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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
最終章 俺×愛の形=それぞれの道へ進みます。〜答え合わせ編〜
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212/224

211話 俺×選択=負けてもいい時があります。

墓地を出た後も、真守の頭の中には『円山家之墓』という文字が残り続けていた。


会長の苗字、赤坂が通っていた墓、施設。頭の中で何度も繋げようとする。


けれど、あと一歩のところで答えが見えない。


「……」


駅へ向かう道を歩きながら、真守は無意識に眉間へ力を入れていた。


風が吹く。


夕方の空気は少し冷たくなり始めていた。


隣を歩いていた白ヶ崎が、そんな真守の横顔を見上げる。


「……真守くん」


「ん?」


呼ばれて顔を向ける。


白ヶ崎は少しだけ困ったように笑った。


「今日はもう考えるのやめよう」


「……」


真守は少しだけ目を瞬かせる。


「でも」


「今の真守くん」


白ヶ崎が言葉を続ける。


「すごく怖い顔してる」


「……そんなにか?」


「うん」


即答だった。


真守は苦笑する。


自分では気付いていなかった。それだけ考え込んでいたらしい。


「……まあ、そうかもな」


そう言って息を吐く。


すると白ヶ崎は小さく頷き、少しだけ歩幅を広げた。


「だから」


「?」


「今日はデートしよ」


「……は?」


思わず変な声が出た。


白ヶ崎は真顔だった。


「考えるのは明日」


「いや、急だな」


「急じゃない」


白ヶ崎はそう言うと、真守の手を掴んだ。


「行くよ」


「う、うん」


そのまま引っ張られるように電車へ乗る。


降りたのは繁華街だった。休日ほどではないが、人通りは多い。

明るい看板、雑踏、学生達の笑い声。墓地の空気とは正反対だった。


「……なんか久しぶりだな」


真守が呟く。


「何が?」


「こういうの」


白ヶ崎は少しだけ考えてから、小さく笑った。


「確かに」


その後は、本当に普通のデートだった。


雑貨屋へ入る。


白ヶ崎が猫のキーホルダーを見ていた。


ゲームセンターへ入る。


真守がクレーンゲームで散財した。


「……取れない」


「下手」


「うるさい」


ようやく一つ取れたぬいぐるみを白ヶ崎へ渡す。


白ヶ崎は少しだけ嬉しそうだった。


クレープも食べた。


ベンチに座って他愛ない話をする。


気付けば、墓地で感じていた重苦しさは少しだけ薄れていた。


「……ありがとな」


ぽつりと真守が言う。


「何が?」


「連れてきてくれて」


白ヶ崎は少しだけ目を見開く。


それから小さく笑った。


「どういたしまして」


その笑顔を見て、真守も少しだけ笑った。


そして、日が沈み始めた頃だった。帰ろうとしていた二人の前に、人影が現れる。


「……あ?」


真守の足が止まった。


見覚えがある。いや、忘れるはずがない。


「楽々浦じゃねぇか」


男が笑う。その後ろにも数人。


全部で五人。全員、見たことがあった。


鉄拳制裁、退学、停学、生徒会。全部に関わった連中だった。


「……」


真守の表情が消える。


男達は楽しそうだった。恨みを晴らす瞬間を待っていたような顔だった。


「生徒会様じゃん」


「副会長様じゃん」


「久しぶりだなぁ」


ゲラゲラ笑う。


真守は一歩前へ出る。


しかし、その瞬間だった。


「っ!」


白ヶ崎の声が聞こえた。


振り返る。


別の男が背後から白ヶ崎の腕を掴んでいた。


「離せ」


真守の声が低くなる。


男達は笑う。


「怖ぇ怖ぇ」


「彼女か?」


「可愛いじゃねぇか」


白ヶ崎は抵抗しようとする。


けれど相手は男だ。しかも一人ではない。振り払うには厳しい。


真守は冷静に状況を見る。


五人、全員男、自分一人ならどうにでもなる。


だが——


白ヶ崎がいる。


少しでも判断を間違えれば、白ヶ崎が怪我をする。その可能性だけは絶対に許せなかった。


男の一人がスマホを取り出した。そして、そのままカメラがこちらに向ける。


「動画回しとけ」


「おう」


録画が始まる。


「副会長様の名シーン撮らねぇとな」


男達は楽しそうだった。


そして。


「土下座したら許してやるよ」


笑いながら言った。周囲からも笑い声が上がる。本気で馬鹿にしている。


白ヶ崎の顔が強張る。


「真守くん」


止めようとしているのが分かった。だが、真守は白ヶ崎を見る。


「大丈夫」


それだけ言った。


「……っ」


白ヶ崎が何か言おうとする。


けれど真守は聞かなかった。


次の瞬間、躊躇なく膝をつく。アスファルトの冷たさが伝わる。そのまま両手を地面につける。そして頭を下げた。


土下座だった。


周囲が一瞬静まり返る。その後、爆笑が起きた。


「マジでやった!」


「副会長ざまぁ!!」


「生徒会ざまぁ!!」


「撮れてる撮れてる!」


「最高だろこれ!」


スマホのカメラが向けられる。


笑い声が響く。


けれど真守は動かない。恥ずかしいとも思わなかった。白ヶ崎が無事ならそれでいい、本当にそれだけだった。


男達はしばらく笑い続けた。やがて満足したのか、白ヶ崎を離す。


「じゃあな、副会長様」


「今度はもっと面白いことしろよ」


最後まで笑いながら去っていった。


静かになる。さっきまでの笑い声が嘘みたいだった。


白ヶ崎は俯いている。拳が震えていた。怒りか、悔しさか、いや、その両方だろう。


二人は何も言わず歩き始めた。


帰り道、しばらく沈黙が続く。やがて白ヶ崎が口を開いた。


「……ごめんなさい」


小さな声だった。


真守は隣を見る。


「何が?」


「私が捕まったから」


白ヶ崎は俯いたまま続ける。


「私がもっと強ければ」


「違う」


真守はすぐに否定した。


「でも——」


「違う」


もう一度言う。


「咲音が無事だった」


少しだけ笑う。


「それで十分」


「……」


白ヶ崎の足が止まりそうになる。


言葉が出てこない。


真守は何事もなかったように前を見る。本当に気にしていないのが伝わる。だから白ヶ崎は余計に苦しかった。


「……馬鹿」


小さく呟く。


真守には聞こえなかった。


やがて寮へ着く。


見慣れた建物、見慣れた玄関、ようやく帰ってきたという実感が湧いた。


「ただいま」


真守が扉を開ける。


その声と同時に、静かな夜の空気が二人を迎えた。


その頃にはもう。


繁華街で撮られた動画は、少しずつSNSへ広がり始めていた。

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