15話 俺×生徒会室=自己紹介してもらいます。2
「まずは君から自己紹介してもらおうかな」
会長はそう言いながら、列の端に立っていた巨漢の男子生徒を軽く前へ押し出した。
その瞬間、真守は思わず息を呑む。
近くで見ると、とにかく大きい。
190センチは優に超えているだろう体格に、角刈りの頭、大きな顔立ち。見た目だけで十分すぎるほどの迫力があった。
ただ、その圧は単純な威圧感とは少し違っていた。怖いというより、圧倒される。そんな表現の方が近い。
「うっす。おいの名前は、三宝 用助じゃ。ここの生徒会では庶務ばしちょっど。よろしゅう頼む」
「……」
おぉ、と真守は心の中で妙に感心してしまった。
かなり訛りの強い方言。
ここまで自然に方言を使われると、もはや現代の高校生というより、どこか歴史の教科書からそのまま出てきた人物に見えてくる。
「この三宝は三年A組で、一応ちゃんとした高校生だから、そんなに身構えなくても大丈夫だよ」
会長が軽く笑いながら補足する。
「あ、はい……」
そう返事はしたものの、念のため警戒は解かないでおこうと真守は心の中で決めていた。
見た目の圧が強すぎる。高校生と言われても、すぐに納得するのは難しかった。
「それじゃあ次に、同じく三年A組の君。自己紹介を頼むよ」
「はい、かしこまりました」
会長の言葉に応えて前へ出たのは、先ほど真守に厳しい視線を向けていた女子生徒だった。
ロングヘアーを片手でかき上げる仕草が妙に様になっていて、いかにも隙のない先輩という印象を受ける。
「私の名前は、池鶴 景子です。この生徒会では書記を務めております。よろしくお願いいたします」
簡潔で、無駄のない自己紹介だった。
その声も態度も落ち着いてはいるが、どこか冷たい。真守に対して好意的でないことは、説明されなくてもよくわかった。
「この池鶴君は少し不器用でね。これでも彼女なりに仲良くしようとしてるから、楽々浦君も遠慮なく仲良くしてやってくれ」
「えっ、あ、はい……」
真守は曖昧に返事をする。
(いやいや、絶対そんなこと思ってないだろ……)
そう思った次の瞬間だった。
「なんで私が、こんな冴えない童貞みたいな男と仲良くしなきゃならないのよ……」
「えっ……?」
池鶴は真守にだけ聞こえる声量で、淡々とそう言った。
あまりにも自然な毒だった。
会長、この人すごく怖いです——と、心の中で助けを求めるが、もちろん届くはずもない。
「それでは次も三年A組の君、自己紹介を頼むよ」
「はい、会長♪」
空気がぱっと変わる。
今度前へ出てきたのは、先ほどまでとはまるで正反対の雰囲気をまとった女子生徒だった。
ピンク色のツインテール。笑顔。そして、やけに距離感が近そうな軽やかな空気。
「コウコのフルネームは、祇園 紅子だよ♪ この生徒会では会計を担当してるの。よろしくね、楽々浦くん♡」
自己紹介が終わるや否や、祇園は真守の手を取った。しかも、そのまま自分の胸元まで引き寄せる。
「……っ!?」
一瞬、脳が止まる。
近い。柔らかい。そして何より、距離感が完全におかしい。
(な、何なんだこの先輩は……!?)
身のこなしはまるでアイドルみたいで、しかもそれがちゃんと似合ってしまっている。可愛いだけならまだしも、可愛さを自覚した上で武器として振り回している感じがした。
「あっ、えっ、あっ、よろしくお願いしましゅ……」
動揺しすぎて噛んだ。
自分でも情けないほどに童貞っぽい反応だと思った。
「うふふ、楽々浦くん、君ってすごく可愛い」
祇園は握った手を離さないまま、今度は両手で包み込む。
さらに顔を近づけてくる。吐息がかかるほどの距離。真守の顔は一気に熱を持った。
「おい、祇園君。そこまでにしておいてくれないか」
さすがに見かねたのか、会長が二人の間に割って入る。
そのまま強引に距離を引き剥がした。
「あーもう、せっかく楽々浦くんといい雰囲気だったのにー!」
祇園は不満そうに唇を尖らせる。
だが、その声色すらどこか芝居がかっていて、どこまで本気なのか真守には全く読めなかった。
「まったく、君って人は……」
会長は呆れたように笑いながら、すぐに次へ話を進める。
「よし、それじゃあ最後に自己紹介を頼むよ」
「最後……って、会長。もうこの部屋に紹介する人なんていないですよ?」
真守が見渡した限りでは、会長を含めても今自己紹介を終えた4人しかいないように見えた。
だが会長は不思議そうに首を傾げる。
「あはは、楽々浦君。君にはこの子が見えてなかったのかい?」
そう言って会長が振り向くと、その陰からとても小柄な女子生徒が前へと押し出された。
「えっ……」
真守は素で驚いた。
(さっきまでいたか……?)
本気で見えていなかった。
幻覚か何かかと疑うくらい、自然にそこにいた。
「ほら、一人で自己紹介できるだろ?頑張ってやってみな」
会長が優しく声をかける。
金髪のクセのある長髪。
小柄で、全体的にあまりにも幼い雰囲気をしている。
「か、薫……わ、わたし、一人じゃ無理だよぉ」
涙目になりながら、会長の裾をぎゅっと掴む。
(なんなんだこの可愛い生き物は……)
あまりにも庇護欲を刺激してくる存在だった。
一瞬、本気で会長の隠し子か何かかと思ったが、もちろん年齢的にそんなことあるはずがない。
「そんなこと言わないで。楽々浦君は悪い人じゃないから」
「ほ、本当に……? 本当に悪い人じゃないの?」
(いや、俺そんなに怪しく見えるか……?)
たしかに目つきは多少悪い自覚がある。
でも、そこまで警戒されると少し傷つく。
「ほら、楽々浦君が困ってるから、早く自己紹介するんだ」
「う、うん……薫がそう言うなら」
その子は小さく深呼吸をした後、真守の前に立つ。
「すぅー……はぁー……わ、私の名前は、神楽坂 アリスです。一応、みんなと同じく三年A組です。こ、この生徒会では副会長を務めています。さ、楽々浦くん、よろしくお願いします……!」
「よ、よろしくお願いします……」
ようやく名前と肩書きが一致する。
ハーフなのだろうか。
見た目だけなら小学生に見えてもおかしくないほど幼いのに、これで三年の先輩、しかも副会長だというのだから驚くしかない。
結局、最後までオドオドしたままだったが、なんとか自己紹介を終えたアリスは、すぐさま会長のところへ戻っていき、そのまま後ろの方へすっと隠れた。
「っと、僕たち生徒会のメンバーはこんな感じかな」
会長はそう言いながら、隣に戻ってきたアリスの頭を軽く撫でる。
その仕草が妙に自然で、真守は二人の距離の近さに少しだけ違和感を覚えた。
「あ、あの……そう言えば、二学年の先輩はいらっしゃらないんですか?」
ようやく浮かんだ疑問を、真守は口にする。
ここにいるのは全員三年生。
しかも、それぞれの役職を一人ずつで回しているらしい。
普通なら、先輩後輩で役割を分担したり、引き継ぎのために二年生も混ざっているはずだ。そう思っていたからこそ、違和感があった。
「その件なんだが、少しこの学校は変わっていてね。生徒会選挙が——四月にもあるんだよ」
「し、四月にも……? 新入生が入って間もないのにですか?」
あまりにも早い。
まだ誰がどんな人間かも分からない時期に、信頼を基準にしたような選挙を行うなど、真守には理解しづらかった。
「あはは、楽々浦君。君はちゃんと人の話を聞かないとダメだよ。僕は“四月にも”と言ったんだ」
「……え?」
「つまり、生徒会選挙は2回あるということだよ」
「に、2回……?」
一気に意味がわからなくなる。
頭の中にハテナが増えていくばかりだった。
「わかりやすく言えば、1回目の選挙は下見みたいなものだね。その後、候補を絞って、2回目の選挙で本格的に決めるんだ」
「そ、それって、何の意味があって2回もやるんですか?」
「まぁ、話せば長くなるんだけど——」
会長は相変わらずアリスの頭をぽんぽんと優しく叩きながら続けた。
「とにかく今年は異例でね。生徒会への立候補者数がとても多いんだよ。だから選考の段階から少し手を焼いている」
「あぁ……なるほど……」
と言いながらも、真守は半分も理解できていなかった。
会長の説明は分かりやすいはずなのに、その内容自体がすでに普通ではない。
一人だけ話についていけないまま、真守はその場に立ち尽くす。
目の前で繰り広げられる生徒会の空気も、会長を中心に回る独特の会話も、すべてが自分のいる世界とは少しずれているように感じられた。
そしてその疎外感を埋める術を、今の真守はまだ持っていなかった。




