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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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158話 俺×朝=何もなかったことになっています。

夜の公園での出来事は、結局最後まで整理できないままだった。


帰り道も、部屋に戻ってからも、頭の中にはあの言葉だけが残り続けている。


——死ねばいいのに。


誰に向けたものだったのか。


考えれば考えるほど、答えは一つしかないように思えてしまう。姉妹喧嘩、その流れで出た言葉。なら、あれは奏に向けたもの——


「……」


そこまで考えて、思考が止まる。


それで納得していいのか。


あの時の空気は、ただの苛立ちで片付けていいものだったのか。


分からない。


けれど——


考えても仕方がないと、無理やり結論を押し込める。


今はそれよりも優先すべきことがある。

赤坂の件、共犯者、タイムリミット。


「……はぁ」


小さく息を吐く。


目を閉じても、あの瞬間の葵の表情が浮かぶ。笑っていたのか、無表情だったのかすら曖昧なのに、確実に“何かがおかしかった”という感覚だけが残っていた。


それでも——


翌日は、普通に来る。


朝、寮の部屋で目を覚ました時、最初に浮かんだのはやっぱり昨日のことだった。


隣を見る。


白ヶ崎が、いつものように寝ている。


少しだけ安心する。


「……起きてる?」


小さく声をかけると、白ヶ崎がゆっくりと目を開ける。


「……おはよ」


「おはよ」


自然に返す。


こういう何気ないやり取りが、妙に落ち着いた。


「……どうしたの」


顔を覗き込まれる。


「なんか顔暗い」


「……そうか?」


「うん」


即答だった。


「……別に、大したことじゃないよ」


誤魔化すように言う。


白ヶ崎は少しだけこちらを見ていたが、それ以上は踏み込んでこなかった。


「……そっか」


短く、それだけ。


その言い方に、無理に聞かないという意思が見えて、少しだけ助かる。


「……行くか」


気持ちを切り替えるように言う。


「うん」


真希那を置いて、二人で部屋を出る。


いつも通りの朝。


いつも通りの登校のはずなのに、胸の奥に引っかかるものだけが消えなかった。


生徒会室の前に立った時、ほんの少しだけ足が止まる。


理由は分かっている。


扉の向こうに、葵がいるかもしれない。


昨日のままなのか、それとも何事もなかったかのように振る舞うのか。


どちらでもおかしくて、どちらでも怖い。


「……」


小さく息を吸う。


そのままドアを開ける。


「おはようございます」


声をかける。


「——あ、真守」


すぐに返ってきた声。


振り返る。


そこにいたのは、いつもの葵だった。


「おはよ」


軽く手を振る。


「……」


一瞬、言葉を失う。


あまりにも、普通だった。昨日の空気が嘘みたいに消えている。


「……おはようございます」


少し遅れて返す。


「どうしたの?なんか変な顔してる」


「……いや、別に」


「ふーん」


特に気にした様子もなく、葵はそのまま近づいてくる。


距離が、近い。

昨日と同じ感覚。


「……」


けれど、表情は普通、声も普通。

だからこそ、余計に分からなくなる。


「今日、やるんでしょ?」


葵が言う。


「黒ヶ峰」


「あ……はい」


思考が一瞬遅れる。


「じゃ、行こ」


当たり前のように言う。その自然さが、逆に引っかかった。


「……行きましょう」


そう返して、歩き出す。


黒ヶ峰のいるスペースへ向かう途中、歩きながらふと違和感に気づく。


隣を歩く葵。


歩幅が、少しだけ近い。腕が触れそうで触れない距離。


「真守」


名前を呼ばれる。


一瞬、足が止まりそうになる。


「……はい」


「ちゃんと、隣にいるよね」


「……え」


意味が分からない。


「……どういう」


「なんでもない」


すぐに笑う。


「気にしないで」


「……」


その一言で終わる。


終わってしまう。


「……」


やっぱり、おかしい。


黒ヶ峰は、壁にもたれながらスマホを見ていた。


こちらに気づく。


ゆっくりと視線を上げる。


「……何」


短く、それだけ。


「少し、時間いい?」


真守が声をかける。


黒ヶ峰は答えない。


ただ——


視線が、真守から葵へと移る。


「……」


その瞬間だった。


空気が、わずかに変わる。


ほんの一瞬。

けれど、確かに。


「……あんた」


黒ヶ峰が、葵を見る。


言いかけて——止まる。


「……」


何も言わない。


そのまま、視線を逸らす。


「……いいけど」


面倒そうに言う。


「手短にして」


「ありがとう」


真守が軽く頭を下げる。


「赤坂先輩の件なんだけど——」


「知らない」


被せるように言う。


「関係ない」


「……」


即答だった。


「……本当に?」


「本当」


黒ヶ峰は淡々と言う。


「そもそも絡んだことないし」


「……」


嘘には見えない。


少なくとも、今までの誰よりも自然だった。


「……そうか」


これ以上は無理だと判断する。


「ありがとう」


軽く頭を下げる。


黒ヶ峰は何も言わない。


ただ——


もう一度だけ、葵を見る。


ほんの一瞬。その目は、明らかに“何かに気づいている”目だった。


廊下に出る。


しばらく無言が続く。


「……どうでしたか」


真守が口を開く。


「うん」


葵が頷く。


「シロっぽいね」


「……ですね」


自然に返す。


「……」


少しだけ間が空く。


その沈黙の中で、ふと視線を感じる。


横を見る。


葵が、じっとこちらを見ていた。


逃げ場のない視線。


「……」


昨日の夜が、重なる。


「……真守」


名前を呼ばれる。


静かに、逃げられないように。


「……はい」


「ちゃんと、見ててね」


「……え」


「私のこと」


「……」


言葉の意味が分からない。


けれど——


その響きだけが、妙に重く残った。

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