表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第五章 俺×真実=繋がってきます。〜愛の告白編〜
PR
200/224

199話 俺×本音=届くことを祈ります。

放課後の教室は、思っていたよりも静かだった。


チャイムが鳴ってからそれなりに時間が経っている。すでに帰った生徒も多く、教室の中には数人しか残っていなかった。


誰かが椅子を引く音、鞄のファスナーを閉める音、友達同士の小さな笑い声。

そんな何気ない音だけが、妙にはっきりと耳に届く。


その一方で、自分の胸の中だけが落ち着かない。


心臓がずっと騒がしい。


まるで今さらになって告白の実感が追いついてきたみたいだった。


「……」


真守はゆっくりと席を立った。


何度も考えた、何度も迷った。それでも、もう決めている。


ここで逃げたら、きっとまた同じことを繰り返す。


誰かを傷つけるのが怖いから、関係が壊れるのが怖いから、そんな理由で先延ばしにしてきた。でも今回は違う。自分で決めた、だから進む。


「……咲音」


名前を呼ぶ。


白ヶ崎がゆっくりと顔を上げた。


「……なに?」


少しだけ間のある返事。


その声を聞くだけで緊張する。以前ならこんなことはなかった。


「……ちょっと来てほしい」


真守はそれだけ言った。


理由は言わない。言葉を足した瞬間に逃げ道を作ってしまいそうだったから。


「……どこ?」


「屋上」


短く答える。


「……」


白ヶ崎は何も言わなかった。


数秒の沈黙、その時間がやけに長く感じる。断られたらどうしよう、そんな不安が頭をよぎる。


けれど。


「……うん」


白ヶ崎は小さく頷いた。


それだけで十分だった。


二人は教室を出る。


廊下を歩く。足音だけが静かに重なっていく。会話はない。無理に話そうとも思わなかった。

今ここで言葉を交わしてしまったら、本当に言いたいことが薄れてしまう気がしたからだ。


階段を上る。


屋上へ続く最後の階段、そこだけは妙に長く感じた。


そして——。


屋上の扉を開く。


冷たい風が一気に流れ込んできた。夕方の空は少しずつ赤く染まり始めている。

文化祭が終わってから数日、季節はゆっくりと冬へ向かっていた。


空は高く、風は冷たい。それなのに胸の奥だけが熱かった。


扉が閉まる。静かな音だった。


その瞬間、世界から切り離されたような感覚になる。ここには二人しかいない、その事実が妙に重かった。


「……昨日の話、したい」


真守は振り返らずに言った。


昨日、白ヶ崎に止められた言葉。最後まで言えなかった想い。


それを今日伝えるために来た。


「……」


返事はない。


でも、白ヶ崎がちゃんと聞いているのは分かった。


「……俺」


言葉を探す。


胸の奥で何度も繰り返した言葉。


「ちゃんと決めた」


そこまで言った時だった。


「……なんで」


小さな声が背中に落ちた。


真守の言葉が止まる。


振り返ると、白ヶ崎は俯いていた。長い前髪が少しだけ揺れ、握った拳に力が入っている。


「……なんで、そんな普通なの」


声は震えていなかった。けれど、必死に抑えていることだけは伝わってきた。


「……え?」


真守は思わず聞き返す。


白ヶ崎は顔を上げない。


「……なんで」


もう一度呟く。


「……なんで、いつも通りでいられるの」


その言葉に真守は答えられなかった。


意味が分からないわけじゃない。でも、どう答えればいいのか分からない。


「……真守くんの周りってさ」


白ヶ崎がゆっくり顔を上げる。


視線がぶつかる。


その目は少しだけ赤かった。


「……いつも可愛い子ばっかりだよね」


冗談みたいな言葉だった。でも冗談じゃない、真守にも分かった。


「奏先輩も」


白ヶ崎が言う。


「葵先輩も」


一人ずつ名前を並べる。


「赤坂先輩も」


そのたびに胸が少しずつ重くなっていく。


「みんな真守くんの近くにいて」


「……」


「みんな真守くんのこと気にしてて」


少しだけ言葉が詰まる。


「みんな普通に話してる」


風が吹く。


白ヶ崎の髪が揺れる。


「……距離も近くて」


その言葉は少しだけ苦しそうだった。


「……それでも」


視線が真っ直ぐ向けられる。


「真守くんは普通で」


「……」


「何も変わってないみたいにしてる」


真守は何も言えなかった。


その通りだったから。


いつも通りでいればいいと思っていた、誰かを特別扱いしなければいいと思っていた。


でも、それは違ったのかもしれない。


「……私」


白ヶ崎が小さく息を吸う。


「ずっと不安だった」


夕陽が横顔を照らしている。


「病院で会ったこと思い出してくれて」


「……」


「嬉しかった」


声が少しだけ震える。


「本当に嬉しかった」


その言葉は真っ直ぐだった。


だからこそ苦しかった。


「でも」


白ヶ崎は続ける。


「思い出したあとも何も変わらなくて」


少しだけ笑う。


悲しそうな笑顔だった。


「真守くんは真守くんのままで」


「……」


「私だけが勝手に期待してる気がして」


胸が痛む。


「私じゃなくてもいいじゃん」


その言葉が落ちた瞬間、全部分かった。


白ヶ崎は怒っていたわけじゃない。呆れていたわけでもない。


ずっと怖かったんだ。


ずっと不安だったんだ。


選ばれないことが、特別じゃないことが。


「……違う」


真守の口が自然と動いた。


考えるより先だった。


一歩前へ出る。


白ヶ崎との距離が縮まる。


「違う」


もう一度言う。


今度ははっきりと。


白ヶ崎の目が揺れる。


「……俺は」


言葉を探す必要はなかった。


ここまで来るのに時間はかかった。

迷った、遠回りした、でも答えだけは決まっている。


「好きなんだ」


風が止まった気がした。


「……」


白ヶ崎の瞳が大きく揺れる。


「最初からじゃない」


真守は続ける。


「病院のこと思い出したからとか、そういうのじゃない」


ちゃんと伝えたかった。


「一緒にいて、助けられて、笑って」


少しだけ息を吐く。


「気付いたら隣にいるのが当たり前になってた」


夕焼けが少しずつ色を濃くしていく。


「いなくなるのが嫌だった」


「……」


白ヶ崎は何も言わない。


ただ真守を見ている。


「だから」


真守は一歩だけ近づいた。


「俺は咲音しかいない」


真っ直ぐに伝える。


逃げずにら誤魔化さずに、今度こそ──白ヶ崎だけに。


「……」


時間が止まったようだった。


風の音だけが聞こえる。


遠くでは運動部の声が響いている。誰かの笑い声も聞こえる。それでも、この場所だけが別の世界みたいに静かだった。


白ヶ崎の瞳が揺れる。


涙が溢れそうになる。けれど今はまだ零れない。


真守の言葉を、一つも聞き逃さないように必死に受け止めていた。


そして——。


ようやく、何年も胸の中に抱え続けた初恋が。


届いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ