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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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140話 俺×痛み=まだ終わっていません。

自宅のドアを開けた時、ようやく現実に戻ってきた気がした。


さっきまでの空気が、まだ体に残っている。

頬の痛みも、鈍く続いていた。


「……座って」


白ヶ崎の声に従って、ソファに腰を下ろす。


そのまま無言で救急箱を持ってくる白ヶ崎の動きが、やけに静かだった。


「……」


アルコールの匂いが、少しだけ鼻に刺さる。


「……ちょっとしみるよ」


「ん」


短く返す。


次の瞬間、じわっとした痛みが走る。


「……っ」


思わず顔が歪む。


「当たり前でしょ」


少しだけ強い口調だった。


「なんで抵抗しなかったの」


手を動かしながら、はっきりと言う。


「普通避けるでしょ、あれ」


「……」


一瞬、言葉に詰まる。


けれど、すぐに口を開いた。


「今回の件は、俺が悪いから」


それだけだった。余計な言葉は、つけない。


「……」


白ヶ崎の手が、一瞬止まる。


そのまま、顔を上げる。


「……」


真守の表情を見る。


「……」


言い返そうとしたはずなのに、言葉が出てこない。


そのまま、何も言わずにまた手を動かし始める。

さっきまでの強さは、少しだけ消えていた。


「……」


消毒が終わる。


軽くガーゼを当てて、手を離す。


「……ありがと」


「別に」


素っ気なく返される。


けれど、その声は少しだけ柔らかかった。


「……」


少しの沈黙。


「……で」


白ヶ崎が口を開く。


「今日、どうだったの」


「……」


少しだけ視線を落とす。


「祇園先輩に実際に会って」


「……」


白ヶ崎は何も言わない。


ただ、静かに続きを待っている。


「……先輩、やっぱ普通じゃなかった」


言葉を選びながら、話し始める。


施設の様子。

祇園の顔。

あの空気。


そして——


「やっぱり、誰かに指示されてたっぽい」


「……」


白ヶ崎の表情が、少しだけ変わる。


「結城も、多分同じ」


「……」


そのまま、話を続ける。


祇園の言葉。


あの“こんなことしたくなかった”って言葉。


そして、自分の中に残ってる違和感。


「……正直、何も分かってない」


小さく言う。


「でも」


一拍置く。


「会長に言われたんだ」


「……」


「君も、もうその外側にはいないって」


「……」


白ヶ崎が、静かに頷く。


「……」


少しだけ、息を吐く。


「……だから」


言葉を繋げる。


「ちゃんと分かってから、赤坂先輩に謝ろうと思う」


「……」


「その上で、ちゃんと話聞く」


「……そっか」


白ヶ崎が、小さく返す。


そして、少しだけ考えるように間を置いてから——


「……お姉さんは?」


「……」


その一言で、思考が止まる。


「……どうするの?」


すぐには答えが出なかった。


「……分かんない」


正直に言う。


「弟の俺でも、分かんないよ」


「……」


白ヶ崎は、それ以上何も言わなかった。


無理に踏み込まない。


その距離が、今はちょうどよかった。


「……」


その時だった。


スマホが震える。視線を落とす。

表示された名前。


「……真希那」


「……」


少しだけ、空気が変わる。


「……出るの?」


「……出る」


短く答える。


立ち上がる。


そのまま、ベランダへ出る。

夜の空気が、少しだけ冷たかった。


通話ボタンを押す。


「……もしもし」


『……で?』


開口一番だった。


『反省してるの?』


強気な声。


いつも通り、というか——


いつも以上に刺々しい。


「……してるよ」


落ち着いて返す。


「ちゃんと謝りたいと思ってる」


『……は?』


一瞬、間が空く。


『なにそれ』


「なにって、そのままだけど」


『気持ち悪』


即答だった。


「ひどくないか?」


『ひどくない』


間髪入れない。


『いつもみたいにキレてくるかと思ったのに、なにそれ』


「……」


少しだけ苦笑する。


「今日はその気分じゃないだけ」


『……なにそれ、余計ムカつくんだけど』


声が強くなる。


けれど——


どこか、いつもと違う。


「……」


真守は、何も言い返さなかった。

ただ、普通に返す。それだけ。


『……なんか、調子狂う』


ぼそっと呟く声。


「そっちの問題だろ」


軽く返す。


『は!?』


また強くなる。


『なにそれ!』


「別に」


『はぁ!?』


完全にヒートアップしている。


けれど——


どこか、違う。本気で怒ってる感じじゃない。


「……」


その時だった。


隣のベランダから、声が聞こえる。


『——っていうかさ!』


「……?」


思わず、身を乗り出す。


隣を見る。


「……」


そこにいたのは——


真希那だった。


スマホを持ったまま、同じように電話している。


「……」


目が合う。


一瞬、固まる。


「……」


「……」


『……あ』


間抜けな声が、向こうから聞こえる。


次の瞬間——


バタンッ


勢いよく部屋に引っ込む音。


「……」


一瞬、何が起きたか分からなかった。


「……は?」


思わず、呟く。


通話はまだ繋がっている。


『……』


無言。


「……おい」


呼びかける。


『……』


無言。


そして——


ブツッ


通話が切れる。


「……」


しばらく、そのまま立ち尽くす。


さっきの光景が、頭の中で再生される。


「……」


思わず、息が抜ける。


「……なんだよ、あれ」


小さく笑いそうになるのを堪える。


「……」


さっきまでの刺々しさ。


あの態度。


全部ひっくるめて——


「……」


完全に、本気で怒ってる感じじゃなかった。


むしろ——


「……不器用すぎだろ」


ぽつりと呟く。


仲直りしたいのに、うまくできてない。

そんな風に見えた。


「……俺も一緒か」


少しだけ、胸の奥が軽くなる。


完全にじゃない。

でも、確実に。


「……ま、いいか」


小さく呟いて、部屋に戻る。


まだ全部は終わってない。

けれど——少しずつ、戻ってきている気がした。

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