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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第五章 俺×真実=繋がってきます。〜愛の告白編〜
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176話 俺×ズレ=正しさだけが浮いています。

朝の空気は、やけに冷たかった。


まだ人通りも少ない時間帯。音も少なくて、足音だけがやけに響く。


「……」


目の前にあるのは、祇園のいる施設。

来た理由は、はっきりしない。


ただ——


「……来るべきだと思った」


心の中で小さく呟いて、そのまま中へ入る。


受付を済ませ、案内されて廊下を歩く。

以前、来た時よりもどこか静かに感じる。


少しして、目的の部屋の前で足が止まり、軽くノックする。


「どうぞ」


中から、落ち着いた声。


扉を開ける。


「……あら」


祇園が、こちらを見ていた。


「楽々浦くん。こんな朝早くにどうしたの?」


前と同じ、柔らかい声。


けれど——どこか、奥が見えない。


「……少し、顔色良くなってますね」


思わずそう言う。


祇園は少しだけ驚いたように瞬きをして、それから小さく笑った。


「ふふ、ちゃんと見てるのね」


「……前より、元気そうです」


「ええ、おかげさまで」


ゆっくりと頷く。


「まだ本調子とは言えないけど……少しずつ、ね」


無理をしている様子はない。

それが、逆に安心できる。


「……よかったです」


そう言うと、祇園は少しだけ目を細める。


「ありがとう」


短く、優しい声。


「座って」


促されるまま、椅子に腰を下ろす。


少しだけ、空気が落ち着く。


「文化祭、どう?」


祇園が軽く聞いてくる。


「……普通に楽しいです」


「普通に、ね」


小さく笑う。


「楽々浦くんらしい」


「……そうですか」


「ええ。もっと浮かれてもいいのに」


「無理ですよ」


苦笑する。


「見回りばっかりなんで」


「ふふ、それもそうね」


他愛のない会話。それだけで、少しだけ気が緩んだ。


「……」


そして。


ふと、あの言葉を思い出す。


——誰かに指示されてた。


「……祇園先輩」


「うん?」


少しだけ間を置いてから、言う。


「……まだ、誰に指示されたか言ってくれませんか」


「……」


祇園の表情が、わずかに止まる。

ほんの一瞬だけ。けれど、すぐに戻る。


「……なんのこと?」


軽く、首を傾げる。


「……」


分かっているはずなのに。


「……あの時の話です」


そう言っても、祇園は小さく笑うだけだった。


「ふふ、楽々浦くん」


やわらかい声。


「そういうの、無理に聞こうとしない方がいいよ」


「……」


はぐらかされる。それ以上、踏み込ませないように。


真守はそれ以上、追及はしなかった。

聞いても、答えない。そう分かってしまったから。


一度、息を整える。


話を切り替える。


「……最近、生徒会で問題があって」


「へぇ」


祇園が興味深そうに頷く。


「どんな?」


「……赤坂って人なんですけど」


名前を出す。


「……」


祇園は、少しだけ首を傾げた。


「赤坂?」


「……知らないですか」


「名前だけなら」


迷いなく答える。


「でも、それぐらいかな」


自然すぎる反応。


「……そうですか」


小さく返す。


「その子、何かあったの?」


「……少し問題が」


ぼかして言う。


「そう」


それ以上は聞かない。その距離感が、いつも通りだった。


「……」


会話は普通で、何もおかしくない。


それなのに——


「……」


小さな違和感が、残る。


「……祇園先輩」


話題を変える。


「会長って、どんな人でしたか」


「……急ね」


少しだけ笑う。


「どういう意味で?」


「……誰かを嫌ってる、とか」


「……」


祇園は少しだけ視線を上げる。


思い出すように。


「そうね……」


ゆっくりと口を開く。


「少なくとも、私が見ていた限りでは」


一度、言葉を切る。


「露骨に嫌悪感を出してる相手はいなかったわ」


「……」


その瞬間——


思い出す。


初めて会長を見た時、クラス委員の挨拶でのこと。

赤坂の自己紹介で会長の、あの表情。


『まだ君はそんなことを言っているのか……』


呆れた声。ため息。


そして——


睨みつけるような視線。


『そんなんじゃ、生徒会長は務まらない。だから、君には立候補も許さないよ』


あれは——


ただの評価じゃない。


「……」


もっと、個人的なもの。


もっと、強い感情。


祇園の言葉と、噛み合わない。


ゆっくりと息を吐く。


「……そうですか」


それだけ言う。


「ええ」


祇園は穏やかに頷く。


「……どうしたの?」


「いえ」


首を振る。


「……なんでもないです」


「……」


祇園はそれ以上、何も言わなかった。

ただ静かに、こちらを見ている。


真守は立ち上がり、軽く頭を下げる。


「ありがとうございました」


「うん」


祇園は優しく微笑む。


「またいつでも来てね」


「……はい」


短く返し、そのまま部屋を出る。


廊下に出る。

扉が閉まる音が、やけに重く響いた。


「……」


足を止め、さっきの会話を思い返す。


普通だった。


全部、普通だった。


それなのに——


「……ズレてる」


小さく呟く。


祇園の言葉、会長の態度、赤坂の存在。

全部が、少しずつ噛み合っていない。


「……」


ゆっくりと息を吐く。


「……今を見ても、わからないなら」


小さく、言葉がこぼれる。


「……過去を見るしかないか」


答えは、そこにある気がした。


そのまま、静かな廊下を歩き出す。

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