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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第一章 俺×春=新しい出会いが待っています。〜新生活編〜
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22話 俺×先輩=調査開始します。

自室で資料を見返す。


机の上には、夢百合から返された考察付きの書類が広げられていた。


「本当にこれはすごいぞ……」


真守は一人で小さく感心する。


候補者の性格、立場、人間関係。

自分では到底ここまで読み取れなかっただろう情報が、分かりやすく整理されていた。


しかも、ただまとめてあるだけじゃない。

読むだけで、書いた本人がどれだけ周囲を観察しているのかまで伝わってくる。


コーヒーを一口飲みながら、真守はつい先ほどの出来事を思い返していた。


(夢百合先輩、最高に綺麗だったな……)


頭の中に、あの時の声が蘇る。


『私自身を調査してくれる?』


あの一言がやけに耳に残っていた。

正直、資料の内容よりそっちの方が気になっている自分がいて、それがまた情けない。


悶々とした気持ちのまま資料を見つめていた、その時だった。


「まー君っ!!」


「わぁっ!?」


背後から突然抱きつかれ、真守は肩を跳ねさせる。


振り返るまでもない。

こんなことを平然とやってくるのは、真希那しかいない。しかも今日も今日とて、妙に破廉恥な格好をしている。


「び、びっくりさせないでくれよ……」


毎回のように驚かされている気がする。

もはや慣れてもよさそうなものなのに、結局こうして反応してしまう自分が少し悔しい。


「ごめんごめん、まー君が全然部屋から出てこないから心配になっちゃって!」


真希那はそう言いながら、いつものように可愛いアピールっぽいポーズを取る。


「ちょっと、生徒会の仕事で忙しくてね」


真守は机に広げた資料を軽く示す。


もっとも、それを見たところで真希那が内容に興味を持つとは思えなかったが。


「大変なんだね〜」


案の定、真希那はどこか他人事のように返した。資料よりも、今は真守の反応の方が大事なのだろう。


「だから真希ねぇも、邪魔しないでくれよ」


そう言って真守は身体を机の方へ向ける。


話を終わらせるつもりで、手元にあったペンを指で回し始めた。

別に得意というわけじゃない。ただ、考え事をしている時に無意識にやってしまう癖みたいなものだった。


「嫌だ!」


だが、真希那は即答だった。


「お姉ちゃんは、まー君の邪魔をしたいの!」


「なんだよその理屈……」


あまりにも身勝手だ。


それでも真希那が本気で言っているのは分かるから、余計にタチが悪い。


「真希ねぇは仕事とかないの?」


「お姉ちゃんは会社で全部終わらすタイプだから問題ないの!」


そこだけ聞くと、妙にちゃんとしている。


真守に対する距離感さえまともなら、本当に隙のない人なんだろうなと、たまに思う。


「そういえば、伝言を任されてるんだった」


ふと思い出したように、真希那が話を変えた。


「なんだよ……そんなことのために俺の仕事を邪魔しないでくれ」


真守は残っていたコーヒーを一気に飲み干し、そのまま聞き流そうとした。


つもりだった。


「お隣さんからの伝言を無視して大丈夫なの?」


「……お隣さん?」


その言葉に、真守の手が止まる。

さっきまで無意識に回していたペンが、床に落ちた。


「お姉ちゃんには関係ないし、あの女は苦手だから無視していいと思うけど」


真希那が言う“お隣さん”に該当する人物は一人しかいない。


そして、その人物と自分の間に今日交わした約束も、真守はたった今思い出した。


「やばいっ!!」


勢いよく立ち上がる。


「ちょっと、お姉ちゃんを置いていかないでー!!」


そんな真希那の声など気にしていられなかった。


真守は急いで脱ぎ捨てていた制服を羽織ると、そのまま部屋を飛び出す。


まだ時間的には、きっと寝てはいないはず。


(ごめん、白ヶ崎!)


廊下を駆けながら、心の中で何度も謝る。


白ヶ崎の部屋の前まで来ると、真守は一度足を止めた。


乱れた呼吸を整える。


こういう時、焦ったままインターホンを押すと余計に怪しい。

それが分かるくらいの余裕は、まだ残っていた。


深呼吸を一つしてから、インターホンを鳴らす。


「あ、やっと来た!」


返ってきた声は、少しだけ疲れていた。

待ちくたびれていたのだろう。


「ごめん!俺、完全に忘れちゃってて……」


「大丈夫だよ。そんな怒ってるわけじゃないから」


白ヶ崎はそう言いながら、真守を部屋の中へ招き入れる。


「お邪魔します!」


玄関をくぐった瞬間、真守は無意識に背筋を伸ばしていた。


女の子の部屋。


それだけで変に意識してしまうのは、仕方ないことだと思いたい。


(やましい気持ちはない……やましい気持ちはない……)


心の中でそう唱えながら、なるべく平静を装ってリビングへ向かう。


「まだ荷物とか散らかっちゃってるけど、気にしないでね!」


白ヶ崎は少し慌てた様子でそう言いながら、お茶をテーブルに置いた。


どうやら真守が来るまで、部屋を片付けていたらしい。


額にはうっすら汗も滲んでいた。


「あ、ごめんね、お茶まで出してもらっちゃって」


「気にしないで。真守くんこそ、生徒会で忙しいのに来てくれてありがとう」


その笑顔は柔らかかった。


学校で見せる顔とも、千堂の前で見せる顔とも違う。


今の白ヶ崎は、真守の知る中で一番自然な表情をしているように見えた。


「それで、話って何かな?」


真守がそう切り出すと、白ヶ崎の表情がすっと変わる。さっきまでの柔らかさが消え、空気が少し重くなった。


「うん……今から話すね」


その一言だけで、あまり明るい話ではないことが伝わってくる。


真守も自然と姿勢を正した。


「真守くん、そんなに驚かないで聞いてほしいの」


「う、うん……」


白ヶ崎は一度息を整える。

それから、はっきりと口を開いた。


「単刀直入に言うと、私たちのクラスではイジメが始まっているの」


「……やっぱりか」


真守の口から、思わずそんな言葉が漏れる。


予想はしていた。

会長の言葉もあった。

今朝の教科書の件を見れば、なおさらだ。


だが、やはり実際に本人の口から聞くと重さが違う。


「えっ……真守くん、知ってたの?」


白ヶ崎は少し驚いたように目を丸くした。


「あぁ……見てたら、なんとなく分かった」


「本当!? それじゃ話が早い!」


嬉しそうに言う白ヶ崎を見て、真守は逆に違和感を覚える。


(……あれ?)


なんだか反応が少しおかしい。


もっと沈んでいてもおかしくない話のはずなのに、白ヶ崎はどちらかといえば“理解してもらえた”ことに安堵しているように見える。


「えっと……白ヶ崎さんは、今つらくないの?」


「なんで私なの?」


「いや、その……千堂さんに嫌味みたいなこと言われてたからさ」


真守が千堂の名前を出した瞬間、白ヶ崎はくすっと笑った。


「あはは、千堂さんの嫌味は私には関係ないわ」


「……は?」


予想外だった。


真守の中では、かなり本命に近いところまでいっていたのに、それがあっさり否定される。


「そう、千堂さんと私は中学の時に対立してて、それが今も続いてるって感じなの」


「そ、そうだったのか……」


ようやくひとつの違和感は解消される。


だが、同時に別の問題が浮上する。


千堂が関係ないなら——

いったい誰が、誰を?


「それじゃ、誰がイジメの標的になってるんだ?」


真守が真っ直ぐ問いかけると、白ヶ崎の表情が少しだけ曇った。


さっきまでの軽さはない。


「それは——」


その続きを聞けば、きっともう後戻りはできない。そんな予感が、真守の胸を静かに締めつけていた。


被害者と加害者。


その名前が明らかになる瞬間は、真守の予想とはまた別の方向へ転がっていくことになるのだった。

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