13話 俺×早朝=落ち着きがありません。
はぁ、今日はとても長く感じた一日だった……
とりあえず家具は一通り配置したが、まだ荷物の方は段ボールに入ったままだ。
「ふぅ……今日は寝るか」
「明日やればいいや」と真守は疲れ切った身体を休めることに専念にした。
そして翌朝。
「ふぁ〜、よく寝たな」
目覚めの良い朝。純粋無垢な小鳥たちの囀りで爽やかな日の出を迎える。
まだ目を開けるのは面倒だ。
真守はこのまま二度寝をすることにした。
数十分後。
そろそろ起きないと学校に間に合わないな。だけど、俺の身体はまだ休みを欲している。
今日は学校を休んでしまおうと心で悪魔が囁く。
ダメだダメだ!このままだと典型的なサボりぐせがついてしまう。ここは気合を入れて起きなければ……よし、まずは背伸びからだ!
真守は身体をほぐすため、重い瞼はそのままにし、手を前に伸ばす。
――むにっ、
あれ、なんだこの感触は……とても柔らかくて気持ちいい。
「っん……あっ……んっ……」
なんだこの声は、朝から良からぬ声が聞こえるぞ。
「あぁん、まー君……そこ、もっと……」
えっ、ちょっと待てよ……これは真希ねぇの声だ。
「あ〜ん、もう、まー君、朝から、だ・い・た・ん♡」
「うわぁぁぁぁあ!?」
真守の横では下着姿の真希那が添い寝していた。
「朝から驚かさないでくれよ!」
目覚めの悪い朝。真守にとっては朝のハプニングほど気が滅入ることは無かった。
「だって〜、まー君の寝顔が可愛かったから〜」
もう俺の部屋には鍵をつけよう。それも何重もの強力な鍵をだ。
真守はため息一つ、それと同時に改めて身体を起こし、次は天井に向け背伸びをした。
「あっ、そうだ、まー君、朝ごはん作ってあるから顔洗ったら早く食べちゃいな!」
「は、はい」
真希那はまだ眠いのか、横になりながら真守に朝ごはんができていることを報告する。
意外にも、私生活はしっかりしている姉だが、面倒見がよすぎるのが難点だな。
「真希ねぇはまだ起きないの?」
「うん、私はもう少し寝てよーっと」
てか、そんなことより、なんでそんな破廉恥な下着を着ているんだ。
真希那はシャツを一枚も羽織らず、下着は全て際どい品で身を纏っていた。そんな真希那を見ていたとは関係なく、真守は男性特有の朝の生理現象で下腹部のあたりが膨らんでいるのを感じた。
「あれ〜、まー君のあそこも元気に起きたみたいだよ?」
「なっ!」
真守は急いで自分の息子を抑え、赤面になりながら言い訳をする。
「こ、これは、真希ねぇを見てそうなった訳じゃないんだからな!」
「あははっ、そんなのわかってるって。男の人は朝になると何も考えてなくてもそうなっちゃうんでしょ?」
「う、うん」
情けない生理現象。だが、この現象が無かったら無かったでとんでもなく慌てるのだがな。
「でもでも、まー君もお姉ちゃんで興奮しちゃったって嘘ぐらいついてくれてもいいのに〜」
真希那はそう言いうと真守を押し倒し、馬乗りで手首を抑えながら顔を近づける。
「ちょ、ちょっと、真希ねぇ!?」
今までにないシチュエーション。真守は初めてのことで頭がショートしかける。
「このまま、しちゃおっか……」
な、な、なんですとー!?ヤバイっ、このままだと本当に真希ねぇに喰われてしまう。それはなんとしても止めなければ!
「ま、ま、ま、真希ねぇ!俺たちは姉弟なんだしこんなのはダメだって!!」
「そんなこと言っちゃって、お姉ちゃんより力あるくせに抵抗しないのはなんで?」
「そ、それは――、
――ピンポーン
真守がパニック状態に陥る前に運良く家のインターホンが鳴った。
「あ、俺、外見てくるよ!」
「あ〜、もう、まー君の意地悪っ!」
意地悪されているのは俺だっつーの!
普通はモニターで誰が来ているのかを確認するのが最初だが、そんなことは御構い無しに真守は急ぎ足で玄関に向かいドアを開けた。
「すみませんお待たせして、何の用で……すか?」
真守は予想外な出来事に思わず言葉が詰まってしまう。
「おはよう、楽々浦君!」
インターホンの前に立っていたのは、昨日、金輪際関わらないで欲しいとまで言った張本人、白ヶ崎だった。
「白ヶ崎さん、なんで……俺のこと嫌いじゃなかったっけ?」
「嫌いなんかじゃないよ、あの、その、私、またあんな酷いこと言っちゃって……」
「は、はぁ……」
真守は白ヶ崎の態度に対して、困惑を通り越して恐怖が生まれつつあった。
「だからちゃんと謝りたくて……」
急にもじもじし始める白ヶ崎。
だから、その困った顔が反則級に可愛いからやめてくれ……
「き、昨日も言った通り、俺は全然大丈夫だから気にしないでいいよ!」
「ほ、本当!?」
「本当だよ、って、このやり取り昨日もしなかったっけ?」
「あはは、そうだよね、何度もごめんね……その、いつになっても『真守くん』は優しいよね」
「えっ!?」
不意に白ヶ崎は苗字ではなく下の名前で呼んだ。真守はそれに気づき、一人で赤面してしまう。
「あっ、違うの!最後のは私の独り言だから気にしないで!!」
白ヶ崎はそう言うと慌てながら自分の部屋に戻って行った。
「な、なんだったんだ……?」
嬉しいような、また騙されているんではないかと安心できないような、そんな複雑な気持ちに身体を起こされる真守。
こんな朝を迎えたのは初めてだ……
「まー君、玄関でぼーっとしてるのはいいんだけど、学校遅刻しちゃうよ?」
真希那は玄関で突っ立っている真守を背後から抱きしめる。
「ぐはっ、真希ねぇ、さすがに玄関の前では服を着てくれ……」
「ありゃ、ついつい癖で……まー君ごめんね!」
頭にピースサインを作りウィンクしながら舌を出す。
真希ねぇなりの可愛いポーズなのだろう。
「あ、そんなことより、さっきも言ったけどまー君、学校遅刻しちゃうよ?」
「遅刻……?」
真守は自分の腕時計を確認する。
「や、や、やばぁぁぁぁい!!」
急いで部屋に戻り、時間を確認しながら学校に向かう支度をし、遅刻ギリギリに寮を飛び出る。
「まー君、お弁当忘れてるよ!」
「お、お弁当!?」
普段はコンビニ飯の真守。お弁当などもう何年も食べていないせいか、持って行くなどの考えは浮かんでいなかった。
「あー、もう、せっかくお姉ちゃんが作ったのに〜!」
「真希ねぇごめん、次はちゃんと持って行くからさ!それじゃあ、いってきまーす!!」
なんて慌ただしい朝なのだろうか。真守の計画なら誰よりも早く学校につき、教室でただ一人、静かに本を読む予定だった。
そんなの無理に決まってる!もう止まってる暇はねぇ!!
学校までの道を全力疾走で駆け抜ける。運動はそんなに得意ではない真守にとっては、かなりハードなことだった。
「はぁ、はぁ、あともうちょっとだ……」
思わず膝に手をついてしまう。浅い呼吸を整えるように、空に向かって深呼吸をする。
「よし、ちょっとは体力が戻ったかな」
真守がもう一踏ん張りで学校に走ろうとしたその時、通学路の反対方面から歩いてくる女子生徒が不意に視線に入った。
「あれって……赤坂先輩?」
まさに、真守の言った通りの人物。赤坂が朝の登校時間にも関わらず、寮の方へと歩いていた。
ここで声をかけてもいいのだろうか……いや、しかし、見た感じだとすごく疲れ切っているような気がする。だから俺は先に行くぜ、赤坂先輩……すまんな!
結局、真守は下手に声をかけず、自分の遅刻を優先させた。
「もう校門が目の前だ、間に合ってくれぇ!!」
下駄箱で靴を履き替え、教室まで猛ダッシュで向かう。
「はぁ、はぁ、はぁ……すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」
真守は教室前に着き、時計を確認する。そこで、ギリギリ間に合っていることに気づき、呼吸を整えながらゆっくり教室のドアを開けた。
「だ、誰もいない……?」
真守の目の前には生徒が一人もいない、空っぽの教室があった。
――ピロリン♪
真守が驚いてる傍でスマホが鳴る。それで一瞬冷静になったのか、おもむろにスマホの画面を確認する。
"真希那
メッセージ:ごめんねまー君!実はあの……"
メッセージは途中で切れていたが、急いでスマホのロックを解除し、内容を最後まで確認する。
「あの、バカ姉がぁ……」
真守は思わず怒りがこみ上げてしまう。真希那は真守に、とても困る嫌がらせをしていたのだった。