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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第一章 俺×春=新しい出会いが待っています。〜新生活編〜
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30話 俺×生徒会室=逃げられないです。

放課後のチャイムが鳴ってから、真守はしばらく席を立てなかった。


教室には、少しずつ人がいなくなっていく。


友達同士で帰る声。

部活へ向かう足音。

椅子を引く音。


そんな日常の音だけが、妙に遠く感じた。


「……」


真守は机に視線を落としたまま、小さく息を吐く。


結局、断れなかった。


いや——正確には、断つ覚悟が持てなかった。


昼休み。みんなが見ている前で、会長に声をかけられた。


『今日、放課後に生徒会室へ来てくれないかな?』


あの時。


「行きません」


そう言えばよかった。


なのに。周囲の視線、会長の穏やかな笑顔、教室の空気に全部飲まれて。


『……わかりました』


そう答えてしまった。


「……ダサすぎるだろ」


思わず自分で呟く。


結局、自分は流される。

強くもない。覚悟もない。


「……」


机を軽く握る。


上高の顔が浮かぶ。


フェンスの向こうへ落ちていった姿。あの日から、何度も夢に見た。助けられなかった。守れなかった。

その事実だけが、ずっと胸の奥に残り続けている。


「……」


だから、生徒会なんてもう嫌だった。会長の顔を見るのも嫌だ。あの空気の中に戻るのも嫌だ。


全部から逃げたかったのが本音だった。


「……はぁ」


長く息を吐き、ようやく立ち上がる。


足取りは重かった。


廊下を歩くたびに、胸がじわじわ締め付けられる。


途中、何度も引き返したくなった。このまま帰ってしまおうか。無視してしまおうか。


そんな考えばかり浮かぶ。


でも。


結局、足は止まらなかった。気づけば、生徒会室の前まで来ていた。


豪華すぎる扉。

最初にここへ来た日のことを思い出す。あの時は、ただ圧倒されていた。


でも今は違う。


「……」


怖かった。


この扉の向こうに入れば、また何かが始まる気がした。逃げられなくなる気がした。


真守は深呼吸を三回する。それでも震えは止まらない。


「……失礼します」


ゆっくり扉を開けた。


生徒会室は、相変わらず異様な空間だった。

静かで。広くて。どこか息苦しい。


中央の席には、会長が座っていた。

真守を見ると、柔らかく微笑む。


「楽々浦君」


その声だけで、少し肩が強張る。


「来てくれたんだね」


会長はゆっくり立ち上がる。そして、そのまま真守の方へ歩いてきた。


「……」


距離が近づく。


何をされるのか分からず、真守は反射的に身構えた。


次の瞬間。


ふわりと、柔らかい感触に包まれる。


「っ……!?」


抱きしめられていた。


真っ白なブレザー。微かに香る甘い匂い。

会長の腕が、優しく真守の背中へ回される。


「本当に心配していたよ……」


耳元で、静かな声が響く。


「君が不登校になってから、毎日ずっと気になっていた」


「……」


真守は固まる。


頭が追いつかない。


「上高さんの件で、どれだけ傷ついているのか……想像するだけで胸が痛かった」


優しい声だった。穏やかで、包み込むような声。


なのに——


なぜか寒気がした。


「君はまだ高校一年生なのに」


会長は続ける。


「そんな重いものを、一人で抱え込んでしまった」


「……」


「僕がもっと早く気づいてあげられていたらよかった。本当に、ごめんね」


完璧な言葉だった。


優しくて。気遣っていて。理想的な慰め。

だからこそ、不気味だった。


まるで、最初から用意されていたセリフみたいに聞こえる。


「……」


真守は逃げられない。振りほどけない。体が動かなかった。


やがて会長はゆっくり離れる。


そのまま真守の肩へ手を置き、微笑んだ。


「それと……」


会長が静かに目を細める。


「この前のこと、謝りたいんだ」


「……え?」


その瞬間。


部屋の奥の扉が開いた。


「……っ」


真守は息を呑む。


現れたのは、祇園だった。


「……」


姿を見た瞬間、言葉を失う。


唇は腫れている。左目には白い眼帯。頬には殴られたような痕。いつもの派手なツインテールも、どこか力なく崩れていた。


「……」


生徒会室の空気が変わる。

誰も喋らない。静まり返る。


祇園はゆっくり真守の前まで来ると——


そのまま膝をついた。


「っ!?」


次の瞬間。


床へ額を擦りつけるように土下座した。


「ご……ごめんなさい……」


声が震えている。


半泣きだった。


「楽々浦くん……あの時……わ、笑いながら……傷つけるようなこと言って……」


涙が床へ落ちる。


「上高さんのことで苦しんでたのに……最低なこと言って……本当に、ごめんなさい……」


「……」


真守は動けない。


祇園の肩は小さく震えていた。

痛々しかった。見ているだけで苦しくなるくらい。


「許してください……」


額を擦りつけながら、祇園は何度も謝る。


その光景に、生徒会メンバー達も息を呑んでいた。


重い。空気が重すぎる。


「……」


会長がそっと祇園の肩へ手を置く。


「彼女も、ちゃんと反省している」


優しい声だった。


「だから楽々浦君」


会長がこちらを見る。


「もう一度、生徒会へ戻ってきてくれないかな」


「……」


言葉が出ない。


「良い条件も用意した」


会長は穏やかに続ける。


「次の生徒会選挙の調査は、君には一切やらせない」


「……」


「夢百合君を、新しい副会長として迎えることにした」


「……え?」


真守が反応した、その時だった。


再び扉が開く。


「失礼します」


静かな声。


夢百合葵だった。


金髪のセミロングを揺らしながら、生徒会室へ入ってくる。その姿を見た瞬間。空気が少し柔らかくなった気がした。


「楽々浦くん」


夢百合が小さく笑う。


「久しぶり」


「……夢百合先輩」


自然と背筋が伸びる。


夢百合は会長や他の役員へ軽く頭を下げると、そのまま真守の近くまで歩いてきた。


「心配してたよ」


優しい声。


「また一緒にやれるなら、嬉しいな」


「……」


距離感が近い。でも、不快じゃない。むしろ自然だった。


「私、副会長やることになったみたいだし」


少しだけ冗談っぽく笑う。その笑顔に、ほんの少しだけ救われそうになる。


「……」


でも。


真守の胸は苦しいままだった。


会長。

祇園の土下座。

夢百合の好意。

周囲の視線。


全部が、自分を逃がさない。


「……」


今ならまだ言える。


辞めたいと。逃げたいと。


なのに。


言葉が出ない。


「……」


会長が優しく微笑む。


「じゃあ、今日からよろしくね」


穏やかな声だった。拒絶を許さないくらい、穏やかな。


「……」


真守は何も言えなかった。


生徒会室の空気が、ゆっくりと体にまとわりつく。


まるで。


“逃げるな”と囁くみたいに。

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