154話 俺×同居=限界を超えてきました。
玄関のドアを開けた瞬間だった。
「まーくーーん!!」
「……うわっ!?」
勢いよく飛び込んできた影に、反射的に一歩後ろへ下がる。
そのまま、しっかりと抱きつかれる。
「おかえりぃぃ……」
「ちょ、ちょっと……」
「よかったぁ……帰ってきたぁ……」
涙声だった。
完全に体重を預けてきている。
「……」
一瞬だけ、どうしたものかと固まる。
その時だった。
「はい、そこまで」
白ヶ崎が横から入り、無理やり引き剥がす。
「ちょっ、何するの咲音ちゃん!?」
「くっつきすぎ」
淡々とした声。
「帰ってきた瞬間にそれは物理的にも重い」
「重くないもん!」
真希那が反論する。
「まーくんが帰ってきたから安心しただけ!」
「それでも距離がおかしい」
「咲音ちゃんの方がおかしいでしょ!」
「どこが」
「全部!」
「……」
いつものやり取りだった。
騒がしい。
でも——
「……はぁ」
どこか、少しだけ安心する。
「……それで、どうしたんだよ」
真守がようやく話を戻す。
真希那は一瞬だけ表情を引き締めた。
「……連絡、取れた」
「……!」
空気が変わる。
「唯ちゃんと」
「どこにいるんだ」
「それがね……」
少しだけ言いづらそうにする。
「教えてくれなかったの」
「……」
「でも」
続ける。
「部屋の鍵は開けられたから、荷物全部戻してきた」
「……そうか」
最低限のことはできている。それだけでも、少しだけ安心する。
「唯ちゃんの部屋は当分の間なら開けられるよ」
「……なら」
その時、白ヶ崎が口を開く。
「そのまま向こうにいればいいんじゃないの」
「……は?」
真希那の表情が一瞬で変わる。
「咲音ちゃん、それどういう意味?」
「そのまま」
淡々と続ける。
「部屋あるなら戻らなくてもいいでしょ」
「……」
空気がピリつく。
「それ言うなら」
真希那が一歩前に出る。
「咲音ちゃんこそ自分の部屋あるよね?」
「……あるけど」
「じゃあ帰れば?」
にっこり笑う。
「なんでここにいるの?」
「……」
白ヶ崎の目が細くなる。
「必要だから」
「何が?」
「……」
言葉が詰まる。
「……まーくんのためでしょ?」
真希那が言う。
「じゃあ私も同じだから」
「違う」
「同じ」
「違う」
「同じ!」
「……」
空気が完全にぶつかる。
「……はぁ」
真守がため息をつく。
「やめろって」
二人の間に入る。
「今その話じゃないだろ」
「……」
「……」
二人とも一応黙る。
完全には納得していない顔だったが。
「とりあえず中入るぞ」
そう言って、靴を脱ぐ。
それでようやく、その場は収まった。
そのあとは、ご飯を食べ終え、あっという間に夜になる。シャワーも終わり、部屋の明かりも少し落ち着いた頃。
「よし」
真希那がなぜか気合を入れる。
「今日は私が監視するからね」
「……は?」
嫌な予感しかしなかった。
「まーくんの部屋で寝る」
「いや出てけ」
即答だった。
「なんで!?」
「なんでもだよ」
「危ないでしょ今!」
「何がだよ」
「全部!」
「雑すぎるだろ」
「全部なの!」
そう言うと、真希那が自室から布団を持ち込む。
もう、完全に居座る気だった。
「……」
真守はしばらく抵抗した。
したのだが——
「……もういい」
最終的に諦めた。
「好きにしろ」
「やった!」
「……」
その時だった。
ドアが開く。
「真守くん」
白ヶ崎が立っている。
「……なんでいるの」
真希那が即座に反応する。
「寝るから」
「は?」
「一緒に」
「はぁ!?」
そのまま白ヶ崎が真守のベッドへ近づく。
「ちょっと待ちなさい!」
真希那が即座に引き剥がす。
「まだ高校生でしょうが!!」
「関係ない」
「あるわよ!」
「……」
完全に、いつものカオスだった。
「……」
真守はもう何も言わない。
いや、言えない。
「……もういい」
ぼそっと呟く。
「全員布団敷け」
「……え?」
「……え?」
二人が同時に止まる。
「川の字で寝るぞ」
「……」
「……」
一瞬の沈黙。
「……それならまぁ」
「……うん」
なぜか納得する二人。
「……」
そのまま、床に布団が並ぶ。
真ん中に真守。
左右に、白ヶ崎と真希那。
「……」
横になだだ途端に、すぐに感じる。
左右からの圧。
「……」
両側からぎゅっ、と抱きつかれる。
「……」
ツッコミたい。
全力で。
でも——
今日は、疲れていた。思考が追いつかない。
そのまま、目を閉じる。
カオスな状況のまま真守は、そのまま眠りに落ちた。




