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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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139話 俺×苛々=止まれません。

空き教室の空気は重く、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに音が消えていた。

ドアの近くに立つ奏の存在だけが、その静寂を歪ませている。


ゆっくりと一歩、こちらに歩いてくる足音がやけに響いた。


「……お前さ」


低い声だった。


抑えている分だけ余計に刺さるその声に、真守は何も返せないまま視線を受け止めるしかなかった。


「あんな最低なことしておいて、そんな急に清々しい顔で私の妹に近づくなよ」


吐き捨てるようなその言葉で、空気が一気に冷え込む。

葵が小さく息を呑み、白ヶ崎もわずかに表情を固くしたのが分かった。


それでも真守は目を逸らさなかった。逃げる気は、なかった。


「それと」


奏がさらに一歩踏み込む。距離が完全にゼロになる。


「この前、言ったよな?殺すって」


その一言で空気が完全に凍りついた。


葵の目が見開かれ、白ヶ崎も一瞬だけ言葉を失う。その反応を見た瞬間、自分がどれだけ逸脱したことを言ったのかが、嫌でも突きつけられる。


胸の奥に、鈍い痛みが広がる。


それでも真守は小さく息を吐き、ようやく口を開いた。


「……この前のは、言い過ぎました。すみません」


視線は逸らさない。逃げないまま、言葉にする。


しかし奏の表情は微動だにしなかった。その沈黙が、何よりも重くのしかかる。


「本気で言ったわけじゃなくて……感情的になってて、その……流れで言っただけで……」


言い訳だと分かっていながらも言葉を繋げるが、


「やめろ」


短く遮られ、その一言で完全に言葉が止まった。


何も返せない。何も正当化できない。


その横で、白ヶ崎が静かに一歩近づき、迷いなく真守の隣に立つ。その存在が、かろうじて現実に繋ぎ止めてくる。


奏は一度視線を外し、今度は葵へ向けた。


「葵、こいつに近づくな」


命令だった。迷いのない拒絶。


その言葉を聞いて、真守はほんの一瞬だけ迷ったあと、小さく口を開く。


「……できれば、その方がいいと思います」


その一言で、葵の顔がはっきりと歪んだ。理解できないというより、受け入れたくないという表情だった。


そして次の瞬間、


「いい加減にして!」


叫びと同時に胸倉を掴まれ、視界が一気に近づく。


「なんでそんなこと言うの……!」


震えた声だった。怒りと悲しみと焦りが混ざった、まっすぐすぎる感情。


「もう一人で抱え込まないでよ……!楽々浦くんの辛い顔なんて見たくないの!辛くなるなら、一緒に辛くなりたいの!」


その言葉が真っ直ぐ刺さる。逃げ場がない。何も返せない。


言葉が出ないまま立ち尽くす真守の前で、息が詰まる。


その時、奏が動いた。


「やめろ」


低く言い、葵の手を掴んで無理やり引き剥がす。


バランスを崩した葵をよそに、奏の表情が一瞬だけ冷静さを取り戻したが、それもすぐに消えた。


「とにかく、今イライラしてる」


そう言い捨てると同時に、一歩踏み込み、拳を振り上げる。


「殺せるもんならやってみろよ」


そのまま振り下ろされる拳。


真守は動かなかった。避けることも、受け流すこともせず、そのまま受ける。


衝撃が走り、視界が揺れる。

それでも立ったまま、何も言わない。続く拳も同じように受け止める。


止めない。止める気もない。


「やめてください!!」


白ヶ崎が割って入り、奏の前に立ちはだかる。


「これ以上はやりすぎです」


怒りを含んだ声でそう言い切る。


「どけ」


「どきません」


一歩も引かない。


空気が張り詰める中、真守がゆっくりと前に出ると、そのまま膝をついた。


葵が息を呑む。


そのまま床に額をつけるように頭を下げる。


「……すみませんでした」


はっきりとした声だった。


「俺が全部悪いです。感情で動いて、余計なこと言って、傷つけて……本当に、すみません」


頭を下げたまま動かない。


沈黙が流れる。誰も動けない時間。


やがて奏は何も言わず背を向け、そのまま教室を出ていった。ドアが強く閉まる音だけが残る。


静寂。


葵が一歩前に出る。


「……楽々浦くん——」


その瞬間、白ヶ崎が前に出てその動きを止める。


「今は、近づかないでください」


低く、はっきりとした拒絶だった。


葵は何も言えず、その場で止まる。


空気が痛い。


真守はゆっくりと顔を上げ、小さく息を吐いた。


「……咲音、もういいよ」


そう言うと、ようやく白ヶ崎も少しだけ力を抜く。


それでも完全には引かないまま、真守のそばに立ち続ける。


「……すみません、葵先輩」


改めて言う。


「今日は、これ以上ちゃんと話せる状態じゃないです……また日を改めて話させてください」


葵は何も言えなかった。ただ、小さく頷くのが精一杯だった。


そのまま二人で教室を出る。


ドアが閉まり、足音が遠ざかる。


一人、残された葵はその場に立ち尽くす。


「……なんで」


小さく呟く。


「……私は、いつも……」


言葉が続かない。


うまくいかない。伝えたいのに伝わらない。支えたいのに、傷つけてしまう。


視界が滲む。


「……なんで、なの……」


その声は、誰にも届かないまま静かな教室に溶けていった。

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