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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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153話 俺×お弁当=距離の意味を見失っています。

副会長スペースの一角。昼休みのざわめきが遠くで広がる中、二人の間だけが妙に静かだった。


「……」


真守は箸を持ったまま、ほんの少しだけ動きを止める。


視線を感じる。正面から、まっすぐに。


「……」


葵が、こちらを見ている。瞬きすら少ないまま、ただじっと。


逃げるように視線を弁当に落とす。


蓋を開けた瞬間から分かっていたが、見た目はしっかりしている。色合いも良く、丁寧に作られているのが一目で分かる。


「……」


一口、口に運ぶ。


味は——分からない。


緊張で、舌がまともに機能していなかった。それでも、何か言わなければいけない気がした。


待たれている。そう感じる。


「……美味しいです」


少し間を置いて、そう言う。


「……」


一瞬の静止。


それから、葵の表情がふっと緩む。


「ほんと?」


「……はい」


「よかった」


心から安心したような声だった。


その笑顔は自然で、柔らかい。


けれど——


「……」


そのあとも視線は外れない。食べながらも、ずっとこちらを見ている。


落ち着かない。


ただ食事をしているだけなのに、試されているような感覚が続く。


会話は続かない。


そのまま、静かな時間が流れ——やがて弁当は空になった。


「……ごちそうさまでした」


「うん」


満足そうに頷く葵。


それで昼の時間は終わった。


食後の空気を引きずったまま、真守は立ち上がる。


「……次、行きましょうか」


「うん」


自然に並ぶ。


そのまま書記スペースへ向かう途中、真守は小さく口を開いた。


「……さっきみたいなやり方は、やめてください」


「……」


葵はすぐには返さない。


「坂下先輩、完全に怯えてました」


「……」


「無関係な人にああいう聞き方をするのは、違うと思います」


少し強めに言う。


「……分かった」


意外なほど素直だった。


「今回はちゃんとやる」


その言葉に嘘はなさそうだった。


「……お願いします」


そう言って前を見る。


書記スペースに着くと、池鶴と黒ヶ峰がそれぞれ作業していた。


空気は静かで、張り詰めている。


「……」


このまま話しかけるのは危険だと判断する。


真守は葵に視線を送る。葵も理解したように軽く頷いた。


「池鶴先輩」


葵が声をかける。


「少し、お時間もらえますか」


「……」


池鶴がゆっくり顔を上げる。


視線だけがこちらを捉える。

冷たい。感情がほとんど乗っていない。


「今、作業中なんだけど」


淡々とした声。


拒絶の意思だけが、はっきりとある。


「すみません」


葵は一歩引く。


「少しだけでいいので」


「……短くして」


間を置いて、そう言う。


池鶴は立ち上がり、黒ヶ峰から少し距離を取る。


「で」


腕を軽く組む。


「何?」


「確認したいことがあって」


葵の声も落ち着いている。


「最近の生徒の動きについてなんですけど」


「……」


「赤坂唯のこと、知ってますよね」


「知ってる」


即答。


「その人と、何か関わりありました?」


「ない」


迷いがない。


一切の揺らぎもない。


「……最近、様子おかしいとか」


「別に」


短く切る。


「何も変わってない」


「……」


その答えは、あまりにも真っ直ぐだった。隠している感じがまるでない。疑う余地がない。


「……そうですか」


葵もそれ以上踏み込まない。


「お時間ありがとうございました」


軽く頭を下げる。


真守も続く。


「ありがとうございました」


「……別にいいけど」


池鶴が一言だけ付け加える。


視線は変わらない。


「仕事の邪魔はしないで」


静かなのに、冷たい。


「……はい」


真守は小さく頷く。


そのまま二人はその場を離れた。


池鶴はすでにこちらに興味を失っていた。最初からいなかったかのように、作業に戻っている。


副会長スペースへ戻る。


椅子に座ると同時に、空気が少しだけ緩む。


「……今のは違いますね」


「うん」


葵も同意する。


「完全に無関係」


「……」


残るは限られてくる。


黒ヶ峰と——アリス。


「……次、どうしますか」


「今日はやめとこ」


「……え?」


予想外だった。


「一気に詰めると警戒されるから」


葵が指先で机を軽く叩く。


「でも途中でやめるとさ」


視線が上がる。


「“なんで途中で終わったんだろう”って思うでしょ」


「……」


「それが不安になる」


「……なるほど」


理解できる。


「疑われてるかもって思わせるんですね」


「そう」


葵が笑う。


「時間置いたほうが、勝手に崩れるよ」


「……」


理にかなっている。


「……いいと思います」


真守は頷いた。


そして、気づけば放課後が近づいていた。


「……今日はここまでにしましょう」


立ち上がる。


「自分は帰ります」


その瞬間だった。


「待って」


手を掴まれる。


強い。


「……」


「一緒に帰ろ」


「……今日はちょっと」


言葉を探す。


「用事が——」


「後でいいよね」


被せられる。


「……」


力が強くなる。逃げられない。

顔を上げ、葵の目と合う。


「……」


さっきまでと違う。


笑っているのに、笑っていない。


「……分かりました」


それしか言えなかった。


「うん」


葵が満足そうに頷く。


黙ったまま下駄箱で靴を履き替えて、並んで歩く帰り道。


沈黙が続く。


「……」


空気が重い。


「……」


やがて、真守は口を開く。


「……あの」


「ん?」


「そんなに近いと、奏先輩は怒らないんですか?」


「……」


一瞬、葵の表情が止まる。


ほんのわずかに。


「……奏?」


繰り返す。


「関係ないよ」


軽い。


軽いはずなのに——

それ以上、何も聞けなかった。


そのまま会話は途切れたまま、二人は別れた。


家の前に立つ。


「……」


今日の出来事が頭の中でゆっくり整理される。


違和感。


距離。


視線。


「……」


まだ何も分かっていない。


それでも——


確実に、何かがおかしくなっている。

そう感じながら、真守は静かにドアを開けた。

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