表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
最終章 俺×愛の形=それぞれの道へ進みます。〜答え合わせ編〜
PR
205/224

204話 俺×現実=止まってくれません。

校舎の廊下を歩く。


窓の外では昼の光がグラウンドを照らしていた。運動部の掛け声が遠くから聞こえてくる。文化祭が終わって数日が経ち、学校は少しずついつもの日常を取り戻していた。


それなのに、真守の中だけはまだ落ち着いていなかった。


神宮丸の大声、白ヶ崎の照れた顔、真希那の泣き顔。朝から何度も繰り返されたやり取りが頭の中に残っている。


思い返すたびに少しだけ頬が熱くなった。


「……」


小さく息を吐く。


昨日までとは違う。その実感だけは何度も押し寄せてくる。


白ヶ崎と付き合った。


たったそれだけのことなのに、見える景色が少しだけ変わった気がしていた。


廊下を歩きながら自然と考えてしまう。


今頃、白ヶ崎は教室で何をしているだろうか、昼休みにちゃんと話せるだろうか、帰りは一緒に帰れるだろうか、そんなことばかり考えている自分に苦笑した。


けれど、生徒会室へ近づくにつれて、その柔らかい気持ちは少しずつ消えていく。


現実が近づいてくる。


赤坂の件、会長の違和感、何も進んでいない調査。恋愛だけしていられる状況ではない。


それを嫌でも思い出させられる。


「……」


生徒会室の前で足を止める。


深呼吸を一つ。肺の中の空気を吐き出してから扉へ手をかけた。


「失礼します」


静かに中へ入る。


生徒会室の空気は変わらない。


紙の匂い、静寂、張り詰めた空気。何度来ても慣れない独特の息苦しさがそこにはあった。


「……おはようございます」


軽く頭を下げる。


すると。


「おはよう、楽々浦君」


会長が柔らかく微笑んだ。


いつも通りの声、いつも通りの笑顔。それなのに、真守は反射的に背筋を伸ばしてしまう。


「……」


視線が向けられる。


たったそれだけだった。それなのに、自分の中を覗き込まれているような感覚があった。


会長は少しだけ首を傾げる。


「少し、表情が変わったね」


「……え?」


思わず声が漏れた。


会長は楽しそうに笑う。


「何かいいことでもあったのかな?」


「……」


心臓が跳ねる。


一瞬だけ白ヶ崎の顔が頭に浮かぶ。けれどすぐに打ち消した。


「……特にそういうのは」


反射的に答える。


だが、自分でも分かっていた。多分隠せていない。神宮丸には一瞬で見抜かれた。真希那なんて言うまでもない。


会長ほどの人間なら気付いていても不思議じゃない。


「……そうか」


会長はそれ以上追及しなかった。


ただ静かに微笑む。


「それならいいんだ」


「……」


その反応が逆に怖い。何を考えているのか分からない。


会長は手元の書類へ視線を落とした。


「ただ——」


その一言で空気が変わる。さっきまでの穏やかさが少しだけ薄れる。


「赤坂の件は、まだ進展なしかな?」


「……っ」


胸の奥が小さく詰まった。


現実に引き戻される。


「……はい」


短く答える。


「……」


会長は静かに真守を見る。


怒っているわけじゃない。責めているわけでもない。それなのに重い。


「もう数日経っている」


穏やかな声だった。だがその一言一言がじわじわと圧をかけてくる。


「そろそろ、“分からない”では困るよ」


「……」


言葉が刺さる。


反論できなかった。何も進んでいないのは事実だからだ。


「……すみません」


小さく頭を下げる。


沈黙が落ちる。


数秒しか経っていないはずなのに、その時間がやけに長く感じた。


「……楽々浦君」


名前を呼ばれる。


顔を上げる。


会長は相変わらず微笑んでいた。


「君は優しいからね」


「……」


「全部、一人で抱え込もうとする」


その言葉に少しだけ心が揺れる。


この前、師範にも似たようなことを言われた。頼れ、と。一人で抱えるな、と。


「でも」


会長は続ける。


「優しさだけでは解決できないこともある」


「……」


赤坂の顔が浮かぶ。


施設で会えなかった時のこと、返事のない扉、拒絶、会いたくないという意思。


そして、白ヶ崎の顔も浮かぶ。


昨日、自分の気持ちを受け取ってくれた。守りたいと思った。失いたくないと思った。


だからこそ、今までよりも失敗できない気がしている。


「……」


色んな感情が頭の中で混ざる。


会長はそんな真守を静かに見ていた。何かを確かめるように、何かを待つように。


その視線が妙に居心地悪かった。


「……期待しているよ、楽々浦君」


会長が小さく笑う。


その一言だけで胸が重くなる。


期待。


信頼。


そう言われているはずなのに、なぜか追い詰められている気がした。


「……はい」


それしか言えなかった。


しばらくして真守は生徒会室を出る。


扉が閉まる。その瞬間、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。


「……はぁ」


長く息を吐く。


思っていた以上に疲れていた。


壁に軽く背中を預ける。


「……なんなんだよ」


小さく呟く。


会長は何か知っているのか、それとも本当に急かしているだけなのか、分からない。


けれど、違和感だけは消えない。


赤坂の名前が出るたびに、会長の空気は少しだけ変わる。


その理由が見えない。


「……」


考えれば考えるほど分からなくなる。


その時だった。


スマホが震える。


「……?」


ポケットから取り出す。


画面を見る。


表示された名前を見た瞬間、真守の表情が変わった。


[葵先輩]


すぐにメッセージを開く。


そこには短い文章が表示されていた。


『ちょっといいかな?赤坂さんのことで少し分かったことがある』


「……っ」


心臓が跳ねる。


止まっていた歯車が、ようやく動き出したような感覚だった。


真守はスマホを握り直す。


さっきまで感じていた疲労が一気に消えていた。


赤坂に繋がる何か、ずっと探していた手掛かり。それが今、目の前に現れようとしている。


「……葵先輩」


小さく呟く。


そして真守は、すぐに返信を打ち始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ