表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
PR
147/226

146話 俺×和解=不思議な距離です。

朝の空気は、思っていたよりも軽かった。


玄関を出た瞬間、少しだけ冷たい風が頬を撫でる。今までの重さが完全に消えたわけではない。それでも、どこか薄れているような感覚があった。


隣には、白ヶ崎。


当たり前みたいに並んで歩いている。会話は少ない。それでも沈黙は苦しくなかった。歩幅も自然と揃っていて、足音が重なるのが妙に心地いい。


少し前なら考えられなかった。


誰かと一緒にいることが、ここまで“普通”になるなんて。


「……」


校門が見えてくる。


日常の景色。けれど今日は、それだけじゃなかった。


会長の言葉が、まだ頭に残っている。


“明日じゃ間に合わない”


「……」


靴箱で履き替えながら、短く言う。


「先に生徒会室行ってくる」


白ヶ崎は少しだけこちらを見てから、軽く頷いた。


「分かった。教室いるから」


それだけ言って、自然に別れる。


「……」


そのやり取りすら、どこか落ち着いていた。


一人になると、少しだけ空気が変わる。軽さの中に、わずかな緊張が混ざる。


「……」


廊下を進む。足音がやけに響く。


理由は分かっている。これから聞く話のせいだ。


「……」


生徒会室の前に立つ。


一瞬だけ、呼吸を整える。それからドアを開けた。


「おはようございます」


中にいた数人が軽く反応する。


その中で——


「真守、おはよ」


足が止まる。


視線を向ける。


葵がこちらに歩いてきていた。


いつもの笑顔。


いつもの調子。


けれど——


今、名前で呼ばれた。


「……あ、おはようございます」


ほんの少しだけ間が空く。


それでも、何事もないように返す。


違和感はあった。けれど、それを口にするほどのものでもない。

そう思って、流す。


葵はそのまま、すぐ近くまで来る。

距離が近い。

昨日よりも、確実に。


「……」


それでも、表情は変わらない。


自然なまま。


真守は視線を外す。今はそれより優先することがある。


「会長のところ行ってきます」


軽く言って、その場を離れる。


生徒会室の奥へ進む。


会長の部屋へ続く廊下に入ったところで、背後に気配を感じた。


振り返る。


葵がついてきている。


「……」


無言で、こちらを見ている。


少しだけ言葉を選ぶ。


「葵先輩、会長とちょっと話があるんで」


やんわりと距離を取ろうとする。


「二人きりで大丈夫です」


柔らかく言ったつもりだった。


けれど——


「なんで?」


返ってきた言葉は、まっすぐだった。


「……」


一瞬、言葉に詰まる。


「いや、その……」


曖昧な返答になる。


葵は一歩、距離を詰める。


「私、ずっと真守のそばにいるって言ったじゃん」


言葉が止まる。


昨日の会話が、そのまま蘇る。

顔がわずかに引き攣る。


その反応を見て、葵がふっと笑う。


「冗談だよ」


軽く言う。


それだけで空気が戻る。


葵はそのまま背を向ける。


「ちゃんと話してきなよ」


そう言って、副会長スペースへ戻っていった。


その背中を少しだけ見送る。


違和感は消えない。むしろ、はっきり残ったままだった。


それでも、今は進む。


会長の部屋のドアをノックする。


「どうぞ」


中から声が返る。


「失礼します」


ドアを開けて入る。


会長はいつもの位置に座っていた。


「おはよう、楽々浦君」


穏やかな声。


「おはようございます」


軽く頭を下げる。


「座ってくれ」


言われるまま椅子に座る。


一瞬、間が空く。


会長の視線がこちらに向けられている。


「さて」


静かに口を開く。


「昨日の続きをしようか」


「はい」


自然と背筋が伸びる。


会長は淡々と話し始めた。


赤坂のこと。


ここ一ヶ月、学校に来ていないこと。それだけでも異常だった。けれど、それだけじゃない。

夜な夜な生徒会室に侵入していること。

そして、何かしらの情報を持ち出そうとしていること。


頭の中で、赤坂の姿が浮かぶ。


けれど、どうしても結びつかない。あの人が、そんなことをするのか。理解が追いつかない。


会長は感情を乗せずに続ける。


「昨日、君に話そうとしたのはこの件だ」


言葉が出ない。


そして——


「赤坂は、退学処分になる」


その一言で、すべてが止まる。


数秒遅れて意味が落ちてくる。


「待ってください」


ようやく声が出る。


「それ、確証あるんですか」


会長は表情を変えない。


「ほぼ確定だ」


反論しようとする。けれど同時に思う。

この人が言うなら、調べていないはずがない。


言葉が詰まる。


「君の意見を聞きたかったんだよ」


静かに続ける。


「昨日の時点で待ってくれと言ってくれれば、間に合ったんだがね」


胸の奥が揺れる。


選択をミスした。そう思いかける。


けれど、すぐに打ち消す。

あれは間違いじゃない。そうじゃなきゃいけない。


会長は肩をすくめる。


「上が少々うるさくてね。この僕でも完全には止められない」


つまり、決定はほぼ下っている。

それでも、諦めきれない。


「何か方法、ないですか」


会長がわずかに微笑む。


「一つだけ、あるかもしれない」


空気が変わる。


「赤坂がここに出入りできる時点で、内部に協力者がいる」


言葉が重く落ちる。


「しかも、それは生徒会メンバーだ」


息が止まる。


この中に、裏切り者がいる。


会長は続ける。


「それを突き止めたい。その上で処分を決める」


思わず言う。


「それでも退学は変わらないんじゃ」


「それは」


被せるように。


「君次第だ」


言葉が止まる。


「君の頼みなら取り消すこともできる」


会長はいつもの優しい声で続ける。


「僕に協力してくれれば、上の圧力も抑えてあげよう」


条件は良すぎる。だからこそ重い。


生徒会の中から犯人を探す。そんなこと、できるのか。


それでも——


口が先に動く。


「分かりました」


自分でも驚くほどあっさりと。


「共犯者、探します」


会長がニヤリと笑う。


その瞬間だった。


「それじゃあ」


視線が、真守の後ろへ向く。


「夢百合君」


反射的に振り返る。


そこに、葵が立っていた。


いつからいたのか分からない。気配もなかった。


会長が優しく言う。


「楽々浦君に協力してあげな」


「はい」


葵が即答する。


明るい声で、笑顔のまま。


頭が追いつかない。


何も言えないまま立ち上がる。


「失礼します」


それだけ言って部屋を出る。


廊下に出た瞬間、空気が変わる。現実に引き戻される。


後ろに気配。


葵がついてきている。


何も言わない。言えない。


そのまま生徒会室を出る。


行き先も決めずに歩く。

自然と足は教室へ向かっていた。


頭の中が整理できない。


赤坂。

退学。

共犯者。


そして——葵。


全部が繋がっているようで、まだ何も分かっていない。


ただ一つ確かなのは。


もう、後戻りできないところまで来ているということだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ