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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第五章 俺×真実=繋がってきます。〜愛の告白編〜
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202/224

201話 俺×関係=これが答えでいいですか。

屋上を吹き抜ける風は、さっきまでよりも少しだけ穏やかになっていた。


夕焼けも、もう終わりかけている。


オレンジ色だった空はゆっくりと紫色へ変わり始めていて、校舎の影が長く伸びていた。


その景色を眺めながら、真守は小さく息を吐く。


隣には白ヶ崎がいた。


いや、もう違う。白ヶ崎咲音は、今までとは違う立場で隣にいる。

そう理解しているはずなのに、不思議と実感が追いついてこなかった。


「……」


手はまだ繋がったままだった。


離そうと思えば離せる。けれど、どちらも離そうとしない。


離した方が不自然な気さえした。それなのに、妙に落ち着かない。何か話した方がいい気がする。けれど、何を話せばいいのか分からない。


告白する前までは、あれだけ言葉が浮かんでいたのに。


肝心なことを伝え終えた途端、頭の中が妙に静かになってしまった。


そんな沈黙を破ったのは白ヶ崎だった。


「あのさ」


少しだけ遠慮がちな声。


真守はそちらを見る。


「ん?」


白ヶ崎は一度視線を逸らして、それから小さく真守を見る。


「……これって」


言葉を探すように口を開く。


「……付き合ってるってことで、いいんだよね」


その問いに、真守は一瞬だけ固まった。


付き合う。


恋人。


そういう言葉を、自分が使う日が来るなんて思っていなかった。

ましてや、その相手が白ヶ崎だなんて、少し前の自分なら想像もできなかっただろう。


「……」


だからこそ、返事が少し遅れた。


白ヶ崎が不安そうにこちらを見る。その視線に気づいて、真守は慌てて首を縦に振った。


「うん」


小さく息を吐く。


「俺もこういうの初めてだから分かんないけど」


少しだけ苦笑する。


「そういうことになるんじゃないか」


正直な答えだった。


恋人同士が何をするのかもよく分からない。付き合った経験なんてない。


それでも、好きだと伝えて、好きだと返されて、手を繋いでいる。

だったら、多分そういうことなんだろう。


「……そっか」


白ヶ崎が小さく呟く。その声は驚くほど柔らかかった。そして、少しだけ口元が緩む。


ほんのわずかな変化。けれど真守には、それが誰よりも嬉しそうな表情に見えた。


「……」


また沈黙が落ちる。


けれど、不思議と苦しくない。何も話さなくても成立する時間だった。


むしろ、この静けさすら心地良かった。


そんな中で、真守は手に違和感を覚えた。白ヶ崎の指先に、少しだけ力が入る。


握る力が強くなる。離れないように、確かめるように、そんな感覚だった。


何気なく白ヶ崎を見る。


そして。


「……え?」


思わず声が漏れた。


白ヶ崎の目元が少しだけ潤んでいた。


夕焼けの光のせいじゃない。


明らかに涙だった。


「おい」


思わず声をかける。


「なんで泣いてるんだよ」


「泣いてない」


即答だった。けれど、声が微妙に震えている。全く説得力がない。


「いや泣いてるだろ」


「泣いてない」


「泣いてる」


「泣いてない」


子供みたいなやり取りだった。


白ヶ崎は少しだけ顔を逸らす。その横顔を見ているうちに、真守はふと不安になった。


もしかして、何か間違えたんじゃないか、そんなありもしないことを考えてしまう。


「……嫌だったか?」


思わず口から出た。


すると、白ヶ崎が勢いよく顔を上げた。


「は?」


本気で意味が分からないという顔だった。


「なんでそうなるの」


「いや……」


「それは、違う」


はっきりと言い切られる。その声には迷いがなかった。


「そうじゃなくて」


白ヶ崎は少しだけ目を伏せる。


言葉を探しているようだった。


そして。


「……なんか」


小さく息を吸う。


「力抜けた」


ぽつりと呟く。


真守は何も言わなかった。でも、その意味は分かる気がした。


病院で出会って、初恋をして、離れ離れになって、ようやく再会して、それでも素直になれなくて。


ずっと不安で。


ずっと怖くて。


その全部を抱え続けてきたのだろう。


張り続けていた糸が、ようやく緩んだ。そんな感覚なのかもしれない。


「……」


白ヶ崎の瞳から、また涙が一筋だけ流れる。それを見ても、真守はもう何も言わなかった。


泣いてもいいと思った。


むしろ泣かない方がおかしい。


何年も抱えていた恋なのだから。


「……ダサいよね」


白ヶ崎が小さく呟く。


「別に」


真守は自然に返した。


「こういう時くらい泣いてもいいだろ」


白ヶ崎が少しだけ目を見開く。


「我慢する方がよっぽど良くない」


真守自身、上手いことを言ったつもりはなかった。ただ思ったことをそのまま言っただけだった。


けれど、白ヶ崎は小さく笑った。


「……なにそれ」


「知らん」


「ふふ」


小さな笑い声が漏れる。その声を聞いているだけで、胸の奥が温かくなる。


しばらく二人で夕焼けを見ていた。空はもう夜へ変わろうとしている。

そろそろ帰らないといけない時間だった。


「帰るか」


真守が呟く。


「……うん」


白ヶ崎が頷く。


どちらからともなく歩き出す。


それでも手は繋いだままだった。離す理由が見つからない。いや、本当は離したくなかったのかもしれない。


屋上の扉を開く。


少し冷たい空気が廊下から流れ込んできた。


昼間の喧騒はもうなくなっている。静かな校舎、誰もいない廊下、その中を二人で歩く。


「……咲音」


真守が名前を呼ぶ。


「なに?」


返事が返ってくる。


以前と同じはずなのに、どこか違う。名前を呼ぶだけで妙に照れくさい。


「……いや」


言葉に詰まる。


呼んだ理由なんて特になかった。ただ呼んでみたかっただけだ。


「なんでもない」


そう答える。


白ヶ崎は少しだけ笑った。


「……なにそれ」


「知らん」


また同じ返事になる。


それでも、白ヶ崎は楽しそうだった。その笑顔を見ていると、真守まで少しだけ笑ってしまう。


当たり前じゃなかったものが、少しずつ当たり前になっていく。

今までは隣にいた、これからも隣にいる、ただそれだけのことなのに、世界が少しだけ違って見えた。


二人の足音が静かな廊下に響く。


急ぐ理由はない。この時間が終わってほしくないと、どこかで思っていた。


だから真守は歩幅を少しだけゆっくりにする。白ヶ崎も何も言わずに合わせてくる。


そのことが、少しだけ嬉しかった。


隣を見ると白ヶ崎がいて、手を繋いでいる。そして今は、それが当たり前になった。


真守は小さく息を吐く。


答えなんて、もうとっくに出ていたのかもしれない。遠回りして、ようやく辿り着いた。


それでも、この答えで良かったと、今は素直に思えた。

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