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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
最終章 俺×愛の形=それぞれの道へ進みます。〜答え合わせ編〜
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213/224

212話 俺×警告=絶対に譲れません。

翌朝。


昨夜は何度も目が覚めた。


眠りが浅かったのか、それとも考え事をしていたからなのか、自分でもよく分からない。


目を開けるたびに思い出したのは、昨日のことだった。


墓地で見た『円山家之墓』という文字。そこで手を合わせていた赤坂の姿。そして、その帰り道に白ヶ崎と過ごした時間。


デートは楽しかった。


間違いなく楽しかったはずなのに、その最後に起きた出来事が全部をかき乱していた。


土下座、撮影されていたスマホ、笑い声。あの光景が何度も頭をよぎる。


「……」


制服のネクタイを整えながら小さく息を吐く。


考えても答えは出ない。だから、とりあえず学校へ向かった。


教室へ顔を出した後、真守はいつものように生徒会室へ向かっていた。


窓の外では運動部の朝練が見える。廊下には授業前のざわめきが響いている。いつもと変わらない朝。


そのはずだった。


だが、生徒会室へ近づくにつれて胸の奥に妙な違和感が広がっていく。


理由は分からない。それでも何かが引っかかっていた。


扉の前で立ち止まる。深呼吸を一つ、そして扉を開いた。


「失礼します」


いつも通りの挨拶。


しかし。


「おはよう、楽々浦君」


返ってきた会長の声を聞いた瞬間、真守は無意識に背筋を伸ばしていた。


声はいつも通りだった。


柔らかく穏やかで優しい。けれど何かが違う。怒鳴られているわけではない。睨まれているわけでもない。


それなのに空気だけが妙に重かった。


「……おはようございます」


返事をすると、会長は小さく微笑む。


「少し時間をもらってもいいかな」


「……はい」


断れる空気ではなかった。


真守は会長の机へ向かう。


室内は静かだった。池鶴も、三宝も、誰も口を開かない。まるで何かを待っているようだった。


会長は机の上に置いてあったスマホを手に取る。慌てる様子はない。怒っている様子もない。

朝のニュースでも見せるような自然さで画面を操作すると、そのまま真守へ向けた。


「これを見てくれるかな」


視線を落とした瞬間、真守は全てを理解した。


昨日の動画だった。繁華街の裏路地、白ヶ崎が捕まっている。そして自分が地面へ膝をつき、頭を下げている。タイトルには、


『八ツ星学園副会長、土下座』


そんな文字が付けられていた。再生数は既にかなり伸びている。コメント欄も酷い。


『生徒会ざまぁ』『副会長弱すぎ』『鉄拳制裁の報いだろ』そんな言葉が、好き勝手な言葉が並んでいた。


真守は何も言わず画面を見る。会長はそんな真守を見ながら静かに尋ねた。


「感想は?」


「……特にありません」


短く答える。


会長は少しだけ笑った。だが目は笑っていなかった。


「そうか」


そう呟くとスマホを机へ置く。


そして指を組みながら続けた。


「僕は残念だよ」


静かな声だった。


「学校の評判は下がる。生徒会全体の評判も下がる。僕の個人の評判も下がる」


淡々と並べられる言葉。怒鳴り声の方がまだ楽だった。静かだからこそ重い。


「そして何より」


会長の視線が真守へ向く。


「僕は君に赤坂の調査を頼んだはずだ」


「……」


真守は黙った。


墓地のことが頭をよぎる。


赤坂の姿ら円山家之墓。全部話すこともできた。だが、それは違う。赤坂は会いたがっていなかった。少なくとも今は。


だから会長には話せない。


「何か分かったことはあるかい?」


「……まだです」


即答だった。


嘘だった。でも、完全な嘘ではない。だが本当でもない。


「本当に?」


「……はい」


会長は数秒黙る。


その沈黙が妙に長かった。


やがて小さく息を吐く。


「そうか」


そう言ってから続けた。


「それなのに、随分余裕があるんだね」


「……」


「繁華街」


会長は動画を軽く叩く。


「遊びに行っていたのかな?」


「違います」


「違う?」


「……」


答えられない。


白ヶ崎とのデートだった。調査の帰りだった。それは、どちらも言えなかった。


会長は小さく微笑む。


「彼女ができたかどうかなんて、僕は興味ないよ」


穏やかな口調だった。


本当に興味がないようにも聞こえる。だからこそ次の言葉が異様だった。


「ただね」


会長は椅子へ深く腰掛ける。


「人は大切なものができると弱くなる」


静かな声。


「守りたいものができる。失いたくないものができる。だから判断を誤る」


真守は黙って聞いていた。


嫌な予感しかしなかった。


「楽々浦君」


名前を呼ばれる。


「君は優しいからね」


会長は穏やかに笑う。


「だからこそ心配なんだ」


そして、本当に自然な流れで言った。


「もし、その子が調査の邪魔になるなら」


一拍。


「退学にする」


「っ……!」


真守の表情が変わる。


空気が凍る。


池鶴も、三宝も、みんな動かない。


会長だけが静かだった。


「君のためだよ」


優しい声。


「余計なものは切り捨てるべきだ」


その瞬間だった。


「関係ないです」


真守が口を開く。


自分でも驚くほど強い声だった。


会長の目が僅かに細くなる。


「……なんだって?」


「白ヶ崎は関係ない」


真守は視線を逸らさない。


「今回の件にも、赤坂先輩の件にも、退学なんて話を出す必要はありません」


生徒会室が静まり返る。


今まで楽々浦真守は会長に逆らわなかった。その真守が初めて真正面から否定した。


「……」


会長はしばらく何も言わなかった。


やがて、小さく笑う。


「そうか」


それだけだった。だが、その笑顔は今までで一番冷たく見えた。


「仕事に戻っていいよ」


真守は返事をしない。


そのまま踵を返し、副会長の席へ向かった。


胸の奥がざわつく。


怒りなのか、不安なのか、それとも別の何かなのか。自分でも分からなかった。


しばらくして生徒会室の扉が開く。


入ってきたのは黒ヶ峰だった。いつも通り無表情、いつも通り無愛想。


「……楽々浦」


「ん?」


「書類」


ファイルを差し出される。


真守が受け取ろうとした時だった。黒ヶ峰の視線が止まる。珍しくじっと見られていた。


「……なんだよ」


真守が聞く。


黒ヶ峰は少しだけ首を傾けた。


「顔」


「……は?」


「怖い」


即答だった。


「……」


思わず言葉に詰まる。


黒ヶ峰はさらに続ける。


「集中できてない」


「……そう見えるか」


「うん」


短い返事。


それから少しだけ間を置く。


「なんかあった?」


「別に」


反射的に答える。


だが黒ヶ峰は視線を逸らさない。


「嘘だ、会長と揉めてた」


「……」


「楽々浦」


その声は少しだけ柔らかかった。


「話くらいなら聞いてあげる」


真守は思わず黒ヶ峰を見る。


黒ヶ峰は相変わらず無表情だった。それでも今だけは、少しだけ違って見えた。


生徒会室の重苦しい空気の中で、その一言だけが妙に温かく感じられた。

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