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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第一章 俺×春=新しい出会いが待っています。〜新生活編〜
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20話 俺×偵察=不自然すぎます。

色々と問題は山積みだが、とにかく一つずつ片づけていくしかない。そう頭では分かっていても、真守の気分は朝よりもさらに重くなっていた。


白ヶ崎の教科書の件。

クラスの妙な空気。

千堂の視線。

そして、会長が以前口にした「いじめが始まる」という言葉。


それらが頭の中でぐるぐると回っていて、真守は今すぐにでも教室を出たかった。


昼休みを告げるチャイムが鳴った瞬間、ようやく息がつけると思ったくらいだった。


「おい、一緒に飯食おうぜ!」


そんな真守の背後から、いつものように神宮丸の明るい声が飛んでくる。

相変わらず、こいつだけは空気が変わらない。


もちろん、真守の返事は決まっていた。


「ノーだ。俺はやらなきゃいけないことがある」


「くぅ〜、やっぱり生徒会は一味違いますな!」


「うるせぇ。一々“生徒会”って単語を出すな!」


軽くあしらうように返す。

そして、これ以上余計な会話に巻き込まれる前に、真守はさっさと教室を後にした。


向かう先は、二年A組。

会長に頼まれた“偵察”という名の面倒事を片づけるためだ。


「先輩のいる階ってだけでも緊張するのに、二年A組って……」


思わず独り言が漏れる。


ただでさえ上級生の教室というだけで入りづらいのに、相手はA組——つまり、この学校でもトップクラスの人間が集まる場所だ。

そこへ一年生の自分が、こそこそ様子を見に来る。

どう考えても怪しい。


そんなことは分かっていたが、行かないわけにもいかなかった。

真守はできるだけ目立たないように廊下の端から二年A組の中を覗き込む。


すると、すぐに一人の人物が視界へ飛び込んできた。


「……多分、あの人が夢百合先輩か」


そこにいたのは、見るからにクラスの中心にいる人間だった。

周囲には女子生徒たちが何人もいて、まるで彼女を囲うように楽しげに話している。


「ねぇ〜、葵、今日は私と帰ってよ!」

「え〜、今日は私でしょ?」


「まぁまぁ、きみたち。私は一人しかいないんだから」


そのやり取りを見て、真守は思わず目を細めた。


(なんだこれ……宝◯歌劇団か?)


そんな感想が真っ先に浮かぶくらいには、夢百合葵の周囲だけ空気が違っていた。


ただ目立つとか、人気があるとか、そういう単純な話ではない。

自然と人が集まり、自然とその中心にいる。そんな、妙なカリスマ性があった。


その時だった。


「夢百合、このプリントあとで職員室に持ってきてくれ」


「赤城くん、りょーかい!」


別の男子生徒が声をかける。

真守はそのやり取りに反応した。


(赤城……ってことは)


資料に載っていた名前と一致する。


夢百合葵。

そして赤城悟。


これで少なくとも二人は顔を確認できた。

順調——そう思ったのも束の間だった。


「ねぇ〜、葵。あそこにずっと見てる一年生いるんだけど、知り合い?」


「あれ、ほんとだ」


囲っていた女子の一人が、真守の存在に気づいた。


しまった、と思った時にはもう遅い。

夢百合本人がこちらへ歩いてくる。


「ま、まずい!!」


真守は咄嗟に踵を返しかけた。


「ちょっと待って!!」


だが、その動きより相手の方が早かった。


「ねぇ、きみ、もしかして一年生の楽々浦君?」


腕を引かれる。

そのまま距離を詰められる。


「えっ、あ、あの……俺は楽々浦ではないです」


「わかりやすい嘘だなぁ」


「いや、本当に人違いで……」


誤魔化すには無理があった。

相手はすでに確信しているような顔をしている。


「楽々浦君、この学校じゃもう有名人だからね。すぐ分かっちゃうんだよ」


「俺が有名人……?」


「俺、って認めてるよね?」


「はっ、しまった!!」


見事に墓穴を掘った。


その瞬間、真守の脳内には一つの最悪な可能性がよぎる。

覗き。上級生の教室。女子生徒。

言い逃れ不能。


反射的に、真守はその場で土下座の体勢に入っていた。


「大変申し訳ございません!決してやましい気持ちで覗いていたわけではございませんので、ここは一回見逃してくれませんか!!」


床に頭をつける勢いで謝る。


痴漢冤罪に近いものを感じていた。

まだ何も起きていないのに、なぜか人生が終わりそうな気がしたのだ。


「ちょっと、私は別にそんなつもりで捕まえたわけじゃないよ?」


慌てて夢百合が真守を起こす。

そのまま目線を合わせるように顔を覗き込んできた。


「私、きみと友達になりたいと思ってたの!」


「……えっ?」


予想の斜め上すぎる言葉に、真守は固まる。


「お、俺と友達ですか!?」


「ダメかな……?」


上目遣い、というより、まっすぐな目だった。

冗談を言っているようには見えない。


ダメなわけがない。

ないのだが、なぜ自分はこうも次から次へと“目立つ人間”に気に入られるのだろう。


「あ、ダメなわけないです!俺でよかったらよろしくお願いします!!」


真守は思わず勢いよく頭を下げた。


「もう、きみ礼儀正しすぎ」


夢百合はくすっと笑う。


近くで見ると、彼女の容姿はやはり目を引いた。

奇抜な金髪。片側は編み込みになっていて、そこから覗くピアスがよく目立つ。

目つきは鋭いはずなのに、不思議と冷たさはなく、むしろどこか人を惹きつけるような強さがあった。


(……こんな人と俺が釣り合うわけないだろ)


見ているだけでそう思う。


「ところで、きみは私のクラスに何の用があって来たの?」


「あっ……それは……とくにないです」


明らかに怪しい返しだった。

自分でもわかるくらい、目線が泳いでいる。


「う〜ん、本当のこと言いなさい!」


夢百合はぐいっと顔を近づけてくる。


吐息がかかるくらいの距離。

近い。近すぎる。

しかも、いい匂いがする。


「えっと……」


「もう、本当のこと言わないと、このままキスしちゃうよ?」


「……は?」


衝撃発言だった。


真守の思考はその一言で吹き飛ぶ。


目の前にいるのは、どう見てもクラスの中心に立つような人間だ。男女問わず人気があるのも想像できる。


そんな人とキスなんてしたら——


間違いなく敵が増える。しかも、とんでもない数だ。


「いや、それは勘弁してください……」


「え〜、つまらないな」


夢百合は少し残念そうに身体を引いた。

その反応すら軽い。


「さすがにキスはちょっと……」


真守は距離が空いたことに心底安堵しながら、ようやくまともに息をついた。


「それじゃ、ちゃんと要件を言ってね!」


「……はい」


ここまで来たら、もう隠しても無駄だった。


真守は観念して、生徒会から頼まれて夢百合たちを調査しに来たことを、包み隠さず話した。


すると——


「へぇ〜、それ面白そうじゃん!!」


「……へっ?」


返ってきたのは、予想外に前向きすぎる反応だった。


「私もそれ、手伝うよ!」


「あ、あの……調査される側なんですが……」


「そんなの関係ないよ」


夢百合はまるで気にしていない様子で笑う。


「私が他の二人を調査してあげる!」


「いや、ちょっ——」


止める間もなかった。


夢百合は真守の持っていた資料をひょいと取り上げると、そのまま何の迷いもなく教室へ戻っていく。


「あぁ〜……やってしまった……」


取り返そうにも、もう遅い。


会長にこのことがバレたらどうなるのか、真守には想像もつかなかった。


ただ一つ確かなのは——


今、自分の心臓が嫌なくらい強く脈打っているということだけだった。

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