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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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143話 俺×選択=間違ってなかったはずです。

窓の外は、すっかり夕焼けに染まっていた。


赤く伸びた光が、机の上に影を落とす。

その中で、ペンの音だけが淡々と続いている。


「……」


一つ、息を吐く。


手は動いているのに、頭はほとんど動いていなかった。さっきのやり取りが、ずっと引っかかっている。


横に視線を向ける。


葵は、いつもと同じ場所に座っている。


けれど——


空気が違う。


「……」


目が合わない。


いや、合わせてくれない。それだけで、十分すぎるほど分かった。


「……」


このまま帰るのは、違う。

そう思った瞬間、体が先に動いていた。


椅子を引き、立ち上がる。

その音が、やけに大きく響いた。


「……」


一歩、踏み出す。


距離は、数歩。それなのに、やけに遠く感じる。


「……葵先輩」


声をかけようとした、その瞬間——


「——楽々浦君」


後ろから、声が落ちてきた。


「……っ」


反射的に、振り返る。


会長が立っていた。


「……お疲れ様です」


軽く頭を下げる。


「少し、いいかな」


いつもと変わらない、穏やかな声。


「……」


視線が、わずかに揺れる。


さっきまで見ていた葵。そして、今目の前にいる会長。


「……すみません、今ちょっと——」


言いかけたところで。


「赤坂の件なんだが」


「……っ」


言葉が止まる。


空気が、変わる。


「……」


思考が、一瞬でそっちに持っていかれる。


赤坂。


その名前が、こんなタイミングで出るとは思っていなかった。


「……少し、込み入った話でね」


会長が静かに続ける。


「今、時間あるかな」


「……」


葵を見る。


俯いたまま、動かない。さっきのままの空気。壊れたままの距離。


「……」


胸の中で、何かが揺れる。


赤坂のことは、気になる。聞かなきゃいけない気もする。


でも——


「……」


今、目を逸らしたら。多分、もうちゃんと話せなくなる。


「……」


ゆっくりと息を吸う。


それから——


「……すみません」


はっきりと言う。


「今は、葵先輩と話したいです」


一瞬だけ、空気が止まる。


「……」


会長は何も言わなかった。


ただ、ほんの少しだけ目を細める。


「……そうか」


それだけだった。


否定もしない。引き止めもしない。


けれど——


「……」


一歩、すれ違う瞬間。

静かに、言葉が落ちた。


「明日じゃ、間に合わないんだけどね」


「……っ」


足が、止まりそうになる。


意味が、分かるようで分からない。

でも——嫌な予感だけは、はっきりとあった。


「……」


振り返らない。振り返ったら、多分揺らぐ。


「……」


会長の足音が遠ざかる。


扉が閉まる音。


完全に、いなくなった。


「……」


静寂が戻る。


さっきよりも、重い沈黙。


「……」


胸の奥に、ざわつきが残る。


“間に合わない”


その言葉が、引っかかる。


「……」


それでも——


首を振る。


今は、こっちだ。そう決めたはずだ。


ゆっくりと、葵の方へ向き直る。


「……葵先輩」


もう一度、名前を呼ぶ。


今度は、逃げない。


「……」


少しだけ、間があって。


葵が、ゆっくりと顔を上げた。


目が合う。


その瞬間——


「……」


言葉が、詰まる。


さっきよりも、はっきりと分かった。


この人、かなり来てる。表情は崩れていない。


けれど——


その奥が、空っぽだった。


「……」


何か言わなきゃいけない。


分かってる。


でも、言葉を選び間違えたら——


もう、戻れない気がした。


「……」


喉が、少し乾く。


それでも——


口を開く。


「……さっきのことなんですけど」


ようやく、言葉が出た。


「……」


葵は何も言わない。


ただ、こちらを見ている。逃げない目だった。


でも——


どこか、もう諦めている目でもあった。


「……」


その視線に、胸が少しだけ痛む。


「……ちゃんと、話したいです」


それだけ、言う。


余計な言葉はつけなかった。


「……」


沈黙。


ほんの数秒。


けれど、それがやけに長く感じる。


「……」


やがて、葵が小さく息を吐いた。


それから——


「……いいよ」


短く、それだけ。


感情はほとんど乗っていない。


「……」


それでも。


拒絶されなかっただけで、十分だった。


「……」


真守は、小さく頷く。


胸の奥のざわつきは、まだ消えていない。会長の言葉が、ずっと引っかかっている。


それでも——


「……」


今は、目の前だ。


そう、自分に言い聞かせる。


「……」


この選択が正しいかなんて、まだ分からない。


けれど——


少なくとも、逃げるよりはマシだと思った。


そのまま、二人の間に残っていた距離が、ゆっくりと埋まり始める。

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