表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第五章 俺×真実=繋がってきます。〜愛の告白編〜
PR
173/228

172話 俺×舞台=本気はこんなにも綺麗です。

自分のクラスを後にして、そのまま見回りへ戻る。


校内は相変わらず賑やかで、どこを歩いても人の流れが途切れない。そんな中を歩いていると、ふと案内板に目が止まった。


——体育館

二年A組 演劇


夢百合姉妹のクラス。


少しだけ迷ったあと、小さく息を吐く。


「……少しだけ、見るか」


そう呟いて、自然と足がそちらへ向いていた。


体育館の中は思っていた以上に人が集まっていて、観客席はほとんど埋まっている。

前の方には立ち見の人もいて、その人気の高さがすぐに分かった。


なんとか空いている席を見つけて腰を下ろすと、ちょうど照明が落ちるタイミングだった。


ざわめきが静かに消えて、そのまま幕が上がる。


舞台の中央に立っていたのは——葵だった。


舞台衣装を身に纏い、いつもとは全然違う雰囲気だった。

葵のビジュアルも含めて、とても学生がやっているような舞台ではない気がしてしまう。


「どうして、そんな顔をしているの?」


柔らかい声が、静かに響く。


その一言だけで、空気が変わるのが分かった。


演技のはずなのに、どこか作っている感じがない。ただ自然に、そこに“いる”。


視線を奪われる。


その相手として現れるのが——奏。


「……別に。あなたには関係ないでしょ」


少しだけ棘のある言い方。


けれど、その奥にある感情が透けて見える。

二人の距離が、言葉の端々で伝わってくる。


「関係ないわけないでしょ」


葵が一歩近づく。


「ずっと、一緒にいたじゃない」


「……それは、あなたが勝手に——」


言い切る前に、少しだけ言葉が詰まる。


その一瞬が、妙にリアルで。


「……」


気づけば、目が離せなくなっていた。


物語はシンプルだった。


ぶつかり合って、すれ違って、それでも繋がっている二人の話。

余計なものがない分、感情がまっすぐに伝わってくる。


「……」


その流れの中で、ふと考える。


——あんなことがあったばかりなのに。


それでも舞台の上の二人からは、そんな影を一切感じない。


むしろ——


「どうして、そんなに一人で抱え込むの?」


葵の声が、少しだけ強くなる。


「……頼ってよ」


「……っ」


奏が、わずかに顔を歪める。


「頼れって……簡単に言わないでよ」


その一言が、胸に残る。


「……」


完成度が高すぎる。


自然と、そんな言葉が浮かぶ。


どこで、練習してたんだ。


思わずそんな疑問が出てくるくらいだった。

あの状況でまともに時間が取れたとは思えない。それなのに、この仕上がり。


「……」


——さすが、天才集団二年A組。


心の中でそう呟く。


そして、物語はそのまま終盤へ向かう。


ぶつかっていた感情が、少しずつ解けていく。


「……ごめん」


奏が、小さく言う。


「……素直じゃなくて」


「……いいよ」


葵が、ほんの少しだけ笑う。


「それも、あなたでしょ」


「……」


短い沈黙。


そのあと、二人の距離がようやく重なる。


「……」


その瞬間、空気が少しだけ変わる。


そして最後の一言が落ちる。


「これからも、隣にいてよ」


静かに。


でも、はっきりと。


その言葉と同時に——幕が下りる。


ほんの一拍の静寂。


そのあと、一気に拍手が広がる。


「……」


気づけば、自分も手を叩いていた。


「……すげぇな」


小さく呟く。


演技としても、作品としても、完成されていた。


それ以上に——二人が“ちゃんとそこにいた”ことが、強く印象に残る。


そんな二人と今はとても近い距離にいる自分が不思議で仕方なかった。

歓声も止まない、誰かの中心にいる人たちが気付けば周りにたくさんいる。今一度、自分の周りの人たちに感謝の気持ちが出てくる。


その余韻を抱えたまま体育館を出ると、外の光が少しだけ眩しく感じた。軽く目を細めながら息を吐く。


思っていたよりも、ずっと良かった。


文化祭って、こんな感じだったか。


ふと、そんなことを思う。


そのまま歩き出すと、足取りは少しだけ軽くなっていた。さっきまで見ていた舞台が頭の中に残っていて、あの感覚がじんわりと続いている。


良いものを見た後の、あの余韻。

それだけで、十分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ