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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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167話 俺×和解=ちゃんと笑えるようになりました。

部屋の中に、かすかな嗚咽が残っていた。

さっきまでの衝突の名残みたいに、空気はまだ少しだけ揺れている。


その中心で——


葵と奏が、抱き合っていた。


「……っ」


言葉はない。


ただ、互いに強くしがみついて、静かに泣いている。まるで、今まで離れていた時間を埋めるみたいに。


「……」


真守は、それを少し離れた場所から見ていた。


何も言わない。ただ、目の前の光景を受け止める。それで、十分だった。


やがて、奏がゆっくりと顔を上げる。


涙を拭う手つきはまだぎこちない。それでも、一歩踏み出す。


真守の方へ。


「……」


その動きに、ほんのわずかな緊張が走る。


けれど——


真守は動かず、一歩も引かない。


「……」


奏が、目の前で止まる。


そして——


深く、頭を下げた。


「……ごめん」


短い一言。


けれど、その中に全部が詰まっていた。


「……本当に、ごめん」


もう一度、言う。


声は少しだけ震えている。


「……」


真守は、小さく息を吐く。


「……気にしてないです」


静かに返す。


それは、作った言葉じゃなかった。


「……」


奏の肩が、ほんの少しだけ揺れる。


それから、ゆっくりと顔を上げる。そのまま視線を横に移す。


「……すみません」


真希那に向かって、もう一度頭を下げる。


「……」


真希那は少しだけ間を置いてから、


「いいよ、別に」


軽く言う。


「その代わり」


腕を組みながら、少しだけ視線を鋭くする。


「無理ばっかしちゃダメだよ?」


「……」


「たまには妹に甘えな」


その言葉に、奏がわずかに目を見開く。


「頼られてばっかって、結構しんどいからさ」


さらっと言う。


それから、にやっと笑って——


「私みたいに」


そのまま真守に抱きつく。


「こうやって、弟に甘えるの!」


「……っ」


突然のことで、真守の体が一瞬固まる。


けれど、すぐに離そうとはしない。少しだけ、顔を逸らす。

いつもなら、すぐに離れるはずなのに、今はこの空気も悪くないと思えてしまう。


「……」


わずかに頬が熱くなるのを、自分でも感じていた。


「えー、まーくん固まってるー」


「……」


返さない。


ただ、少し困ったように視線を泳がせるだけだった。


その様子に——


「……ふっ」


小さく、笑い声が漏れる。


奏だった。


自分でも驚いたみたいに、少しだけ目を瞬かせる。


「……」


その笑いが、空気を少しだけ軽くした。


そこに、葵がゆっくりと近づき、奏の隣に立つ。何も言わずに、もう一度抱きしめる。


「……」


奏も、今度は自然にそれを受け入れる。


「……私たち」


葵が静かに言う。


「双子なんだから」


「……」


「一心同体でしょ」


少しだけ、柔らかく笑う。


「どっちかが傷つくの、もうやめよ。私も次からは気をつける」


「……」


その言葉に、奏が目を閉じる。


そして、小さく頷く。


「……うん」


それだけで、十分だった。


家族の縁は切っても切れない存在。その中でも姉や妹などの兄弟なら尚更だった。

最近まで喧嘩していた自分を思い出し、拳を軽く握る真守。


いつも、いつでも、間違った道を正してくれるのは"きょうだい"という唯一無二の存在だった。


真守はそんなことを、心のどこかで思う。今一度、大切な人を泣かせてはいけないと心に誓った。


「ごめんね、葵」


「……もう、いいよお姉ちゃん」


相変わらず、抱きしめ合っている二人。

感動的な雰囲気のまま、終わると思ったその時——


その空気を、真希那があっさり壊す。


「よし!」


パン、と手を叩く。


「でも、最初は甘えるのも慣れないと思うから!」


にやっと笑う。


「私とまーくん、貸してあげるから!」


「……は?」


真守が、やっと声を出す。


「何言ってんの真希ねぇ」


「いいからいいから」


「よくねえよ」


「今までの分、存分に甘えなさいってこと!」


「……」


そのやり取りを見て——


奏が、ふっと笑う。


それから、ゆっくりと真守の方へ歩く。


「……」


距離が、詰まる。


そして、そのまま——


抱きつく。


「……っ」


今度は、完全に動きが止まる。腕の中の温もりに、反応が遅れる。


「……うん」


静かに言う。


「甘えさせてもらいます」


「……」


真守は、何も言えない。


ただ、少しだけ顔を逸らして。ほんの少しだけ、照れていた。


「ちょっと待って!?」


真希那が慌てる。


「冗談で言ったのよ!?そこまではしないで!?」


「……」


真守はまだ固まっている。


その様子に、葵がくすっと笑う。


そして——


自然と、全員の空気がほどける。


「……」


さっきまでの重さが、嘘みたいに消えていく。

その中で、真守は思う。


——ちゃんと、戻ってきたんだな、と。


完全じゃない。でも、それでもいい。

笑える場所に戻れたなら、それでいい。


その空気のまま、時間がゆっくり流れていった。

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