守がぼそっと言う。


「夏休みも普通に活動するみたいだし」


真希那は露骨に嫌そうな顔をした。


「えぇ〜、ブラック企業じゃん」


「学校だからな?」


「そんなの適当に休めばいいの!」


「軽いな……」


真希那は真顔で頷く。


「“家族の事情です”とか、“体調悪いです”とか言えばいけるって!」


「それ絶対ダメなやつだろ」


「まー君最近頑張りすぎなんだもん。少しぐらいサボったってバチ当たらないって」


真守は苦笑する。


でも、その言葉は少しだけ嬉しかった。


「……まぁ、考えとくよ」


「うんうん、それがいい!」


真希那は満足そうに笑った。


その夜。ベッドへ入った真守は、天井を見つめていた。


部屋は暗い。静かだった。


ふと、机の引き出しを思い出す。


真守はゆっくり起き上がり、そこから例の手紙を取り出した。


【これ以上大切なものを奪うのなら、

 お前の大切なものを一つずつ壊していく】


「……」


何度見ても気味が悪い。


真守は小さく息を吐く。


胸の奥がざわついた。


「……考えすぎか」


そう呟き、真守は無理やり目を閉じた。


だが、その不安は消えなかった。


そして——


手紙の事件から二週間後。


教室へ入った瞬間、真守は違和感を覚えた。


「……あれ?」


視線が自然と一箇所へ向く。


神宮丸の席が空だった。


「……」


一日だけじゃない。


ここ一週間、ずっと休んでいる。


最初は「またサボってるのか?」くらいに思っていた。


でも。


神宮丸は意外と真面目だ。


あいつが一週間も連続で休むなんて、今まで一度もなかった。


「……」


教室の空気も少し変だった。


誰も神宮丸の話をしない。まるで、その話題に触れたくないみたいに。


真守はゆっくり席へ座る。


胸の奥に、小さな不安が広がっていった。


(……何かあったのか?)


その日は結局、神宮丸は来なかった。


次の日。朝のホームルーム直前、教室のドアが開いた。


「……」


神宮丸だった。


だが。


姿を見た瞬間、真守は目を見開く。


頭に包帯、顔色も悪い。歩き方も少し不自然だった。


「おい!」


真守は反射的に立ち上がる。


「神宮丸! 大丈夫か!?」


教室の空気が少しざわつく。


真守はすぐに神宮丸のところへ向かった。


「一週間も休んでたじゃねぇか! 何があったんだよ!」


神宮丸は一瞬だけ真守を見る。


でも。


すぐに視線を逸らした。


「……別に」


声が暗い。


いつもの明るさが全然ない。


「いや別にじゃねぇだろ、その包帯どうしたんだよ」


「……転んだだけ」


「絶対嘘だろ」


真守が詰め寄る。


だが、神宮丸はそれ以上何も言わなかった。


そのまま真守を避けるように、自分の席へ向かう。


「……」


真守はその背中を見つめる。違和感しかなかった。


神宮丸が、自分を避けている。あの神宮丸が。意味もなく絡んできて、くだらない話をしてくるあいつが。


今はまるで、真守と距離を取ろうとしている。


「……なんだよ」


胸の奥がざわつく。


その時だった。


ふと、別の席が目に入る。


白ヶ崎の席。


「……」


そこも空だった。


真守の表情が固まる。


(そういえば……)


白ヶ崎も、一週間来ていない。


最初は風邪かと思っていた。


でも、連絡がない。


学校でも誰も詳しく話さない。


神宮丸。


白ヶ崎。


二人とも、急に学校へ来なくなった。


そして今、神宮丸は明らかに何かを隠している。


「……」


真守の背中に、冷たい感覚が走る。


あの手紙。


【お前の大切なものを一つずつ壊していく】


その文字が脳裏に浮かんだ。


「……まさか」


心臓が嫌な音を立てる。


教室の喧騒が、急に遠く聞こえた。

何かがおかしい。確実に、何かが起きている。

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