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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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159話 俺×告白=壊れる音が聞こえます。

昼休みの終わりが近づいていた。

副会長スペースの空気は、落ち着いているはずなのに妙に重い。

目の前にいる葵と向かい合っているだけなのに、距離が近いと錯覚するほど圧があった。


「……」


何も言わない。ただ、こちらを見ている。


視線が逸れない、逃げ場がない。


耐えきれず、目を逸らす。机の上に視線を落としながら、無理やり思考を整理する。


やるべきことは決まっている。


赤坂の件、共犯者、次に話を聞く相手。


「……神楽坂先輩のところ、行こうと思ってます」


ようやく口を開くと、葵は少しだけ首を傾げた。


「アリス先輩?」


「はい。書記と会計はシロっぽかったですし、残るのは神楽坂先輩なので」


「……そっか」


短く頷く。そこまでは普通だった。


けれど——


「……でもさ」


葵が、少しだけ身を乗り出す。


距離が、また縮まる。


「その前に、ちゃんと一緒にいてくれるよね?」


「……」


一瞬、言葉が止まる。


まただ。


さっきから何度も出てくる、その言葉。


軽く流すこともできる。けれど、それじゃダメな気がした。この違和感を、そのままにして進むのは危険だとどこかで分かっている。


「……葵先輩」


慎重に、言葉を選ぶ。


「最近、それ言いますよね。離れないでって」


葵は何も言わない。ただ、じっとこちらを見ている。


「……それ、どういう意味なんですか?」


沈黙が落ちる。


数秒のはずなのに、やけに長く感じる。


「……どういうって?」


ゆっくりと返ってくる。


「そのままの意味だけど。一緒にいてほしいってこと」


「……」


違う。


言葉は合っているのに、何かが噛み合っていない。


「……それだけ、ですか?」


思わず踏み込むと、葵は少しだけ笑った。


「それ以外に何があるの?」


その笑い方が、妙に引っかかる。


やっぱり、おかしい。


言葉を探す。


「……なんか、前の葵先輩と少し違うというか——」


そこまで言いかけた瞬間だった。


「——もういい」


ぽつりと落ちる声。


顔を上げる。


空気が、変わっていた。


「……もう、いいや」


静かに繰り返す。


「一回さ、ちゃんと聞いてくれる?」


拒否できない空気だった。


「……はい」


葵はゆっくり息を吸う。


「……私さ、前にも言ったよね。好きって」


「……っ」


思い出す。


あの時のこと。


「……あの時は断られたけど、それでも諦められなかった」


静かな声なのに、妙に重い。


「だってさ、ちゃんと好きになったの初めてだったし。諦めろって言われても無理じゃない?」


返せない。


言葉が出てこない。


「……だから」


一歩、近づく。


距離が完全に詰まる。


「もう一回、ちゃんと聞いて……私、真守のこと好き」


真っ直ぐだった。


あまりにも。


だからこそ、苦しい。


目を逸らす。

逃げるように。


「……正直に言います」


喉が詰まるが、それでも続ける。


「今の葵先輩は……少し怖いです」


空気が止まる。


「……だから、距離を置かせてください」


完全な拒絶だった。


葵は動かない。

何も言わない。


ただ——


表情が消えていた。


その沈黙が、一番怖い。


「……なんで?」


小さな声が落ちる。


「なんでダメなの?」


一歩、踏み込まれる。


「ちゃんと好きって言ってるのに」


距離が詰まる。


逃げようとしても、背中が壁に当たる。


「何がダメなの?」


目の前。


近すぎる距離。


「ねえ、どこがダメ?」


答えられない。


その瞬間——


ガタッ、と音がした。


机の上にあったカッター。


気づいた時には、押し倒されていた。


背中に床の冷たさが伝わる。

葵が馬乗りになり、身動きが取れない。


「……葵先輩!」


返事はない。


ただ、カッターを持つ手がゆっくり動く。

真守ではない。葵の手首に、刃が当てられている。


「……ねえ」


静かな声。


「これ以上言ったら、死ぬよ?」


次の瞬間——


赤い線が走った。


「——っ!!」


遅れて血が滲む。


「やめてください!!」


反射的に手首を掴む。


力を込めて止める。


「……ほら」


葵は笑っていた。


「本気だよ?」


「やめろ!!」


低く、叫ぶ。


その時だった。


「——何してんだ!」


鋭い声が響く。


扉が開く。


視線が一瞬逸れる。


その隙に、カッターを叩き落とす。


軽い金属音が響く。同時に複数の足音が一気に近づいた。


「押さえろ!」


三宝と山影が葵を取り押さえる。


暴れる。


叫ぶ。


止まらない。


「離して!!なんで止めるの!?まだ話してる途中でしょ!?真守!!」


声が壊れている。


「なんで逃げるの!?ちゃんと好きって言ったじゃん!!なんでダメなの!?ねえ!!ねえってば!!」


そのまま暴れ続ける。


完全に、壊れていた。


真守は、動けなかった。


頭が追いつかない。


その時だった。


「楽々浦君」


落ち着いた声が入る。


振り向くと、会長が立っていた。


「こっちへ」


短く言われる。


「大丈夫だ。君はもう離れていい」


その言葉で、ようやく体が動く。


その場を離れる。


廊下に出ると、さっきまでの音が少し遠くなる。

何も考えられないまま、会長に導かれるように歩く。


「こちらだ」


会長室に入る。


ドアが閉まる。


それだけで、完全に別の空間に切り替わった。


「……座りなさい」


促されるままソファに座る。


手が、少し震えている。


何か言わなきゃいけない気がするのに、言葉が出てこない。


「……驚いたね」


静かな声。


「……はい」


ようやく返す。


「……すみません」


無意識に出た言葉だった。


「謝る必要はない」


はっきりと言われる。


「君は間違っていない」


その言葉が、ゆっくりと胸に落ちる。


「むしろ、よく止めた」


「……」


さっきの光景が蘇る。


血。


刃。


あの目。


「……怖かっただろう」


小さく頷く。


会長は、それ以上は何も言わなかった。


ただ、静かにそこにいる。その沈黙が、妙に優しかった。


少しずつ、呼吸が戻る。


そして——


一つだけ、はっきりしていた。


もう、元には戻らない。その事実だけが、静かに残っていた。

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