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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第五章 俺×真実=繋がってきます。〜愛の告白編〜
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190話 俺×昼休み=やっぱり騒がしいです。

『赤坂さんのこと?』


「はい」


少し気まずい空気が流れる。電話越しでもわかる。葵は少し警戒したような口調になっていた。


「生徒会室に忍び込んでた当時は、様子どうでした?」


『……どうって?』


「なんか変わった感じとか」


『うーん……』


少し考える間。


『特に変わった感じはなかったかな』


「……そうですか」


『いつも通りっていうか、普通だったよ』


警戒が解けたのか、淡々とした答えになる。


「……」


『でもさ』


葵が続ける。


『こうやって電話できるの、ちょっと嬉しいかも』


「……は?」


『学校行けないし、暇だし』


軽く笑う声。


「……」


少しだけ困る。


「……まあ、暇ならまたかけます」


適当に返す。


『ほんと?』


「はい」


『じゃあ待ってる』


少しだけ弾んだ声だった。


「……」


真守は返事をしなかった。


返したら余計な期待をさせる気がしたし、何より今はそんな余裕がなかった。


「そしたら、失礼します」


『うん』


短いやり取りのあと、通話が切れる。スマホの画面が暗くなる。


生徒会室には、再び静かな空気が戻っていた。


「……」


真守は椅子の背もたれに体を預ける。


小さく息を吐いた。


窓の外では運動部の掛け声が聞こえる。廊下からは生徒たちの話し声、教室移動の足音、どれもいつも通りだった。


学校は何も変わっていない。文化祭が終わったあとも、赤坂がいなくなったあとも、時間だけは、当たり前みたいに進み続けている。


「……」


視線を落とす。


机の上には未処理の書類、生徒会の仕事、やるべきことは山ほどある。それなのに、頭の中には赤坂のことばかりが浮かんでいた。


施設の職員の言葉、会わせられないという拒絶、届かなかった声、返ってこなかった返事。


「……」


会えなかった、それが思っていた以上に重かった。

何かが分かったわけじゃない、むしろ分からないことが増えただけだ。


それでも——。


「……」


赤坂は確かにそこにいた。それだけは事実だった。だから諦める理由にはならない。


小さく息を吐き、書類へ視線を戻す。今できることをやるしかない、そう思った時だった。


——グゥゥゥ。


腹の虫が遠慮なく鳴いた。


「……」


静かな生徒会室に妙に響く。


近くにいた黒ヶ峰が一瞬だけこちらを見る。真守は無言で視線を逸らした。


「……腹減った」


時計を見る。ちょうど昼休みが始まる時間だった。仕事を一旦区切り、椅子から立ち上がる。


考え事をしていたせいで、朝からほとんど何も食べていない。


「食堂行くか」


そう呟いて、生徒会室を後にした。


窓の外を見る。


グラウンドには文化祭の片付けで残った資材がまだ置かれていた。

つい、この前まで祭りだったとは思えないほど、学校はいつもの姿へ戻りつつある。


それなのに、真守の中だけはまだ昨日の続きだった。解決していないことが、全部が胸の奥に残っている。


「……」


小さく息を吐く。


廊下はいつもより賑やかだった。


「文化祭の動画見た?」

「それ俺映ってるやつ!」

「あの出し物マジで面白かったよな」


そんな会話があちこちから聞こえる。


笑い声が多い。


みんな文化祭の余韻に浸っている。それは決して悪いことじゃない。むしろ普通だ。


けれど——


「……」


自分だけ少しズレている。そんな感覚が消えなかった。一日目以降、自分は文化祭の続きをしていなかった。


過去を追いかけていた、赤坂を探していた。だからだろうか、周囲と同じ景色を見ているはずなのに、どこか距離を感じる。


食堂へ入る。途端に騒音が押し寄せてきた。生徒たちの話し声、食器の音、注文を呼ぶ声。相変わらず賑やかだ。


「お、楽々浦!」


聞き慣れた声が飛んでくる。


神宮丸だった。


「こっちこっち!」


大きく手を振っている。


「……うるせぇな」


そう言いながら近づく。


その隣には白ヶ崎もいた。


「……いつものか」


自然とその席へ向かう。神宮丸の向かい、白ヶ崎の隣、気づけばいつもの配置だった。


「座れ座れ!」


「ああ」


トレーを置いて腰を下ろす。


その瞬間だった。


違和感に気づく。


「……」


白ヶ崎の機嫌が悪い、それもかなり。普段の無表情とは違う、明らかに空気が重い。


神宮丸も少し困った顔をしていた。


「……どうした?」


真守が聞く。


「別に」


即答だった。


それが余計に怪しい。


「どうでもいいでしょ」


「どうでもよくねぇだろ!」


神宮丸が食いつく。


勢いよく身を乗り出す。


「文化祭二日目だぞ!?」


「……」


白ヶ崎は反応しない。


「途中で帰ったんだぞ!?」


「だから?」


淡々としている。


「どれだけ準備したと思ってんだよ!」


神宮丸の熱量がすごい。


「俺たち何日も残って——」


「うるさい」


一言だった。


それだけで神宮丸が黙る。


食堂の喧騒の中、その周囲だけ少し静かになる。


「……」


真守は思わず苦笑した。


白ヶ崎が本気で機嫌が悪い時はこうなる。神宮丸でも止められない。


「……」


ふと視線を動かす。


その時だった。


「あ」


見つける。


少し離れた席、一人で昼食を取っている人物。長い金髪、整った横顔、夢百合奏だった。


「楽々浦」


神宮丸がニヤニヤし始める。


嫌な予感しかしない。


「……なんだよ」


「行け」


「は?」


「声かけろ」


「なんでだよ」


「いいから!」


本当に面倒くさい。けれど神宮丸は引かない。白ヶ崎は無言。その無言が逆に怖い。


「……はぁ」


ため息を吐く。


「めんどくせぇな」


席を立ち、奏の元へ向かう。近づくにつれて少しだけ緊張する。

以前なら絶対に近づかなかった相手だ。それでも今は違う、少なくとも首を絞められる可能性は低くなった。


……多分。


「……あの」


軽く声をかけると、奏が顔を上げた。一瞬だけ驚いた顔。それから、ふっと表情が柔らかくなった。


「あれ、真守じゃん」


自然な声だった。


以前の棘だらけの口調とは少し違う。


「どうしたの?」


「いや……」


少しだけ言葉を探す。


「一人だったので」


「ふーん」


じっと見られる。


少し居心地が悪い。


「……一緒に食べませんか」


言った瞬間、自分でも変な誘い方だと思った。


けれど。


「いいよ、別に」


奏はあっさり頷いた。まるで最初から断る気がなかったみたいに。


席へ戻る。


奏が自然に真守の隣へ座る、その瞬間だった。


「……」


白ヶ崎の視線が刺さる。


怖い。


「……ふーん」


小さく呟く。それだけなのに圧がある。


「奏先輩!」


神宮丸は全く気づいていない。お構いなしに、元気よく話しかける。


「文化祭どうでした!?」


「んー」


奏が少し考える。


「普通かな」


「普通!?」


神宮丸が大袈裟に反応する。


「もっとこう……!」


「いや普通だったよ」


奏は笑う。


「出店回ったし」


「他には!?」


「食べた」


「感想は!?」


「美味しかった」


「雑すぎません!?」


神宮丸が絶叫する。


その様子に奏が少し笑った。


「……あ、それ前もやったやつでしょ」


「え?」


「質問攻め」


奏が指摘する。


「あー」


真守は納得した。


以前も似たようなことがあった。


「もういいよそれ」


奏が呆れたように言う。


「学習しなよ」


「……」


神宮丸が固まる。


「マジか……」


本気でショックを受けていた。


「ざまぁねぇな」


思わず真守は笑う。


久しぶりに自然と笑った気がした。


騒がしい、くだらない、でも悪くない、そんな昼休みだった。


やがて昼食も終わる。


奏が立ち上がる。


「じゃあね」


「はい」


真守も頷く。


「教室戻るから」


「お疲れ様です」


奏は少しだけ笑った。


そして。


「またね、真守」


自然にそう言った。以前では考えられないほど柔らかい声だった。


「……はい」


真守も軽く手を振る。


奏はそのまま去っていった。


「……」


白ヶ崎の視線が残る。


「なに」


「別に」


即答。


怖い。絶対何かある。けれど今は聞かない方がいい気がした。


そのまま三人で教室へ戻る。


廊下を歩く。


「なぁ楽々浦」


神宮丸が隣へ並ぶ。


嫌な予感しかしない。


「なんだよ」


「頼みがある」


「嫌な予感しかしねぇ」


「奏先輩と繋げてくれ」


即答だった。


「無理だ」


「なんでだよ!」


「お前殺されるぞ」


さらっと言う。


「……」


神宮丸が真顔になる。


数秒。


それから。


「……あんな美人に殺されるなら本望だわ」


本気だった。


「バカかお前」


真守は吹き出した。


「頼むって!」


「無理だっての」


「ケチ!」


「ケチじゃねぇよ」


「じゃあ紹介しろ!」


「だから無理だ!」


くだらない言い合いを続けながら歩く。さっきまで感じていたズレが、ほんの少しだけ薄くなった気がした。


やっぱり、騒がしいのは疲れる。


でも。


一人で考え込むよりは、ずっとマシなのかもしれなかった。

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