27話 俺×生徒会=もう無理です。
上高の事件の翌日。
学校へ向かう準備をする真守。だが、そこには気力はなく、重苦しい空気が流れていた。
真希那はそんな真守をみて、声をかけられなかった。
不思議といつも通り登校する自分がとても許せなかった。あんな事があったのに、自分のせいなのに。
「……っ」
自然と涙が出た。どの感情で流れているのかは全く理解できない。ただ、とにかく涙が止まらなかった。
真守の中で整理しきれない。だから、自分の次の行動はとてもわかりやすかった。
これ以上は、何も抱えたくない。現実と向き合うのがとても怖い。もう、どうでもいい。
目的が決まっている真守は、黙々と生徒会室へ向かっていた。そして、生徒会室の扉を開ける。
生徒会室のドアを開けるだけで、足が重くなった。廊下の冷たい空気が背中に張り付いているような気がする。
今日は誰も笑っていない。池鶴は書類を睨んだまま、祇園はいつもの席でスマホをいじっている。
生徒会長は窓際の席からゆっくり立ち上がり、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「楽々浦君、来てくれたんだね。ちょうどいいタイミングだよ」
俺は拳を握りしめ、できるだけ声を落ち着かせた。
「……会長。申し訳ありませんが、生徒会を辞めさせてください」
部屋に一瞬、静寂が落ちた。
会長は少し目を細め、優しい声で尋ねてくる。
「理由を聞かせてくれるかな?」
「上高さんのこと……助けられなかったから。あの日、屋上で俺は彼女の制服の袖に指先で触れただけだった。なのに、助けきれなかった。俺みたいな人間が副会長なんて、荷が重すぎます」
会長はため息を一つ吐き、ゆっくりと俺の方へ歩み寄ってきた。
その足音が、妙に大きく響く。
「残念だね、楽々浦君。君がもう少ししっかりしていれば……自殺を止められたかもしれないのに。あの時、君は屋上にいたんだろう?」
言葉は穏やかで、責めているようには聞こえない。ただ事実を述べているだけ。
それが、かえって胸の奥にずしりと重く沈み込んだ。
(……俺のせいだ。上高さんが笑ってくれたあの瞬間を、守れなかった……)
胸の奥で、何かがじわじわと熱を持ち始めた。まだ怒りとは呼べない、小さな苛立ち。でも、それがゆっくりと、沸々と湧き上がってくる。
すると、祇園が自分の席から身を乗り出して、半笑いを浮かべた。彼女の目は笑っていないのに、口元だけが楽しげに歪んでいる。
「へぇ〜、楽々浦くん、逃げちゃうんだ?死んだ人のことで落ち込んでるフリして、結局自分を守るんだねぇ。かわいい〜、情けない子だなぁ。副会長になった途端に『もう無理です〜』って、肩の荷を下ろしたくてたまらないんでしょ?」
黙れ……
「あはっ、でもさ、屋上で触れただけなのに『助けられなかった』って、それって結局『俺は何もできなかった』って認めてるだけじゃん。もっと必死に掴めばよかったのに〜。指先だけで満足しちゃうなんて、ほんと可愛い子だよねぇ」
お前に何がわかる……
祇園はスマホを置いて、わざとらしくため息をつきながら続ける。
「私なんてさ、最初からあんたのこと『荷が重い』って思ってたもん。会長がわざわざ副会長に選んだのに、こんな簡単に逃げるなんて、周りの期待を裏切ってる自覚はあるの?上高ちゃんも、きっと『楽々浦君なら助けてくれる』って思ってたのにねぇ。あははっ、情けなくて笑っちゃう〜」
彼女の声は甘ったるくて、からかうような響きがずっと続く。
半笑いのまま、俺の顔をじっと見つめてくる。
その瞬間、胸の奥で熱が一気に膨れ上がった。
(……ふざけんな。上高さんが死んだのに、半笑いでそんなこと言えるのか?俺がどれだけ……どれだけ後悔してるか、わかってんのかよ……!)
沸々と、怒りが湧き上がってくる。
最初は小さな苛立ちだったものが、みるみるうちに熱を帯びて、胃の底から喉元まで這い上がってくる。
指先が震え、視界が少し赤く染まる。
「……ふざけんなよ」
声が低く、勝手に出た。
祇園が目を丸くする。
「え?」
「ふざけんなって言ってるんだよ!!上高さんが死んだのに、お前は半笑いでからかってんのかよ!!そんなこと言える立場かよ!!俺は……俺は必死だったんだ!!触れただけでも、なんとか助けようとしたんだよ!!お前みたいに、他人事みたいに笑ってる暇なんてなかったんだ!!」
俺はテーブルを思いっきり叩いた。
大きな音が部屋に響き、椅子が後ろに倒れる。
池鶴がびくりと肩を震わせ、会長が静かに手を挙げる。
「楽々浦君、落ち着いて——」
「もういいです!」
俺は生徒会室のドアを乱暴に開け、走り出した。後ろから祇園の声が、楽しげに追いかけてくる。
「あはっ、怒っちゃった〜。かわいいなぁ」
廊下を全力で走る。足音が耳の中でうるさく響き、息が荒くなる。
胸が熱い。
悔しさと、怒りと、罪悪感がごちゃ混ぜになって、涙が滲んできた。
階段の踊り場で立ち止まり、壁に額を押しつける。
「……もう、嫌だ……生徒会なんて、学校なんて、二度と行きたくない……」
誰もいない廊下に、俺の荒い息だけが響いていた。




