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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第一章 俺×春=新しい出会いが待っています。〜新生活編〜
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21話 俺×調査結果=他力本願です。

「はぁ〜……」


昼休みの終わり際、真守は自席に突っ伏しながら大きくため息を吐いた。


夢百合に資料を持っていかれたことによる不安。

だが同時に、自分で調べる手間が少し減ったような妙な解放感もある。


会長にバレたらまずい。

けれど、あのまま一人で三人分を調べ切れる自信もなかった。

安心と不安、その両方が頭の中でせめぎ合っていて、感情の高低差だけで無駄に体力を削られていく。


「……究極に眠い」


小さくぼやきながら、そのまま机に頬を押しつける。


昼休みの教室には、まだざわざわとした話し声が残っていた。だが、今の真守にはそれすら遠く聞こえる。


このまま少しだけ意識を手放せたらどれだけ楽か。

そんなことを思っていた時だった。


「あ、あの、真守くん?」


聞き慣れた声が、すぐ近くから聞こえた。


「ぐーぐー」


真守は咄嗟に寝たふりをした。


今は誰とも話したくない。

というより、頭を回したくない。


「ねぇ、真守くんったら」


(いや、だから今寝ようとしてるんだけど……)


「ねぇ!!」


「は、はいっ!」


今度は耳元で大きな声が飛んできた。

さすがに無視しきれず、真守は飛び起きる。


「し、白ヶ崎さんか……一体どうしたの?」


目の前には白ヶ崎が立っていた。


「真守くん、ごめん!起こしちゃった!?」


「はい?」


起こすためにやったのではないのか。

そんな疑問が一瞬浮かんだが、それ以上に気になったのは、白ヶ崎がわざわざ自分の席まで来ていることだった。


今日の午前中の件もある。

真守の中では、彼女の動き一つひとつが普段以上に引っかかった。


「真守くん、怒ってる?」


「い、いや、怒ってないけど……白ヶ崎さん、どうしたの?」


「よかった……怒ってなかったんだね!」


白ヶ崎は少しだけ安心したように笑う。けれど、その笑みはほんの一瞬だった。

すぐに表情を引き締め、一呼吸置いてから、白ヶ崎は小さな声で切り出した。


「真守くん、私……話さなきゃいけないことがあるの」


「話……?」


「よかったら、学校が終わったら私の部屋に来てくれるかな?」


「お、俺が、白ヶ崎さんの部屋に!?」


思わず声が裏返る。


それは仕方がないことだった。

白ヶ崎が自分からそういう誘い方をしてくること自体が、真守にとっては十分すぎるほど衝撃だったのだ。


「ちょっと!?声が大きいよ!!」


「あっ、ご、ごめん……」


慌てて声を潜める。


白ヶ崎は周囲を気にするように視線を巡らせてから、少しだけ身を寄せてきた。


「なるべく他の人には聞かれたくないから……お願いできるかな?」


「あ、あぁ……そういうことなら了解」


その言い方で、真守はなんとなく察した。


たぶん、今朝の件だ。


教科書がなくなっていたこと。

千堂のあの態度。

そして、周囲の不自然な無関心。

白ヶ崎もきっと、何か感じているのだろう。


「あれれ、彼氏とお話中ですか?」


その瞬間、空気を切るように別の声が割って入った。


千堂さゆりだった。


その名前を意識した途端、白ヶ崎の表情がはっきりと変わる。

さっきまでの真剣さや戸惑いが消え、代わりにいつものような刺々しい空気をまとい始めた。


「べ、別にこいつとは何にもないから!」


(そうそう、それそれ……)


真守は心の中で思わずつぶやく。


どうやら白ヶ崎の“ツン”の部分は、こういう場面で強く出るらしい。


「へぇ〜、そぉなんだ〜?」


千堂は面白がるように、白ヶ崎の顔を覗き込む。


露骨だった。

その笑みは明らかに、相手をからかって楽しんでいる人間の顔だった。


「まぁ、とりあえず本人も言ってるように、俺と白ヶ崎さんは特に何もない関係だから」


真守は静かに二人の間へ入る。

千堂を睨むように見ながら、できるだけ淡々と話を切る。


「ちぇっ、つまんないの」


「つまらなくてごめんな」


千堂は舌打ち混じりにそう言い、真守もそれを深追いせず流した。


そして、そのタイミングを見計らったように五時間目を告げるチャイムが鳴る。

会話はそこで途切れた。

誰もそれ以上何も言わず、それぞれが自分の席へ戻っていく。


真守も席に座りながら、頭の中ではさっきのやり取りを整理していた。


(やっぱり千堂が主犯で間違いないよな……)


白ヶ崎は特待生組で、見た目も目立つ。男子からの人気も悪くない。そういう存在に対する嫉妬や反感。

くだらないが、理由としては十分あり得る。


(ほんと、くだらないな……)


だが、その“くだらない”が実際に人を追い詰めるのだから笑えない。

その後の授業は、真守にとってほとんど上の空だった。


時計の針ばかりが気になり、内容はほとんど頭に入ってこない。

そして、気づいた時には放課後になっていた。

HRが終わり、生徒たちが一斉に帰り支度を始める。


そんな中——


「あのー! 楽々浦くんいますかー?」


やけに通る声が教室の外から聞こえてきた。


次の瞬間、クラスの女子たちが一斉に騒ぎ始める。


「キャアーー!!」

「カッコいいっーー!!」

「まさか本物が目の前にいるなんてーー!!」


その反応だけで、真守は誰が来たのか大体察した。


「……や、やべ」


真っ先に浮かんだ感想はそれだった。


そして、次の瞬間には逃げようとしていた。


「あっ、見つけた!!」


「げっ、見つかった……」


昼休みに散々振り回された張本人。

夢百合葵だった。


真守は咄嗟に神宮丸の背後へ回り込む。


「神宮丸、俺を匿ってくれ!」


「えっ!?」


事情も分からず戸惑う神宮丸。

その背中越しに、夢百合は真守をじっと見つめていた。


「ねぇ、なんで私から逃げるの?」


「いや、それは、その……」


神宮丸を挟んだまま会話する形になる。

どう考えても情けない構図だった。


「私って、そんなに嫌われてるのかな?」


「いや、そういうわけじゃありませんっ!!」


「じゃあ、なんで逃げるのよ?」


責める口調ではない。

むしろ少し寂しそうな響きがある。

そのせいで、真守は余計に返答に困った。


こんな人気者と教室の前で堂々と絡めば、どう見たって目立つ。

それが嫌で逃げた——という本音を、そのまま言ってしまった方がいい気もした。


「先輩は人気者だし、俺なんかといたら先輩の価値が下がっちゃいますよ?」


結局、真守は思ったままを口にした。


普段ならもっと言葉を選ぶところだが、今はそれだけ気まずかった。

すると夢百合の表情が、わずかに変わる。


「ちょっと、何言ってるかわからないんだけど?」


さっきまでの軽さが少しだけ消えた。


「だって、さっきの歓声は先輩に向けてのものだったし……やっぱり、それって人気者の証拠じゃないですか?」


真守は周囲の女子たちの反応を思い返しながら言う。だが、夢百合の表情は晴れない。


「楽々浦くん、何か勘違いしてるみたいだけど」


そう言って、夢百合は神宮丸の方へ視線を向ける。


「もし私が、本当に楽々浦くんの言う“人気者”なら——さっきから間に挟まってるお友達も、一緒になって騒いでるはずじゃないの?」


「……あっ」


言われてみれば、その通りだった。


神宮丸はこういう学校の有名人や噂には妙に詳しい。

それなのに、夢百合を見ても何一つ驚いた様子がなかった。


「ねぇ、楽々浦くんのお友達さん。私のことはご存知でした?」


急に話を振られた神宮丸は、素早く姿勢を正し、妙に丁寧な口調で答えた。


「いいえ、ご存知ではございませんでした」


「ま、まじか……」


真守は心の中で崩れ落ちた。


夢百合は女子からはかなりの人気がある。

だが、男子からは名前すら知られていない可能性がある。


そこには、昼休みに見た女子からの“王子様キャラ”としての立ち位置が関係しているのかもしれない。


「はい、これでわかったでしょ?」


夢百合は少しだけ拗ねたように言う。


「私は特別人気者ってわけでもないし、楽々浦くんと絡んだからって、何か変わるわけじゃないの」


「……わかりました」


真守は観念した。


どうやら自分は、夢百合が気にしている地雷のようなものを踏みかけていたらしい。


そのまま夢百合に連れられて、二人は教室から少し離れた場所まで移動する。


「夢百合先輩、さっきはすみませんでした」


二人きりになるなり、真守はすぐに頭を下げた。

夢百合は少しだけ困ったように笑う。


「あはは、気にしなくていいよ……でも、あんな悲しいこと、二度と言わないでほしいかな」


その表情は、さっきまで教室の前で見せていた“王子様っぽさ”とは少し違って見えた。


普段は余裕のある立ち振る舞いをしていても、こうして見るとちゃんと女の子なんだなと、真守は妙に実感する。


「ところで、私なりに調査してみたんだけど、こんな感じでいいかな?」


夢百合はすぐに話を切り替え、真守へ資料を返した。


「す、すごい……」


思わず感嘆の声が漏れる。


そこに書かれていたのは、自分では到底思いつかないような考察の数々だった。


候補者同士の人間関係。

周囲からの評価。

立ち位置。

性格的な特徴。


どれも、短時間でまとめたとは思えないほど整理されている。


「まぁ、私にできるのは赤城君と坂上君のことくらいだから——」


夢百合はそこまで言うと、自分の胸に手を当てた。

そのまま真守をまっすぐ見つめる。


「楽々浦くんは、私自身を調査してくれる?」


「……え?」


その瞬間、ほんの少しだけ時間が止まった気がした。


目の前に立つ夢百合の表情も、声のトーンも、距離感も、すべてが妙に綺麗に重なって見える。


まるで舞台の一幕みたいに。


あまりにも自然で、それでいて不自然なくらいに整った光景だった。

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