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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第五章 俺×真実=繋がってきます。〜愛の告白編〜
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198話 俺×前触れ=落ち着かないです。

明日、全部言う。


昨夜、そう決めた。


白ヶ崎の部屋を出たあとも、その決意だけは揺らがなかった。


なのに——。


当日の朝になった今、真守はまるで別人みたいに落ち着きを失っていた。


制服のシャツに腕を通す。ボタンを留める。それだけの作業なのに、何度も指が止まる。


「……」


鏡を見る。


いつもと同じ顔。寝不足というほどでもない、体調も悪くない、それなのに胸の奥だけが妙に騒がしかった。


昨日は言えなかった。いや、言わなかった。白ヶ崎が止めたから。


それだけだ。


今日言えばいい、ただそれだけの話。頭では理解している、理解しているはずなのに。


「……はぁ」


小さく息が漏れた。


自分でも驚くくらい緊張していた。


告白なんてしたことがない。今までそういうことを考える余裕もなかった。


だから分からない。


何を言えばいいのか、どう伝えればいいのか、どんな顔で言えばいいのか。


「いつも通りでいいだろ」


自分に言い聞かせる。


それしか方法を知らなかった。


結局まとまらないまま寮を出て学校へ向かう。


朝の空気は冷たかった。季節は少しずつ冬へ向かっている。吐いた息が少しだけ白く見えた。

その景色を見ながら歩いているうちに、あっという間に教室へ着いてしまった。


「よぉ楽々浦」


神宮丸だった。


相変わらず朝から元気そうだ。


「……おう」


軽く返す。


席へ向かう。


そして自然と視線が横へ流れた。


「……」


白ヶ崎はもう来ていた。


窓際の席。


朝日が横顔を照らしている。


その姿を見た瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなる。


目が合う。


ほんの一瞬だけ。


それだけだった。


けれど、白ヶ崎はすぐに視線を逸らした。


「……」


真守も何も言えない。


言葉が出てこない。


昨日の続きを話したい。


けれどまだ違う。


今じゃない。


そう思ってしまう。


結局何も言えないまま授業が始まった。


ノートを開き、ペンを持つ。教師の声が教室に響いている。黒板に文字が並ぶ。


「……」


なのに頭に入らない。


気付けば同じ行を何度もなぞっていた。何を書いているのか自分でも分からない。


視線だけが勝手に白ヶ崎を探してしまう。そのたびに慌てて黒板を見る。


「……落ち着けって」


小さく呟いた。


隣の神宮丸が怪訝そうな顔をする。誤魔化すようにノートへ視線を戻した。


けれど、時間は待ってくれない。あっという間に昼休みになっていた。


チャイムが鳴り、教室が一気に騒がしくなる。


「よし、飯行くぞ」


神宮丸が立ち上がる。


「……ああ」


真守も立ち上がる。


白ヶ崎も無言で席を離れ、三人で食堂へ向かう。けれど会話は少ない。


神宮丸だけが一人で喋っている。


文化祭の話、クラスの話、どうでもいい雑談。本来なら笑って聞いているはずなのに、今日はほとんど耳に入ってこなかった。


食堂へ着き、席を確保する。そのあと、適当に注文する。


そして向かい側に白ヶ崎が座った。


「……」


距離は近い。


なのに遠い。


お互い何も言わない。昨日までなら自然に話せていたはずなのに、今は妙な沈黙がある。


それが逆に意識を強くさせていた。


「……なんだよこれ」


思わず小さく呟く。


その時だった。


「真守」


声がかかる。


顔を上げと、目の前にいたのは奏だった。


「奏先輩」


「隣、いい?」


「……あ、はい」


自然と頷く。


奏は迷いなく真守の隣へ座った。


距離が近い。


昔なら気にしなかった。けれど今は少しだけ違う。向かい側にいる白ヶ崎が気になった。


「最近さ」


奏が話し始める。


「葵と電話してるじゃん」


「……はい」


少しだけ頷く。


「停学中で暇みたいなんで」


「へぇ」


奏は小さく笑った。


「すごい喜んでたよ」


「……そうなんですか」


それは知らなかった。


「うん」


奏は頷く。


「楽々浦くんと話せるの嬉しいって」


「……」


言葉が詰まる。


その瞬間だった。向かい側の白ヶ崎の箸が一瞬だけ止まった。ほんの僅か、気付かない人は気付かない程度。


でも真守は見てしまった。


「でさ」


奏が少しだけ顔を近付ける。


「私にももっとそういう話してよ」


「……そういう話ですか?」


「最近何してるとか」


少し笑う。


「何考えてるとか」


「……」


どう答えるべきか分からない。


その間にも、白ヶ崎は黙っていた。視線を落としたまま何も言わない。


何も聞かない、何も責めない、ただ静かに。


それが逆に痛かった。


「おおおお!!奏先輩!!」


神宮丸が食いつく。


「俺も話します!!」


「はいはい」


奏が適当に流す。


いつもの光景だった。本当にいつも通り、何も変わっていない。


そう見える。


けれど、真守には違って見えた。


「……」


向かい側を見る。


白ヶ崎は笑っていなかった。怒ってもいなかった。ただ少しだけ寂しそうだった。


そんな気がした。


気のせいかもしれない。でも、胸の奥に引っかかる。


そういえば、葵との電話のことを白ヶ崎は知らないはずだし、奏との最近の出来事を知らない。


そして自分は、それを説明しようともしていない。


「……」


小さな違和感だった。


でも確実にそこにある。


白ヶ崎が最近少しずつ距離を取っていた理由。その答えが、目の前にある気がした。


それでも真守はまだ気付けない。


理解できない。


なぜなら今の頭の中は、今夜のことでいっぱいだったから。


「……」


箸を動かす。味がしない。胸だけが妙に騒がしい。


視線を上げると、白ヶ崎はまだこちらを見ていなかった。


「……」


真守は小さく息を吐く。


今日。


全部言う。


それだけは決めている。


胸の奥にある違和感も、白ヶ崎の沈黙も、全部終わったあとで考えればいい。


そう思っていた。


だから気付かなかった。白ヶ崎が今にも限界を迎えそうなことに。


「……今日、言う」


誰にも聞こえない声で呟く。


その決意だけを握りしめながら、真守は残った昼食を口へ運んだ。

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