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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
最終章 俺×愛の形=それぞれの道へ進みます。〜答え合わせ編〜
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214/224

213話 俺×監視=見られていました。

「話くらいなら聞いてあげる」


黒ヶ峰のその一言は、生徒会室の空気の中では妙に浮いて聞こえた。


真守は思わず黒ヶ峰を見る。無表情でいつも通り。だが、どこか様子がおかしい。


何か言おうとして——


その瞬間だった。


黒ヶ峰が真守にだけ見えるように、人差し指を自分の唇へ添えた。


「……?」


真守の動きが止まる。


黙れ。


そういう意味なのは分かった。だが、なぜ今なのかが分からない。


黒ヶ峰は何も言わない。


代わりにポケットから小さなメモ帳を取り出した。さらさらと何かを書き込む。そしてページを破ると、机の陰から真守へ見せた。


そこには短く書かれていた。


『楽々浦から屋上で話そうと言って』


「……?」


ますます意味が分からない。


真守の頭の上に疑問符が増えていく。だが黒ヶ峰は無表情のままだった。


真守は一度だけ周囲を見る。


会長は書類を見ている。他のみんなも作業中。三宝たちは別の仕事をしている。


誰もこちらを見ていない。


それでも黒ヶ峰は警戒していた。


「……黒ヶ峰」


真守が声を出す。


「何」


「ちょっと屋上来ないか」


棒読みだった。


自分でも分かるほど不自然だった。しかし黒ヶ峰は平然と頷く。


「分かった」


それだけだった。


数分後、二人は屋上へ来ていた。


重い扉を閉める。ガシャンという金属音が響く。吹き抜ける風が制服を揺らした。

校舎の上は静かだった。授業中ということもあり、人の気配もない。


真守はすぐに口を開く。


「なんなんだよ」


「……」


黒ヶ峰はフェンスへ近付く。


そして周囲を見回した。


右、左、屋上の出入口、監視カメラ。一通り確認してから、ようやく口を開く。


「ここなら大丈夫」


「だから何が」


黒ヶ峰は振り返る。


「この学校」


少し間。


「監視カメラと盗聴器だらけ」


「……は?」


真守は固まった。


一瞬、意味が理解できなかった。


「盗聴器?」


「うん」


「監視カメラ?」


「うん」


「……いや待て」


思わずツッコミが出る。


「どういうことだよ」


黒ヶ峰は淡々と説明した。


「生徒会室、会議室、一部の空き教室、廊下、職員室周辺、他にも色々」


「……」


真守は唖然とする。


冗談を言っているようには見えない。黒ヶ峰はそういう性格じゃない。だからこそ余計に怖かった。


「なんでそんなこと……」


「知らない」


即答だった。


「私も全部は知らない」


黒ヶ峰はフェンスへ寄りかかる。


「でも」


少しだけ目を細める。


「会長」


その名前に真守の表情が変わる。


「……会長?」


「多分、独断でやってる」


短い言葉。


だが妙に納得してしまう。


真守の頭の中で色々なことが繋がり始めていた。なぜ会長は異常なほど情報が早いのか、なぜ生徒達の動きを把握しているのか。


なぜ——。


「……」


思い返せば違和感はずっとあった。ただ、見ないようにしていただけだった。


黒ヶ峰はそんな真守を見ながら続ける。


「屋上は盗聴難しい。風が強いし、広い。見たところ監視カメラも一台だけ」


真守は反射的にカメラを見る。屋上の端に設置されていた。


「だから連れてきた」


「……」


ようやく意味が分かった。


だから生徒会室で黙れと言ったのか、だからメモを使ったのか、全部繋がる。


「……なんで俺になんかに教えてくれたんだ」


真守が聞く。


黒ヶ峰は少しだけ考えた。


それから。


「気持ち悪いから」


「……は?」


「普通に監視されるのは不愉快だし、怖いし、嫌い」


好き放題だった。


「容赦ないな」


「事実」


即答だった。


黒ヶ峰は続ける。


「生徒会入ってから会長を見てた。最初は違った、少なくとも今ほどじゃなかった」


風が吹く。


黒ヶ峰の黒髪が揺れる。


「最近」


少しだけ間。


「酷い」


真守は黙る。


黒ヶ峰がここまで言うのは珍しかった。


「この事は、神楽坂先輩も?」


「うん」


即答だった。


「知ってる。私と繋がってるし」


「……」


真守は思わず苦笑する。


やっぱりそうだった。アリスと黒ヶ峰が同じ方向を向いているのは何となく感じていた。


「止めたいと思ってる」


黒ヶ峰が言う。


「でも証拠がない」


「……」


「だから静かに見てる」


その言葉に重みがあった。


感情論じゃない。ずっと観察していた人間の言葉だった。


「……つまり」


真守が整理する。


「黒ヶ峰も神楽坂先輩も会長を疑ってるってことか」


「それは、少し違う」


黒ヶ峰は首を横に振った。


「私は誰の味方でもない。会長の味方でもないし、楽々浦の味方でもない」


中立。


その言葉通りだった。


黒ヶ峰らしい。


「じゃあなんで」


真守が聞く。


「俺に教えるんだよ」


黒ヶ峰は少し考える。


そして。


「楽々浦の方がまだ信用できる」


「……なんでだよ」


「アホだから」


「悪口だろ」


「褒めてる」


「どこがだよ」


思わずツッコミが出る。


黒ヶ峰は少しだけ口元を緩めた気がした。


本当に少しだけだった。


「会長は頭いい、だから怖い。だけど、楽々浦はアホ、だから分かりやすい」


「全然嬉しくねぇ」


「でも、まだ信用できる」


真守は何も言えなくなる。


褒められているのか貶されているのか分からなかった。


黒ヶ峰はフェンスから離れる。


「とにかく」


真面目な声だった。


「周りに気を付けて、不用意に話さないことね。どこで聞かれているか分からないから」


「……分かった」


真守は頷く。


黒ヶ峰はさらに続ける。


「でも、特待生寮は大丈夫。少なくとも私が確認した限りでは盗聴器も監視カメラもない。だから安心して」


その言葉に少しだけ肩の力が抜ける。


白ヶ崎と真希那。少なくとも二人との時間までは覗かれていないらしい。


「……ありがとな」


真守は素直に言った。


黒ヶ峰は一瞬だけ止まる。


そして。


「別に」


いつもの調子だった。


それだけ言うと、そのまま屋上の扉へ向かう。


ガシャンと、扉が閉まる。屋上には真守だけが残された。


「……」


風が吹く。


会長、監視カメラ、盗聴器、円山家之墓。


頭の中でバラバラだった情報が少しずつ繋がり始めていた。だが、繋がれば繋がるほど不気味になる。


もし黒ヶ峰の言葉が本当なら、もし会長が本当に裏で動いているなら。赤坂が隠れている理由も、アリスが警戒している理由も、全部、自分が思っていたよりずっと深い話なのかもしれない。


真守は空を見上げる。


雲がゆっくり流れていた。


そして初めて思う。


この学校は、自分が知っているよりずっとおかしいのかもしれない。

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