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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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162話 俺×確信=その名前が答えです。

女子寮の廊下は、妙に静かだった。

足音だけがやけに響く中、前を歩く葵の背中を一定の距離で追いかける。

振り返る気配はない。こちらがついてきていることを、最初から分かっているような歩き方だった。


迷いも、ためらいもない。ただ、決まった道をなぞるように進んでいく。


その背中を見ているだけで、頭の中の違和感が少しずつ形になっていく。


最初に会った時のことを思い出す。


妙に距離が近かった。初対面とは思えないほど踏み込んできて、やけに自然に話しかけてきた。


あの時は、ただそういう性格なんだと思っていた。


けれど——今なら分かる。


あれは、違かった。


廊下を曲がり、さらに奥へ進むにつれて人の気配が薄れていく。生活音が消えていく中で、葵だけが変わらない速度で歩き続けていた。


やがて、一つの部屋の前で足を止める。


「ここだよ」


軽く言うと、そのままドアノブに手をかける。


ほんの一瞬、息を止める。


ここで全部が繋がる——そんな確信に近い予感があった。


ドアが開く。


空気が、わずかに変わる。


部屋の中は整っていた。生活感はあるのに、どこかだけが不自然に静かだった。


その中で、最初に目に入ったのは椅子だった。


その上に座らされている人物を見て、反射的に思う。


——奏先輩。


手足を縛られ、口も塞がれている。俯いていた顔がゆっくりと上がる。


目が合った瞬間、はっきりと分かった。


光が戻る。


必死に何かを伝えようとしている。


声は出ない。それでも、助けを求めているのが伝わってくる。


「……」


一歩、踏み出しかけて止まる。


その瞬間——


「ねえ、ちゃんと見てあげてよ」


背後から、軽い声が落ちる。


反射的に振り返る。


葵が、壁にもたれながらこちらを見ていた。


笑っている。


「可哀想でしょ?」


その言い方は優しいのに、言っていることはまるで逆だった。


「昨日さ、ちょっと暴れすぎちゃって」


軽く肩をすくめる。


「抑えるの、大変だったんだよね」


そのまま、ゆっくりと近づいてくる。


「でもさ」


椅子の方に視線を向ける。


「こうして大人しくしてると、ちゃんと可愛いよね」


「……」


言葉が出ない。


そのやり取りだけで、何をされていたのかが想像できてしまう。


見たくない。でも、目が逸らせない。


「ね?」


葵が、椅子に縛られた“奏”の顎を軽く持ち上げる。


ビクッと体が震える。


「ほら、ちゃんとこっち見て」


無理やり顔を向けさせる。その目は、怯えていた。はっきりと。


「やめてください」


抑えきれずに、思わず声が出てしまう。


その瞬間、葵がゆっくりとこちらを見る。


「……なに?」


不思議そうに。


本当に分かっていないみたいに。


「……見てられないです」


絞り出すように言う。


「……」


一瞬だけ、空気が止まる。


それから——


葵が、小さく笑った。


「優しいね」


心底楽しそうに。


「そういうとこ、ほんと好きだよ」


一歩、距離を詰めてくる。


「でもさ」


少しだけ声のトーンが落ちる。


「これ、全部この子が悪いんだけど」


軽く言う。


「すぐ壊れるし、すぐ泣くし」


「……」


「ほんと、邪魔なんだよね」


その言葉に、椅子の上の奏が必死に首を振る。

声は出ない。それでも、否定しているのが分かる。


「……」


もう一度、視線を向ける。


顔。


傷。


位置。


一致しない。


そして——手首。


そこにあるはずのものが、ない。


「……」


静かに、息を吐く。


全部、繋がる。

最近の出来事。


生徒会室で暴れていた“葵”。そのあとに会った“奏”。名前を呼ばれた時の違和感。


全部が、一つになる。


「……」


ゆっくりと振り返る。


そこにいる“葵”を見る。


その顔、その笑い方。


もう、分かっている。

最初から、違っていた。

距離も、言葉も、全部。


「……」


一歩、踏み出す。


「……もういいです」


静かに言う。


声は、驚くほど落ち着いていた。


「最初から、違和感はありました……距離も、言葉も……噛み合ってなかった」


視線を逸らさない。


「でも、一番は……名前です」


そのまま、目の前の“葵”を見る。


「昨日、初めて呼ばれた時、やっと繋がりました」


空気が止まる。


音が消える。


完全な沈黙。


それでも、目を逸らさない。


そして——


一歩だけ、近づく。


「……もういいです」


小さく繰り返し、そのまま、はっきりと言う。


「奏先輩」

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