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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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156話 俺×電話=普通が一番怖いです。

教室の扉を開けた瞬間、空気が一変した。


「——そこもうちょい右!」

「いやそれだとバランス悪くね?」

「布足りてねぇって言ってんだろ!」


騒がしい。


机は端に寄せられ、中央には木材や布、段ボールが広がっている。クラス全体が一つの方向に向かって動いている、その熱量が一気に押し寄せてきた。


「……」


一瞬、立ち止まる。


この空気に、少しだけ置いていかれた感覚。


「……そうか」


文化祭。


会長が言っていた“一週間後”。


その現実が、こうして目の前にある。


「おい」


肩を軽く叩かれる。


振り返ると、神宮丸だった。


「やっと来たな」


ニヤニヤしている。


「お前も手伝え」


「……何やってんだこれ」


教室を見渡しながら聞く。


「見りゃ分かるだろ」


神宮丸が腕を組む。


「メイド喫茶だよ」


「……は?」


思わず間の抜けた声が出る。


「なんでそうなった」


「最高だろ?」


神宮丸が即答する。


「男の夢だぞ?」


「……」


こいつ、完全に賛成側だ。


「多数決で勝ったんだよ」


ドヤ顔で言う。


「当然の結果だな」


「最低だな」


真守は即座に返す。


「なんでだよ!」


「なんでもだよ」


「ってことで」


神宮丸が肩を組んでくる。


「お前も働け」


「いや俺——」


「関係ねぇ」


強引だった。


「クラスの一員だろ?」


「……」


反論できない。


その時だった。


「ほんと最悪なんだけど」


横から声が入る。


白ヶ崎だった。


腕を組み、明らかに不機嫌そうな顔をしている。


「変態な男どものせいでこうなったのよ」


「まあ……そうなるよな」


真守も苦笑する。


「よりにもよってメイド喫茶って、ほんと意味わかんない」


白ヶ崎がため息をつく。


「なんで私があんな格好——」


そこで言葉を止める。


「……」


真守は少しだけ考えてから、軽く言う。


「でもさ、似合いそうじゃん?」


「……え?」


白ヶ崎の動きが止まる。


「普通に可愛いと思うけど」


「……っ」


一瞬で顔が赤くなる。


「な、なに言ってるのよ」


視線が泳ぐ。


「別にそんなの——」


「いや絶対似合うって」


「……!」


追い打ちをかける。


白ヶ崎が完全に固まる。それから、小さく口を開く。


「……真守くんだったら」


声が少しだけ小さい。


「……いつでも見せてあげるのに」


「……」


空気が一瞬止まる。


「はぁ!?」


神宮丸が即座に割り込む。


「お前ら何それ!?どういう関係!?」


「うるさい」


白ヶ崎が即座に切る。


「黙って」


「いや黙れねぇだろ!」


神宮丸が詰め寄る。


「今の完全にそういう流れだったぞ!?」


「違うから!」


「どこがだよ!」


「……」


教室がざわつく。


周りの視線も集まり始める。


「……はぁ」


真守は軽くため息をつく。


騒がしい。


けれど——


「……」


少しだけ、落ち着く。


さっきまでの焦りが、ほんの少しだけ薄れる。

気づけば、そのまま時間は流れていった。


やがて、教室のざわめきは夕方の色に変わっていく。


窓の外は、すでにオレンジに染まっていた。


「……」


放課後。


その瞬間、一気に現実に引き戻される。


時間がない。


「……帰る」


短く言って、教室を出る。


白ヶ崎が何か言いかけた気がしたが、振り返らなかった。


家に戻ると、すぐに机に向かう。


ノートを開く。


「……」


情報を整理する。


赤坂。

共犯者。

黒ヶ峰。

神楽坂。


そして——


「……葵先輩」


ペンが止まる。


違和感が、頭から離れない。

距離や視線。それと、あの妙な圧。


「……」


そして、奏の言葉。


——近づかないほうがいい。


「……」


分かってる。


危険かもしれない。


それでも——


「……」


知りたい。


核心に一番近い気がする。


スマホを手に取り、少しだけ迷う。

それでも——送る。


[少し話せますか]


数分後。


着信音が鳴る。


「……」


画面には、葵の名前。

通話を取る。


「……はい」


「真守?」


いつも通りの声。


「どうしたの?」


「……少し話したいことがあって」


「いいよ」


即答だった。


「どこで?」


「……公園で」


「うん、分かった」


迷いがない。


「夜でも大丈夫?」


「……はい」


「じゃあ待ってるね」


通話が切れる。


「……」


静かになる部屋。


外へ出る支度を終えて、家を出る。

夜の空気が少し冷たい。


「……」


歩き出す。


向かう先は、公園。


分かってる。


この選択が正しいかなんて、分からない。


それでも——


止まれなかった。

そのまま、真守は夜の中へ歩いていった。

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