18話 俺×作戦会議=聞いていません。
さて、明日は休みだし、ゆっくり寝ようかな。
そう思いながら真守はベッドに横たわった。
ようやく生徒会の地獄みたいな一週間が終わったのだ。
今夜くらいは何も考えずに眠って、翌日は昼近くまで布団にくるまっていたい。そんなささやかな願いくらい、誰にも邪魔される筋合いはないはずだった。
だが、そんな真守の願いをあっさりと壊すように、枕元に置いてあったスマホが震え始める。
(……ん、何か鳴ってるような?)
マナーモードにしていたせいで音は鳴らない。
代わりに、テーブルの上でスマホが長く震え続けていた。
その振動の長さで、真守はすぐにそれが電話だと気づく。
(こんな時間に誰だよ……)
せっかく眠りに落ちかけていた身体を無理やり起こし、スマホの画面を確認する。
「……非通知?」
思わず眉をひそめる。
こんな時間に非通知。
どう考えてもろくな相手じゃない。
それでも、何か嫌な予感がして切ることもできず、真守は恐る恐る通話ボタンを押した。
「も、もしもし……?」
一瞬、沈黙が流れる。
イタズラ電話かと思った真守は、そのまま通話終了へ指を滑らせかけた。
その瞬間——
「お、よかった。なんとか通じたようだね」
聞き覚えのある声が耳に届いた。
「……この声、会長?」
「そうだよ。よくわかったね、楽々浦君」
電話の相手は、まさかの会長だった。
「で、でも、なんでわざわざ非通知で俺の携帯に……?」
「まぁ、少し訳があってね。僕の通話は全部非通知にさせてもらっているんだ。あまり気にしないでくれ」
もっともな疑問だった。
会長の電話番号なら、欲しがる人間はいくらでもいるだろう。
だからこそ、あえて非通知にしているのかもしれない。
真守はそう考えたが、会長はそれ以上説明する気はないらしく、そのまま話を先へ進めた。
「それで、要件なんだけど——」
急に本題に入る会長。
真守は戸惑う暇もなく、反射的にメモ帳を引っ張り出す。
「明日、生徒会室に来てくれないか?」
「……え?」
内容自体は短かった。
だが、それだけで真守には十分だった。
つまり、明日も休めないということだ。
「生徒会室に集まって、何をするんですか?」
「それは明日話すよ。とりあえず遅刻しないように」
「……はい」
そこで通話はあっさり終わった。
真守はスマホを見つめたまま、しばらく動けなかった。
休みだと思っていた。
ようやく休めると思っていた。なのに、また生徒会だ。
「……こんなのってありかよ」
小さく呟きながら、真守は深く息を吐いた。
翌日
まだ時間的には余裕があるが、先輩たちを待たせるわけにはいかない。
そう判断した真守は、指定された時間より三十分も早く学校へ着いていた。
先輩たちを待たせるのは気が引ける。
ただでさえ生徒会では自分だけが一年で、立場も弱いのだ。こういうところで印象を悪くするわけにはいかない。
そのため、苦手な朝にも必死に抗い、どうにか早めに生徒会室へ辿り着いた。
(これなら文句は言われないだろ……)
そう思いながら、少しだけ胸を張って扉を開ける。
「おはよう、楽々浦君!君が来るのをみんな待っていたよ!」
「……えっ?」
真守の思考が止まる。
ちょっと待て。
俺はかなり早く来たはずだ。
なのに、なぜ全員揃っている?
しかも、“待っていた”ってどういうことだ。
真守が状況を理解できずにいる間にも、会長は当然のように話を進めていく。
「よし、楽々浦君も揃ったことだし、本題に入ろうか」
「遅いわよ。一時間前集合が当たり前でしょう?」
イライラを隠す気もない声とともに、池鶴が真守の襟を掴んだ。そのまま生徒会の輪の中へと引きずっていく。
「あぁ、いてててっ、池鶴先輩、痛いっすよ!」
「あんたが時間に遅れるから悪いんでしょ?」
「そんなこと言われても……」
どう考えても理不尽だった。集合時間には間に合っている。むしろ早い方だ。
なのに、この人たちは集合のさらに一時間前に集まっているらしい。
(なんなんだこの人たちは……)
だが、ここで何を言っても無駄だとわかっていた。
真守は諦めて、黙って池鶴に引きずられることを選んだ。
「それじゃあ、君たち。早速だが仕事を任せる!」
会長が手を打つようにして話を切り出す。
「し、仕事……?」
休みの日に呼び出された時点で嫌な予感はしていたが、やはりその方向らしい。
「我が生徒会に新しく迎え入れようとしているメンバーを、みんなで決めてほしいんだ」
それだけ聞くと、意外と簡単そうにも思えた。
だが、会長がそんな簡単な仕事を真守たちに振るわけがない。
「候補者はすでに僕の方で、役職ごとに三名まで絞ってある。そこで、君たちには担当する役職ごとに、個人的な見解で構わないから一名だけに絞ってほしい」
「俺たちで……?」
つまりそれは、完全な個人判断だった。
自分の目で見て、自分で評価し、自分の意見をはっきり出さなければならない。
そんな重大なことを、まだ学校に来て間もない一年生に任せていいのか。
「無論、問題児の祇園君が担当している会計は僕が受け持つから安心してくれ」
「むぅ〜、会長の意地悪!」
祇園が不満そうに頬を膨らませる。
真守はその様子を見ながら心の中で、まあ、それはそうだろうなと納得していた。
「それじゃあ、リストは机にまとめてあるから、各役職ごとに持っていって見ておいてくれ」
会長の指示で、先輩たちが一斉に動き始める。
その中で真守だけが、少し遅れてあたふたしていた。
「あの、会長。俺は一体どこの役職を見ればいいんですか……?」
まだ副会長でも会長でもない、曖昧な立場。
自分がどこを担当すべきなのか分からなかった。
「楽々浦君は、会長希望の人を選んでくれ」
「か、会長希望ですか!?」
「そうだよ。君が選んだ人を、次の副会長にするつもりなんだ」
真守の顔が引きつる。
薄々気づいてはいたが、かなり重い役目を押しつけられた気がした。
「で、でも、本人たちは会長希望なわけですよね?ちゃんと会長として選んであげるべきなんじゃ……」
それは建前でもあり、本音でもあった。
要するに、そんな恨みを買いそうな役回りをやりたくないのだ。
副会長にされた方がどう思うのか。会長になれなかった方はどう思うのか。どう考えても、真守が好かれる未来が見えない。
「あはは、君は心配しなくていい。この学校じゃ、副会長に選ばれるだけでも十分名誉なことだからね」
「そ、そんなこと言われても……」
まるで慰めになっていない。
「はいはい、弱気なこと言ってないで、これに目を通しておいてくれ」
「うっ……」
会長に資料を押しつけられる。
渋々受け取り、中を開く。
「……やっぱり全員二年A組か」
そこに書かれていた候補者たちは、すべて二年A組の生徒だった。
「そんなに怖がることはないよ。みんないい人たちだから、きっと可愛がってくれるさ」
(違う意味で可愛がられそうなんだけどな……)
そう思いながらも口には出さない。
「それと、僕の一押しは夢百合君だから、そこはマークしておいてくれるかい?」
「は、はい……」
どうやら会長の中では、すでにある程度答えが決まっているらしい。
それでも最終判断を真守に任せるというのだから、余計に胃が痛くなる。
(これから俺は一体どうなってしまうんだ……)
真守は重たい資料を見つめながら、静かに頭を抱えた。
——会長候補——
二年A組
夢百合 葵
坂上 翔平
赤城 悟




