2話 俺×先輩女子生徒=良い気がしません。
うっ……重い。
今、俺は先輩を担いでいる。正確に言うと、先輩をおんぶしている状況だが、日頃から筋トレをしていない身からしたらとんでもない重りだ。
女の人に重いなんていったら絶対に殺されるだろうから黙っているが、なんでここの高校は……
こんなに広いんだよー!!
田舎町に堂々と佇む、広さにして約四万平方メートル。東京ドーム一個分ぐらいだ。
「なにさっきから眉間にシワ寄せちゃって、情けない顔が余計情けなくなるわよ?」
「チッ」
背中から落とすぞこのアマ……
「あっ!あんたいま舌打ちしたわね!!」
「はぁ、てか、悪口ばっか言われている身にもなってくださいよ。こんな肉体労働もさせられて……」
真守は精神的にも肉体的にも疲れ切っていた。
「男は女の子のために頑張らなきゃいけないのよ!それぐらい把握しときなさい!」
そう言うと先輩女子生徒は真守の後頭部を叩いた。
叩かれた勢いで体勢を崩し、先輩女子生徒の下敷きになる。
「きゃっ、なんで倒れるのよ!」
「だって、いきなり叩くからでしょうが!」
そのまま眠ってしまいたいぐらいの疲労。だが、真守は先ほど先輩女子生徒が発言した言葉に懐かしさを抱いていた。
男は女の子のために頑張らなきゃいけない……ってどこかで聞いたことあるような。
そんな疑問を頭に浮かべ、立ち上がる。
「はぁ、もう保健室見えるんですから、はやく行きましょ先輩」
真守は先輩に手を差し伸べるが、一方の先輩はその手を払い、一人で立ち上がり保健室に歩きだした。
「ま、まじかよ、ここまできてそれはないだろ……」
がっくり肩を落とし、下を向きながら自分の教室に向かう。
きっと今頃、担任の先生が挨拶やらなにやらイベントを起こしているに違いない。そこに入学式を放ったらかしにした俺が登場するとか、もうどうしようもない未来が見えてしまっている。
どうしてくれんだよ、俺の高校生活……
「ねぇ!」
先輩女子生徒がそんな落ち込んだ真守に声をかける。
きっと、最後の最後に俺を罵倒して、勝ち誇った顔で保健室に向かうのだろう。
そんなわかりきった結果、俺は心の準備をし、顔を上げ振り返ると、
「今日はごめんね、ここまで運んでくれてありがと真守!楽しかったよ!」
意外っ!それはお礼っ!!
しかも、ちゃっかり謝罪までして、最後の最後に憎めないことをしやがってと内心思ったものの、なんだかんだ照れている自分がいる。
そんな可愛い顔でそんなこと言われたら文句もなにも言えないじゃないか。
てか、待てよ……
いま、あの先輩、俺の名前言っていたよな。俺は一度も自己紹介なんてした記憶ないぞ。
「ちょっと、先輩待ってください!」
と言った頃には遅かった。すでに保健室に入ったのか、姿が見えなくなっていた。
おいおい、すげぇ気になるじゃねぇーか!
今すぐ追いかけて、この謎を一刻も早く解きたいところだったが、行ったところで何になる?きっと、また蔑んだ顔で俺を見てきて、「何ここまで入って来てるの?変態?それとも私のストーカー?いや、どっちみち変態か」などと言われるに違いない。
これ以上痛手を負うのはごめんだと、真守は謎を後にし、急ぎ足で教室に向かう。
ふぅ、やっと教室に着いた……
だだっ広い校内を走り回り、ようやく自分のクラスルームにたどり着く。先ほどの労働に加え、走り回ったせいか真守はいつ倒れてもおかしくない状況だった。
昨日の夜更かしが仇となったか……
人生を180度回転させるべく、友達を作るためのシチュエーションを夜が明けるまで考えていた為、実のところ学校に着いた時からフラフラの状態だったのだ。
気持ちを入れ替えるため、自分の頬を叩き気合いを入れ直す。
友達の作り方、ネットで検索した通りにすれば、俺の友達100人の夢が叶う。自然に話しかけ、自然に友達を増やし、自然に彼女を作るんだ!
まぁ、こんな段取り考えてる時点で全然自然じゃないよねー♪状態なんだが……
真守は意を決して教室のドアを開ける。
「すみません、ちょっと生徒を保健室に連れて行って、遅れて、しま、い、ま……」
言葉が詰まる。それも当然かもしれない。
そこに広がっていた光景は、予想をしていたといえばそうなるが、入学当日には少しキツイ始まりとなった。