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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第五章 俺×真実=繋がってきます。〜愛の告白編〜
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202話 俺×変化=隠せる気がしません。

寮へ戻る道は、思っていたより静かだった。

夕方の空は少しずつ暗くなり始めていて、街灯にも灯りが付き始めている。


ついさっきまで屋上にいた。


白ヶ崎に想いを伝えて、白ヶ崎からも想いを聞いて。


そして——恋人になった。


言葉にすると簡単なのに、どうしても現実味がなかった。


「……」


隣を見る。


白ヶ崎が歩いている。ただそれだけなのに、妙に意識してしまう。


今までだって何度も一緒に歩いてきた。隣にいることなんて珍しくもない。なのに今日は違った。


目が合うだけで照れくさい。


少し肩が触れそうになるだけで心臓が変な動きをする。自分でも笑ってしまうくらい単純だった。


「……」


ふと視線を下げる。そこで真守は気付いた。


手が繋がったままだった。屋上を出てからずっと。廊下を歩いている時も、校門を出た時も、駅前を通った時も。


ずっと。


「……」


白ヶ崎も気付いているはずなのに何も言わない。少し俯きながら歩いている。


耳が赤い。多分、自分も同じ顔をしている。


「……なんか」


真守が小さく呟く。


「変な感じだな」


白ヶ崎は少しだけ肩を揺らした。


「……うん」


返事も小さい。けれど、その声はどこか嬉しそうだった。


また心臓がうるさくなる。


落ち着かない。けれど嫌じゃない。むしろ、手を離したくないと思っている自分がいた。


今までなら恥ずかしくて離していたかもしれない。


でも今は違う。


こうしていることが当たり前になってほしいと思っていた。そんなことを考えているうちに寮へ到着する。


玄関の前で二人同時に足が止まった。


理由は分からない。けれど、ここから先はまた現実に戻る気がした。


「……行くか」


「……うん」


真守が扉を開く。


「ただい——」


そこまで言って止まる。


リビングのソファに座っていた真希那が、こちらを見て固まっていた。


「……」


真希那の視線がゆっくり下へ移動する。


そして。


完全に停止した。


「……え」


小さな声。


つられて真守も下を見る。


「あ」


白ヶ崎も同時に声を漏らした。


繋いだままの手。


そこでようやく気付く。慌てて離そうとするが、少し遅かった。


「……」


真希那が立ち上がる。


数秒。


本当に数秒だけ無言だった。


そして——。


「うわあああああああああああああん!!!」


盛大に泣いた。


「まーくんがぁぁぁぁぁ!!!」


「うるせぇ!!」


思わず叫ぶ。


真希那はソファへ倒れ込む。クッションを抱き締めながら本気で泣いていた。


「取られるぅぅぅぅぅ!!」


「だから誰にだよ!!」


「咲音ちゃんにぃぃぃ!!」


「いや人聞き悪いな!?」


真守が頭を抱える。


横では白ヶ崎も困り果てていた。


「……あの」


恐る恐る口を開く。


「……取ってません」


「うわぁぁぁぁぁん!!」


なぜかさらに泣いた。


「だからなんでだよ!!」


「だってぇぇぇ!!」


涙目のまま叫ぶ。


「咲音ちゃん彼女感すごいもん!!」


「っ!!」


白ヶ崎が真っ赤になる。


耳まで赤い。


そして。


「……か、彼女ですけど」


言った。


言ってから自分で固まった。


部屋が静まり返る。


真守も固まった。

真希那も固まった。


そして。


「うわあああああああん!!」


また泣いた。


「めんどくせぇなほんと!!」


「だってぇぇぇ!!」


真希那が涙を拭う。


けれど、真守は途中で気付く。その泣き方が少し違うことに。

さっきまでの大袈裟な泣き方じゃない。本当に寂しそうだった。


「……」


真守が少しだけ黙る。


真希那は笑っている。でも目だけは笑っていない。


「……」


昔のことが頭をよぎる。


両親が仕事で忙しかった日、病気で寝込んだ日、学校で嫌なことがあった日、いつも真希那がいた。


姉だった。けれど時々、母親みたいでもあった。誰よりも近くで自分を見てきた人だ。

そんな相手からすれば。今日という日は、少し特別なのかもしれない。


「……真希ねぇ」


真守が呼ぶ。


真希那が顔を上げる。


「ん?」


涙で少しぐしゃぐしゃになった顔。


「唯一無二の実の姉なんだから」


真守は少しだけ笑った。


「別に永遠の別れじゃないだろ」


「……ほんと?」


子供みたいな声だった。


「ほんとだよ」


即答する。


真希那はしばらく黙った。


そして。


「……うぅ」


また少し泣いた。


今度はさっきより静かだった。


「寂しいんだもん……」


ぽつりと零す。


「……」


真守は何も言えなかった。


その気持ちは本物だから。


真希那は泣きながら笑う。


「でもね」


少しだけ白ヶ崎を見る。


「咲音ちゃんなら納得してる」


「……え?」


白ヶ崎が目を丸くする。


「だってずっと好きだったの知ってるし」


真希那が笑う。


「まーくんのこと、本当に大事にしてくれてたし」


少しだけ声が震える。


「だから応援してる」


それは本音だった。


心から。


その言葉を聞いた瞬間だけ、白ヶ崎の瞳がわずかに揺れた。さっきまでの照れや戸惑いとは違う。救われたような、安心したような、そんな表情だった。


「でも寂しいのは寂しいからね!?」


「どっちなんだよ」


「両方だよ!!」


即答だった。


真守は思わず笑ってしまう。白ヶ崎も少しだけ笑った。

その空気を見て。真希那もようやく少し安心したようだった。


「でもね、咲音ちゃん」


急に真顔になる。


「まーくん女性経験ゼロだから気を付けてね」


「ぶふっ」


真守が吹き出す。


「何言ってんだよ!!」


「絶対変なところでテンパるから」


「やめろ!!」


「え、えっと……」


白ヶ崎まで真っ赤になる。


「そ、そういうのはまだ……」


「まだって何!?」


「真希ねぇ黙れ!!」


さっきまで泣いていた人間とは思えない。


真希那はケラケラ笑う。その笑顔を見て、真守は少しだけ安心した。

完全に吹っ切れたわけじゃない。きっと寂しさは残っている。それでも、真希那はちゃんと祝福してくれている。


だから、真守も少しだけ笑った。


騒がしい。


本当に騒がしい。


けれど。


そんな時間が、少しだけ愛おしかった。


ふと見ると、白ヶ崎が小さく笑っている。


その表情を見て、真守は改めて思う。ようやくここまで来たんだな、と。

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