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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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145話 俺×あたりまえ=変化しています。

夜の部屋は、昼間よりもずっと静かだった。

カーテンの隙間から、街の明かりがぼんやりと差し込んでいる。

テレビもつけていない。音はほとんどない。


それでも——


「……」


前みたいに、何もないとは思わなかった。


「……」


ソファに腰を下ろす。


向かいには、白ヶ崎。


当たり前みたいにそこにいて、当たり前みたいに同じ空間にいる。


「……」


少し前までは、それが異常だった。


誰かが部屋にいること自体が落ち着かなかったし、気を遣うことの方が多かった。


なのに今は——


「……」


違和感がない。


それどころか、いない方が落ち着かないかもしれないと、ふと思う。


「……」


自分でも少しだけ驚く。


変わったのは状況じゃない。

多分、自分の方だ。


「……」


白ヶ崎が、キッチンの方から戻ってくる。

飲み物を二つ持って、何も言わずに一つ差し出される。


「ありがと」


自然に受け取る。それもまた、当たり前みたいな動きだった。


「……」


一口飲む。


少しだけ、落ち着く。

そこで、昼間のことを思い出す。


葵のこと。

あの空気。

あの距離。


そして、会長の言葉。


“明日じゃ間に合わない”


あの一言だけが、ずっと引っかかっている。


「……」


白ヶ崎に、簡単に話す。


葵とどうなったのか、どんなやり取りをしたのか。

それから、会長に呼び止められたこと。赤坂の名前が出たこと。


「……」


白ヶ崎は、途中で口を挟まない。

ただ静かに、最後まで聞いていた。


「……」


話し終えて、少しだけ息を吐く。


「……なんかさ」


言葉が自然と続く。


「嫌な予感しかしないんだけど」


苦笑に近い声だった。


「……」


会長がわざわざあのタイミングで声をかけてきたこと。


赤坂の名前を出したこと。


そして、あの言い方。


ただの雑談じゃない。

そんなのは、分かっている。


「……」


白ヶ崎が、少しだけ首を傾ける。


「……唯先輩が、何かやらかしたってこと?」


「……多分」


曖昧に答える。


確証はない。でも、流れとしてはそれが一番自然だった。


「……」


少しだけ、胸の奥がざわつく。


赤坂のことを思い出す。

あの態度、あの違和感。


全部が、繋がりそうで。でもまだ、はっきりしない。


「……」


白ヶ崎が、ゆっくりと口を開く。


「……大丈夫でしょ」


その言い方は、あまりにもあっさりしていた。


思わず、顔を上げる。


「……なんでそんな適当なんだよ」


「適当じゃない」


すぐに返される。


「……真守くんがいるから」


「……」


一瞬、言葉が詰まる。


あまりにも、迷いがなかった。

根拠とか、理屈とか、そういうものじゃない。ただ、それが“当たり前”みたいな言い方だった。


「……」


変な説得力がある。


ふっと、肩の力が抜ける。


「……なんだよそれ」


小さく笑う。


「……」


でも、不思議と——


さっきまでのざわつきが、少しだけ薄れていた。


「……」


完全に消えたわけじゃない。


それでも、抱えきれないほどじゃなくなっている。


「……」


しばらく、何も言わない時間が続く。


けれど、それは気まずさじゃなかった。

ただ、落ち着いているだけの時間。


その中で、ふと思う。


このまま、流されるのは違う。

今までのこと、結城のこと、祇園のこと、赤坂のこと。


「……」


全部、中途半端なまま進んでいる。


なら——


一度、戻るしかない。


口を開く。


「……実家、戻ろうと思う」


白ヶ崎が、少しだけ目を細める。


「……」


続ける。


「アルバムのこと、まだ引っかかってるし……母親にも、ちゃんと聞きたい」


曖昧なままにしておくには、もう無理だった。


「……」


白ヶ崎は、少しも迷わなかった。


「……じゃあ、一緒に行く」


当たり前みたいに言う。


思わず、苦笑する。


「……即答かよ」


「当たり前でしょ」


「……」


その言い方が、あまりにも自然で。


少しだけ、安心する。


そのまま、時間が過ぎていく。

時計の針の音だけが、静かに響く。


「……」


やがて、白ヶ崎が立ち上がる。


「……そろそろ寝よ」


「……うん」


自然に返す。


寝る、という言葉に、もう変な緊張はなかった。


ベッドに入り、並んで横になる。


「……」


少し前までは、それだけで落ち着かなかった。


距離とか、体温とか、全部が気になって仕方なかった。


でも今は——


普通だった。むしろ、安心する。


「……」


目を閉じようとした、その瞬間。


白ヶ崎が、当たり前みたいに近づいてくる。

そのまま、抱きつく。


「……」


一瞬だけ、体が固まる。


けれど——


もう、驚かない。


ため息のように、力が抜ける。


「……」


横を見る。


白ヶ崎は、もうほとんど寝ていた。無防備な顔。安心しきった表情。


その顔を見ていると——


胸の奥のざわつきが、少しずつ静まっていく。


「……」


大丈夫だと、思えた。


根拠なんてない。それでも。


ゆっくりと、目を閉じる。


気づけば、すぐに意識が沈んでいった。


何も考えずに眠れるのが、こんなに楽だったのかと——


そのまま、思う間もなく。

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