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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第一章 俺×春=新しい出会いが待っています。〜新生活編〜
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19話 俺×生徒会の一員=みんなの態度が変わります。

気が重い月曜日がやってきた。


土日は休みのはずだった。

少なくとも、世間一般ではそういう認識のはずだ。だが真守にとって、この週末は休みとは呼べるものではなかった。


会長から任された資料を部屋に持ち帰ってからというもの、ずっと机に向かい、候補者の名前や経歴、過去の評価や立候補理由を何度も見返していた。

読み返せば読み返すほど頭の中はこんがらがり、気づけば日曜日も終わっていた。


要するに——休んだ気がしない。


そんな最悪に近い状態のまま、真守は月曜の朝を迎えていた。


「この一週間は生徒会に行かなくていい……っと」


登校しながら、スマホのスケジュール帳アプリに予定を書き込んでいく。その事実だけが、今の真守にとっては小さな救いだった。


ここ最近はずっと、生徒会室と寮を往復しているだけの毎日だった。

教室にまともに顔を出すのは、思っていた以上に久しぶりな気がする。


(……なんだかんだ、普通の高校生活ってやつに戻れるのか)


そう思う一方で、不安もあった。


一週間ほとんど教室にいなかった生徒を、クラスのみんなはどういう目で見るのか。

しかも、その理由が“生徒会”だ。

余計な注目を浴びそうだなと思いながら、真守は教室のドアに手をかけた。


そして——


ガラッ、と扉を開けた瞬間だった。


「あっ、噂の人が来たっ!!」


とある生徒のその一言で、教室の空気が一気に動いた。


「本当だ、生徒会の楽々浦君だ!」

「おいおい、今話題の生徒のお出ましかよ!」

「楽々浦君、生徒会の話聞かせて!」


一瞬で囲まれる。


さっきまで席についていたはずの生徒たちが、次々に真守の周りへ集まってきた。


「あ、あはは……みんなどうしたの?」


真守は戸惑いながら笑う。

だが、内心では完全に面食らっていた。


生徒会に入る前の自分なら、教室の真ん中でこんなふうに囲まれるなんてまずあり得ない。せいぜい遅刻した変なやつとして遠巻きに見られるくらいが関の山だった。


それなのに、今は違う。


気づけば自分が輪の中心にいて、しかもその空気は決して悪いものではなかった。


「おいおい、お前、入学して早々あの生徒会長に気に入られるなんて勝ち組も同然だぞ!」


一番テンション高く前へ出てきたのは、やはり神宮丸だった。


こういう時だけは本当に頼もしいというか、うるさいというか、よくわからないやつである。


「あぁ、神宮丸。なんか久しぶりだな」


「お前と親友になれたこと、俺は今めちゃくちゃ誇らしいぞ!」


「親友になった覚えはないけど」


即答する。


「そんなこと言うなって! ほら、生徒会って実際どんな感じなんだよ!」


神宮丸に続いて、周りの生徒たちも興味津々で身を乗り出してくる。真守はその勢いに押されながらも、どうにか場を落ち着かせようとする。


すると——


ちょうどそのタイミングでHRのチャイムが鳴った。


「はーい、みんな席についてー!」


担任が教室へ入ってくる。


その一声で、生徒たちは名残惜しそうにしながらも自分の席へ戻っていった。


「それじゃ、出席取るわよー」


その何気ない言葉に、真守は少しだけ肩の力を抜いた。


(……そうそう、これだよ)


普通に出席を取って、普通に授業の準備をして、普通に昼休みを迎える。

そんな当たり前の流れが、今の真守にはやけに愛おしく感じられた。


一時限目の授業に眠気と戦い、昼には弁当を食べて、午後の授業をなんとかやり過ごす。

ようやく、自分が思い描いていた高校生活へ戻れるのかもしれない。


——そんなことを考えた直後、現実がそれを叩き壊す。


(そういえば、昼は偵察に行くんだったな……)


途端にテンションが落ちた。


生徒会の仕事が一週間ないとはいえ、完全に解放されたわけではない。

今日は今日で、二年A組の様子を見に行くという面倒な役目が残っている。


一人で勝手に気分の上げ下げをしていると、それが表情にも出ていたらしい。


「白ヶ崎さん」


「はい」


担任の出席確認が順調に進んでいく。

その声でふと我に返る。


(……あれ?)


さっきみんなに囲まれていた時、白ヶ崎の姿だけ見えなかった気がする。


B組の生徒たちは、ほとんど全員あの輪の中にいた。

石井ですら、少し距離を置きながらも話を聞く素振りを見せていた。

なのに、白ヶ崎だけはいなかった。


(……考えすぎか?)


そう自分に言い聞かせた、その時だった。


「楽々浦君……楽々浦!」


「は、はいっ!!」


担任に名前を呼ばれ、真守は慌てて顔を上げる。


「もう、生徒会が忙しかったのは分かるけど、教室にいる時くらい普通の生徒らしく集中して下さい」


「はい、すみません……」


素直に頭を下げる。


はぁ、またやってしまった。

せっかく久しぶりに教室へ戻ってきたのに、初っ端からこれでは締まらない。


そう思った直後だった。


「あははっ!」


クラス中から笑い声が上がる。


真守は一瞬肩をすくめる。けれど、すぐに気づいた。

その笑いは、以前のような“見下すための笑い”ではなかった。

どちらかといえば、軽い失敗を笑い飛ばすような、柔らかい空気の笑いだった。


「もう、わかってるならよろしい」


担任の態度も、どこか前より柔らかい。

それが逆に、真守には不気味だった。


(……なんか変だな)


生徒会に入った途端、周囲の空気が明らかに変わっている。


いい方向に変わっているようにも見える。

けれど、それが純粋に嬉しいかと言われると、少し違った。


出席が終わると、一時限目の準備が始まった。


一時間目は数学。


生徒たちがそれぞれ教科書やノートを机の上に出していく中で、不意に白ヶ崎の小さな声が聞こえた。


「あれ……私の教科書がない……」


「家に忘れてきたんじゃないかしら?」


前の席に座る千堂(せんどう) さゆりが、何気ない口調で声をかける。


「いいえ……そんなはずはないと思うけど」


白ヶ崎は困惑したように机の中や鞄の中を探す。

その様子を見ながら、千堂はどこか楽しそうですらあった。


「じゃあ、ちゃんと探さないとね?」


その言い方に、真守は小さな違和感を覚える。


普通なら、少しくらい一緒に探そうとしたり、見せてあげようかと声をかけたりしてもいいはずだった。

だが、千堂はそうしない。それどころか、少し距離を取って見ているだけだ。


「どうしよう……」


白ヶ崎は本当に焦っているようだった。


授業直前になっても教科書は見つからない。

しかも、それを見ている周りの反応が妙だった。


隣の席の石井ですら、何も言わない。

教科書を少し寄せることもなければ、助け舟を出す様子もない。


(……おかしいだろ)


そこで、ふと会長の言葉が頭をよぎる。


『この机を見る限りだと、もうこのクラスではいじめが始まろうとしているね』


嫌な予感が、一気に現実味を帯びる。

そんなこと、あってほしくない。

けれど、もし本当にそうなら——


真守は考えるより先に席を立っていた。

白ヶ崎のところまで歩み寄り、自分の教科書を差し出す。


「これ、もしよかったら使って!」


「えっ……?」


白ヶ崎が目を見開く。


「あ、ありがとう……」


小さく礼を言うその声は、いつもよりずっと弱々しかった。


真守は何も言わず、自分の席へ戻る。

だが、その時にはもう、教室全体を見渡す意識へ切り替わっていた。


誰がどういう表情をしているのか。


誰が黙っていて、誰が反応していないのか。


その中で一番わかりやすかったのは、白ヶ崎の前の席にいる千堂だった。

こちらをちらりと見るその視線は鋭い。

はっきりとは言わないが、「余計なことをするな」と言っているように見えた。


(……あいつか)


真守の中で、一つの仮説が生まれる。


「なぁ、俺と一緒に教科書見るか?」


後ろから神宮丸の声がした。


「えっ……あぁ、気持ちはありがたいんだけど、俺は大丈夫だから」


「そ、そうか」


神宮丸は少し拍子抜けしたように引き下がる。

そのやり取りをしながらも、真守の中の苛立ちは収まらなかった。


(そんなこと言うなら、先に白ヶ崎を助けてやれよ……)


歯を食いしばる。


下を向き、誰にも表情を見られないようにした。

そして、授業開始のチャイムが鳴る。


もちろん真守は、教科書を忘れた側として振る舞うつもりだった。


「えー、それでは出席を取るぞー」


数学担当の男の先生が、気だるそうな声で教壇に立つ。


「えー、楽々浦!」


「はい!」


「おっ、今日はちゃんといるんだな」


一週間近くまともに教室へ来ていなかったせいか、先生の反応も少し珍しそうだった。


「あの、先生すみません。今日、教科書を忘れてしまって……」


真守は頭の後ろに手をやりながら、申し訳なさそうに頭を下げる。


「おいおい、なんだ。せっかくお前にとっては初めての数学の授業なのに」


先生はそう言いながらも、予備の教科書を一冊取り出して真守へ渡した。


「ありがとうございます。次から気をつけます」


「あぁ、そうしてくれ」


こうして始まった数学の授業は、教科書忘れ以上の問題もなく無事に終わった。


続く二時限目は音楽。


そこでは白ヶ崎の紛失物はなく、目立ったことも起こらないまま授業が終わる。

三時限目、四時限目も同じだった。

少なくとも表面上は、何も問題は起きていない。


だが——


(まだ序章ってだけかもしれないな……)


午前中の様子を見る限り、やはり千堂が一番怪しい。そう結論づけたところで、昼休みを告げるチャイムが鳴った。

真守は心の中に不安を残したまま、次の仕事へ意識を切り替える。


二年A組への偵察。


普通の高校生活へ戻れたと思った矢先に、結局また面倒事へ足を突っ込むことになる。


(……ほんと、割に合わないよな)


そう思いながら、真守は静かに二年A組へと向かったのだった。

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