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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第一章 俺×春=新しい出会いが待っています。〜新生活編〜
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35話 俺×帰り道=少しだけ優しいです。

クタクタだった。


校門を出た瞬間、真守は小さく息を吐く。今日一日だけで、何回精神を削られたのか分からない。


「……疲れた」


自然と独り言が漏れる。


夕方の風が少し冷たい。それが逆に気持ちよかった。


ぼんやり歩いていると、少し前方に見覚えのある後ろ姿が見えた。


黒いロングヘアー。細い背中。どこか近寄りがたい空気。


「……黒ヶ峰」


黒ヶ峰姫花。A組の特待生。学校でも有名な存在だ。頭が良くて、美人で、でも近寄りがたい。


そんな印象の女子だった。


真守は何となくその背中を見ていた。


すると、黒ヶ峰がこちらに気づいた。


一瞬だけ、目が合う。赤い瞳が、ほんの少しだけ揺れた気がした。


だが次の瞬間。


黒ヶ峰はすぐに視線を逸らし、そのまま足早に角を曲がっていった。


避けるように。逃げるように。


「……」


真守は立ち止まる。


胸が少しだけ痛んだ。


まだまともに話したこともない。なのに、あんな露骨に避けられると普通に傷つく。


「……そんな嫌われてるのか、俺」


小さく呟く。


中学時代の記憶が少しだけ蘇る。


避けられる視線。距離を取られる感覚。


“またか”


そんな感情が胸を掠めた。


その時だった。


「真守っ!!」


後ろから元気すぎる声が響く。


「うわっ!?」


次の瞬間。


ドンッ!!


小さな体が勢いよく背中へ飛びついてきた。


「ちょっ……!?」


真守はバランスを崩しかける。


後ろを見ると、赤坂が満面の笑みで抱きついていた。


「やっと見つけたー!」


「赤坂先輩!?」


「えへへ〜」


赤坂はそのまま真守へぎゅーっと抱きつく。


「今日も生徒会お疲れ!」


「い、いや、近いですって……」


「真守、クタクタの顔してる」


赤坂が少しだけ心配そうに覗き込む。


「大丈夫?」


その顔があまりにも真っ直ぐで。


真守は少しだけ力が抜けた。


「……まぁ、なんとか」


「なんとかって顔じゃないよー?」


赤坂が頬を膨らませる。


「だから元気注入!」


「いや注入方法が危ないんですよ」


「えー?」


赤坂は楽しそうに笑った。


「ほら!一緒に帰ろ!」


そのまま腕を掴まれる。


ぐいぐい引っ張られる。強引なのに、不思議と嫌じゃない。

さっきまで頭を埋めていた黒い感情が、少しだけ遠ざかっていく。


「今日の生徒会どうだった?」


赤坂が歩きながら聞いてくる。


「三宝先輩と一緒だったんでしょ?」


「……まぁ」


「薩摩弁すごかった?」


「それはすごかったです」


「でしょー!」


赤坂が笑う。


「なんかさ、三宝先輩って怖そうだけど面倒見いいよね」


「……」


真守の頭に、黒崎を殴る三宝の姿が浮かぶ。


あの拳の音。


黒崎の呻き声。


「……」


胃が少し痛くなる。


「真守?」


「あ、いや……」


真守は慌てて笑った。


「なんか裏の仕事の話とか出てきて……」


「裏の仕事?」


赤坂の目がキラキラする。


「なになに!? 秘密任務!?」


「ち、違いますって!」


真守は慌てて誤魔化す。


「ただの雑用です!」


「えー絶対なんか隠してる〜!」


赤坂が楽しそうに腕を揺らしてくる。


その明るさがありがたかった。

何も考えずに笑ってくれる。それだけで、少し救われる。


途中でコンビニへ寄った。


「真守、アイス食べる?」


「別にいいですよ」


「だーめ!」


赤坂が勝手に冷凍ケースを開ける。


「今日は私が奢るから!」


「いや、自分で払えますって」


「後輩は先輩に甘えるものなの!」


結局、アイスを押し付けられた。


さらに。


「あと荷物貸して!」


「え?」


「今日は真守のお世話係だから!」


「いや重いですよ」


「大丈夫!」


赤坂は無理やりカバンを奪う。


だが。


「……っ、おもっ」


「ほら言ったじゃないですか」


「う、うるさい!」


小柄な体で必死に持とうとしている姿が少し面白かった。


「返してください」


「やだ!」


「いや危ないですって」


「じゃあ半分持つ!」


「なんでですか」


結局、二人でカバンを持つ形になった。


「ふふっ」


赤坂が嬉しそうに笑う。


「なんかカップルみたいだね!」


「!?」


真守がむせる。


「な、何言ってるんですか!」


「えへへ〜、冗談冗談!」


赤坂は笑いながら真守の腕へ自分の腕を絡めた。


「……」


距離が近い。


でも、夢百合の時みたいな緊張感とは少し違った。もっと明るくて、温かい。


黒ヶ峰の冷たい視線も。

夢百合のキスも。

三宝の拳の音も。


赤坂といる時間の中で、少しだけ遠ざかっていく気がした。


家へ着く。


その瞬間。


ガチャッ!!


「まー君、おかえり〜!!」


真希那が飛び出してきた。


「うわっ!?」


抱きつかれそうになり、真守は反射的に避ける。


「待って真希ねぇ! 今日は疲れてる!」


「えー!?」


真希那がショックを受けた顔になる。


「お姉ちゃん拒否!?」


「まただる絡みかよ……」


真守はため息を吐いた。


「俺ほんとクタクタなんだって」


「むぅ〜」


真希那が頬を膨らませる。


「二週間も寂しい思いしてたのに〜」


「どっちかと言ったら、寂しかったの俺の方だろ……」


「ふふん!」


真希那が胸を張る。


「でも今日は特別サービス!」


「……嫌な予感しかしない」


「まー君の好きなハンバーグ作ったよ!」


「……それはありがたい」


「でしょー!?」


真希那が嬉しそうに笑う。


「だから今日はお姉ちゃんにいっぱい甘やかされてね!」


「いやだからなんでそうなるんだよ」


「お姉ちゃん権限!」


「横暴すぎる……」


文句を言いながらも、このやり取りに少し安心している自分がいた。


いつもの空気。いつものテンポ。それが、今の真守にはありがたかった。


その夜。


自室へ戻った真守は、ベッドへ倒れ込む。


「……疲れた」


体が重い。精神も重い。


スマホを取り出す。

すると、通知が来ていた。


「……夢百合先輩?」


画面を見る。


【今日のことはごめんね。突然でびっくりさせたよね】


「……」


真守の心臓が少し跳ねる。


【明日、話したいことがあるんだけど

放課後、空いてる教室でいい? 待ってる】


「……」


真守はスマホを握ったまま天井を見る。


夢百合の顔が浮かぶ。


キスの感触も、また蘇る。


「……どうすんだよ」


小さく呟く。


だが、既読を付けないわけにもいかなかった。


そして、次の日の放課後。


真守は指定された空き教室の前に立っていた。


「……」


正直、逃げたかった。


でも。


逃げ続けるのも違う気がした。


真守はゆっくり扉を開ける。


夢百合は、すでに待っていた。


夕日が差し込む教室。窓際に立つ金髪の先輩は、妙に綺麗だった。


「楽々浦くん」


夢百合が柔らかく笑う。


「来てくれてありがとう」


「……はい」


真守はぎこちなく返事をする。


夢百合は少しだけ緊張しているように見えた。昨日みたいな余裕の笑顔じゃない。少しだけ、不安そうだった。


「昨日は……ごめんね」


夢百合が静かに言う。


「急にあんなことして」


「……」


「びっくりしたよね」


真守は何も言えない。


夢百合は小さく息を吸う。


そして。


真っ直ぐ真守を見た。


「実はね」


夕日が、その瞳を赤く染める。


「出会った時から、真守くんのこと気になってた」


「……」


「最初は、変わった一年生だなーくらいだった」


夢百合が少し笑う。


「でも、一緒に話していくうちに……優しいところとか」


「……」


「すぐ顔に出てわかりやすいところとか」


「……」


「どんどん好きになってた」


その声は真剣だった。


軽い気持ちじゃないのが伝わる。


「だから」


夢百合が一歩近づく。


「もっと近くで、一緒にいたい」


「……」


「付き合ってくれないかな」


静かな告白だった。


教室に夕日の色だけが広がる。


夢百合の瞳は、真っ直ぐだった。真守の胸が少しだけ揺れる。


優しい人だと思う。綺麗だと思う。嬉しくないわけじゃない。


でも。


「……夢百合先輩」


真守はゆっくり言葉を選ぶ。


「気持ちは嬉しいです」


夢百合の表情が少しだけ柔らかくなる。


「でも」


真守は目を伏せた。


「俺、今はそんな気持ちになれないんです」


「……」


「上高さんや生徒会のこと、まだ全然整理ついてなくて」


夢百合は静かに聞いていた。


「正直、自分のことで精一杯で……」


「……そっか」


夢百合が少しだけ寂しそうに笑う。


「うん、分かった」


責めるような顔はしなかった。


「無理にとは言わないよ」


「……すみません」


「謝らなくていい」


夢百合が優しく言う。


「でも、私の気持ちは変わらないから」


「……」


「また、話聞かせてね」


その瞬間だった。


ギィ……


教室後ろのドアが、ゆっくり開く。


「……?」


真守が振り返る。


人影が、静かに姿を現した。


逆光で顔は見えない。


ただ。


その場の空気だけが、一気に変わった気がした。

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