2話 俺×先輩女子生徒=良い気がしません。
……うっ、重い
今、俺は先輩を担いでいる。
正確に言うと、おんぶしている状態だが——日頃から筋トレなんてしていない俺にとっては、とんでもない重りだった。
(重いなんて言ったら絶対殺されるな……)
口には出さない。出したら終わる。
それにしても、この学校——
広すぎるだろ!!
田舎町に堂々と佇むこの学園は、敷地面積およそ四万平方メートル。ほぼ東◯ドーム一個分だ。
(なんでこんな無駄に広いんだよ……!)
「なにさっきから眉間にシワ寄せてんの?情けない顔が余計情けなくなるわよ?」
「……チッ」
(背中から落とすぞこのアマ)
「あっ!今舌打ちしたわね!?」
「してませんよ。それより……」
ため息をひとつ。
「悪口ばっか言われてる身にもなってくださいよ。こんな肉体労働までさせられて……」
精神的にも、肉体的にも限界だった。
「男は女の子のために頑張るものなの!それくらい理解しときなさい!」
そう言うと、先輩は真守の後頭部を軽く叩いた。
「——っ!?」
その衝撃で体勢が崩れる。
次の瞬間。
そのまま、二人まとめて地面に倒れ込んだ。
「きゃっ!なんで倒れるのよ!」
「叩くからでしょうが!」
完全に事故だ。
そのまま寝てしまいたいくらいの疲労。
けれど、真守は先ほどの言葉に少し引っかかっていた。
(男は女の子のために頑張る……?)
どこかで聞いたような気がする。
思い出せないまま、ゆっくりと立ち上がる。
「……はぁ。もう保健室見えてるんで、さっさと行きましょうよ、先輩」
手を差し出す。
だが——
先輩はその手を軽く払いのけた。
そして、そのまま一人で立ち上がり、普通に歩き出す。
「……は?」
思わず間抜けな声が出た。
「まじかよ……ここまできてそれ?」
がっくりと肩を落とす。
(いや普通に歩けるんかい)
これまでの苦労はなんだったのか。
そのまま、トボトボと教室へ向かい始める。
(……絶対終わってるだろこれ)
きっと今頃、担任が挨拶して、クラスの空気もできあがっている。
そこに——
入学式すら出ていない真守が遅れて登場。
(詰んだな)
「どうしてくれんだよ……俺の高校生活……」
「ねぇ!」
後ろから声が飛んできた。
(ほらきた)
どうせ最後にもう一発罵倒して、勝ち誇った顔で去っていくんだろ。
そう思いながら、覚悟を決めて振り返る。
そして——
「今日はごめんね。ここまで運んでくれてありがと、真守!」
「……は?」
「楽しかったよ!」
意外すぎた。
それは完全に“お礼”だった。しかも、ちゃんと謝罪付き。
(なんだよそれ……)
拍子抜けする。
同時に、少しだけ照れる自分がいる。
そんな顔でそんなこと言われたら、文句なんて言えるわけがない。
「……いや、別に」
ぶっきらぼうに返すのが精一杯だった。
そのとき、ふと気づく。
(……待て)
今、名前を呼ばれた。
「……なんで」
真守は一度も名乗っていない。
なのに、どうして——
「ちょっと、先輩待ってください!」
声をかける。だが、遅かった。
先輩はすでに保健室の中に入っていて、姿は見えない。
「……気になるんだけど」
普通に怖い。
追いかけようか、一瞬迷う。
けれど——
(いや、絶対ろくなことにならない)
脳内に浮かぶ未来。
「なんでここまで入ってきてるの?変態?それともストーカー?……あ、どっちもか」
(……うん、やめよう)
これ以上ダメージを受けるのはごめんだ。
真守はその場を後にし、急ぎ足で教室へ向かった。
「……はぁ……やっと着いた……」
ようやく教室の前にたどり着く。
広すぎる校内を走り回ったせいで、体力はほぼゼロだった。
(マジで倒れそう……)
ただでさえ疲れているのに、さらに追い打ち。
原因は明確だった。
(昨日、寝てないんだよな……)
友達を作るためのシチュエーションを、夜通し考えていた。入学初日で人生を変えるために。
(完璧に計画したはずだったのに……)
なのに現実はこれだ。
気合いを入れるため、自分の頬を軽く叩く。
「……よし」
友達の作り方は調べた。
あとは実行するだけ。
自然に話しかけて、自然に距離を縮めて、自然に友達を増やして——
(……いや、自然ってなんだよ)
この時点で、ゼンゼン自然じゃないよね〜♪状態すぎる。
それでも。
ここで引いたら終わりだ。
真守は意を決して、教室のドアを開ける。
「すみません、ちょっと生徒を保健室に連れて行ってて、遅れてしま——」
言葉が止まる。
視界に入った光景に、思考が追いつかなかった。
(……あ)
予想していた。していたけど。
これは——
入学初日にしては、少しキツすぎるスタートだった。




