29話 俺×学校=まだ怖いです。
不登校になってから、ちょうど2週間が経っていた。
朝、布団の中で目を覚ますと、カーテンの隙間から差し込む光が少し眩しかった。
ここ1週間は、赤坂が毎日メッセージをくれて、白ヶ崎も放課後にインターホンを鳴らしては「真守くん、今日はどう?」と声をかけてくれた。その言葉が、少しずつ真守の胸に積もっていった。
もうそろそろ、外に出て気持ちを切り替えないと本当にずっと殻にこもってしまいそうと感じた真守は決断する。
まだ、ちゃんと整理はできていない。けれど、一人ではないことを実感し、救ってくれている人たちを裏切ることをしたくないと心に浮かんでくる。
「……」
重い体を起こして、少しだけ伸びをする。
「まー君、今日は学校行ってみない?」
真希那が朝ごはんを運びながら、優しく声をかけてくる。
真守はゆっくりと頷いた。
「……うん。行ってみる」
制服に着替える手が少し震えた。鏡に映る自分の顔は、まだ少しやつれている。でも、今日は行こうと思った。
登校の道中も不安感に襲われながら歩く。
そして、学校の門をくぐった瞬間、胸がざわついた。
教室に入ると、すぐに神宮丸が気づいて駆け寄ってきた。
「おいおい、楽々浦!やっと来たかよ!2週間も休んでんじゃねーよ、心配したぞ!」
神宮丸の後ろから、同じクラスの何人かも集まってくる。
「楽々浦くん、大丈夫?」
「体調悪かったって聞いたけど……顔色まだ悪いよ?」
みんなの声が一気に真守を取り囲む。温かくて、申し訳なくて、でも少しだけ嬉しかった。
「ごめん……みんなに心配かけて」
そう言っていると、クラス担任が少し離れたところで真守を見て、静かに頷いた。
「上高さんの件……主犯だった生徒たちはすでに退学になったよ。学校としても厳正に対処した。楽々浦くんも、無理はしないで」
その言葉を聞いて、胸の奥が少し軽くなった気がした。
しかし、授業が始まる直前——
教室の後ろのドアが静かに開いた。
生徒会長が、いつもの特別な白いブレザーを着て立っていた。その瞬間、クラス全体の空気が変わった。
みんなが息を飲むのがわかった。会長のオーラが、教室を一瞬で圧倒する。
女子の何人かが小さく声を上げ、男子たちは視線を逸らした。
神宮丸でさえ、いつもの軽口を忘れて固まっている。会長はゆっくりと教室に入り、真守の席の近くまで歩いてきた。
その足音一つ一つが、妙に大きく響く。
「楽々浦君」
穏やかな声。
でも、その声にみんながびくりと肩を震わせた。
「久しぶりだね。体調はもう大丈夫かい?」
真守は立ち上がろうとして、膝が少し笑うのを感じた。
「……会長」
周りのクラスメートは、完全に圧倒されている。誰も口を開けない。空気が重い。
会長は真守の机の横に立ち、静かに微笑んだ。
「放課後、生徒会室に来てくれるかな。少し話がしたいんだ。君の復帰についても、みんなで相談したい」
その言葉は優しく聞こえるのに、なぜか拒否できない重みがあった。
真守は拳を握りしめた。胸の中で、激しい葛藤が渦を巻く。
(行きたくない……でも、会長に直接断れるか?あの生徒会室に戻るなんて……)
周りの視線が、真守に集中している。
神宮丸が心配そうに俺を見ている。
上高の顔が、ふと頭に浮かんだ。
「……わかりました」
声が少し掠れた。
会長は満足そうに頷き、静かに教室を出て行った。ドアが閉まる音がした瞬間、クラス全体がようやく息を吐いた。
真守は席に座り直し、机に額を押しつけた。
放課後が怖い。だが、これは前に進むチャンスでもあると自分でもわかる。
現実を受け入れて、今までの生活を取り戻すために真守は、顔を上げて前を見た。




