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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第五章 俺×真実=繋がってきます。〜愛の告白編〜
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201/224

200話 俺×恋=1になりました。

風が静かに吹いていた。


屋上に出てから、どれくらい時間が経ったのか分からない。ほんの数十秒なのかもしれない。

けれど真守には、それが何分にも何十分にも感じられた。


夕焼けに染まった空は少しずつ色を変えている。オレンジ色だった空の端には、もう薄い紫色が混ざり始めていた。


昼と夜の境目。


その曖昧な時間の中で、二人だけが取り残されているような感覚だった。


「……」


白ヶ崎は俯いたままだった。


何も言わない。けれど、離れようともしない。その距離だけが現実だった。


さっき、自分は言った。


咲音がいい、好きなんだ。逃げずに、誤魔化さずに、ちゃんと全部伝えた。


もう引き返せない。引き返したいとも思わない。それでも——。


「……」


落ち着かなかった。


心臓がうるさい。手のひらに汗が滲んでいるのが分かる。

返事を待つだけなのに、その時間だけが異様に長かった。


何度か生死を潜り抜けてきた。


事件にも巻き込まれた。


殴られたこともある。


殺されそうになったことだってある。


それなのに、今が一番緊張している気がした。


「……」


白ヶ崎の肩が小さく震える。


それを見た瞬間、真守の胸が少しだけ締め付けられた。


もしかして、困らせたんじゃないか、急ぎすぎたんじゃないか、そんな考えが頭をよぎる。


けれど、次の瞬間。


「……ずるい」


かすれた声が零れた。


責めるような声じゃない。怒っているわけでもない。


ただ、長い間押し込めていた感情が耐えきれなくなって、少しだけ外に漏れてしまったような声だった。


「……咲音」


名前を呼ぶ。


白ヶ崎は顔を上げない。けれど、その肩はまだ小さく震えていた。


「……私」


言葉が続かない。


喉の奥で何かが詰まっているみたいだった。何度も息を整えて。それでも上手く言葉にならない。


その姿を見ているだけで、真守は胸が苦しくなった。


ずっと抱えていたのだろう。


病院で出会ったあの日から。


何年もの間、誰にも言えず、誰にも届かず。


ずっと、一人で。


「……好きなの」


ようやく出てきた言葉は、とても小さかった。


風が吹けば消えてしまいそうなほど弱い声。けれど真守には、誰の言葉よりもはっきり聞こえた。


「……大好きなの」


その瞬間。


白ヶ崎の瞳から涙が零れた。


ぽろり、と。


一粒。


そしてもう一粒。


堰を切ったように次々と溢れていく。


「……」


真守は何も言えなかった。


言葉が見つからない。


見つける必要もなかった。その涙だけで全部伝わってきたからだ。


病院で出会った日のこと、初恋だったこと、再会した日のこと、文化祭、事件、一緒に過ごした時間。


全部。


全部。


この涙の中に詰まっている気がした。


「……私」


白ヶ崎が声を震わせる。


「ずっと……」


息が詰まる。


それでも言葉を止めない。


「ずっと会いたかった」


涙が頬を伝う。


「また会えた時、本当に嬉しくて……」


苦しそうに笑う。


「でも忘れられてて」


少しだけ目を伏せる。


「思い出してもらえても、今度は隣にいる人が多すぎて……」


小さく肩が震える。


「私なんて特別じゃないのかなって」


「……」


真守は何も言わない。


ただ聞く。


今はそれが一番大事だと思った。


「それでも」


白ヶ崎は続ける。


「諦められなかった」


涙で滲んだ瞳が真守を見る。


「ずっと好きだったから」


夕陽がその横顔を照らしていた。それはどこまでも綺麗で、どこまでも苦しそうだった。


「……」


真守は一歩だけ前へ出る。


白ヶ崎は逃げない。


もう逃げる必要がないから、手を伸ばす。ただ、少しだけ迷う。けれど、その迷いはすぐに消えた。


そっと手を握る。


温かかった。


驚くほど。


ずっと近くにいたはずなのに、初めて触れたみたいに温かかった。


白ヶ崎の肩が小さく震えるが、その手がゆっくりと握り返される。


「……俺も」


真守は静かに言った。


「同じだ」


飾らない言葉だった。


格好いい言葉なんて思いつかない。でも、それで十分だった。


白ヶ崎の瞳が大きく揺れる。


「俺さ」


少しだけ笑う。


「恋愛とか全然分かんなかったんだよ」


本音だった。


「誰かを好きになるって、もっと分かりやすいもんだと思ってた」


白ヶ崎が黙って聞いている。


「でも違った」


夕焼け空を見上げる。


「気付いたら隣にいて、気付いたら心配してて、気付いたら会いたくなってて」


小さく息を吐く。


「それが当たり前になってた」


そして。


もう一度白ヶ崎を見る。


「だから」


真っ直ぐに。


逃げずに。


「俺は咲音が好きだ」


はっきりと言った。


今度こそ、最後まで。


白ヶ崎の瞳からまた涙が零れる。けれど今度の涙は、少しだけ柔らかかった。


悲しい涙じゃない。


長い間抱えていた想いが、ようやく届いた安心の涙だった。


「……真守くん」


名前を呼ばれる。その声は泣きそうなくらい優しかった。


そして、白ヶ崎は一歩前へ出る。


真守の制服をぎゅっと掴む。離さないように、消えてしまわないように、確かめるように。


「……よかった」


小さく呟く。


本当に小さな声だった。


けれど真守にははっきり聞こえた。


「本当によかった……」


肩が震える。


泣いている。


ようやく、ずっと抱えてきた恋が報われたのだから。


真守は何も言わなかった。ただ、そっとその肩を抱き寄せる。

白ヶ崎も抵抗しない。静かに額を預けてくる。


夕焼けの光が二人を包む。


風が吹く。


さっきまで冷たく感じていたはずなのに、今はどこか優しかった。


遠回りだった、何度もすれ違った、たくさん迷った。それでも、ようやく辿り着いた。


ずっと探していた答えに。


白ヶ崎咲音は真守の胸に顔を埋める。真守はその温もりを感じながら、静かに空を見上げた。

少しずつ夜へ変わっていく空は、不思議なくらい綺麗だった。


そして、胸の奥に浮かんだ言葉を、小さく噛み締める。


──自分の恋が一つになった。

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