134話 俺×扉の先=踏み込む覚悟が必要です。
生徒会室の前に立つ。
さっきまでのやり取りが、少しだけ頭に残っていた。
でも——今は、それより優先することがある。
「……」
ドアに手をかける。
そのまま開ける。
「失礼します」
いつものように声をかける。
けれど——
「……」
返事がない。
中に入る。
「……」
静かだった。
会長の席を見る。誰もいない。
「……いないのか」
少しだけ肩の力が抜ける。
でも同時に——
「……」
どこか拍子抜けする。
どうするか考えようとした、その時だった。
「……あ、楽々浦くん」
後ろから声。
振り返る。
そこにいたのは——アリスだった。
「神楽坂先輩」
軽く頭を下げる。
アリスは、少し慌てたように近づいてくる。
「えっと……会長、ちょっと今いなくて……」
「……そうなんですね」
「う、うん……なんか、ちょっと忙しいみたいで……」
相変わらず、少しおどおどしている。
「……」
少し迷う。
でも——
「……神楽坂先輩」
口を開く。
「祇園先輩のこと、聞いてもいいですか」
「……っ」
その瞬間、アリスの動きが止まる。
分かりやすいくらいに。
「……えっと」
視線が泳ぐ。
「……その」
言葉を選んでいるのが、伝わってくる。
「……」
無理に急かさない。ただ、待つ。
「……」
少しの沈黙のあと——
「……施設に、送られたのは……知ってるよね」
「……はい」
「……その」
さらに、言葉を濁す。
「……名前、だけなら……」
小さく言う。
「……教えてもらってもいいですか」
「……」
一瞬、迷う。
それでも——
「……円董更生施設」
ぽつりと、名前が出る。
「……」
その名前を、頭の中で反芻する。
「……ありがとうございます」
自然と、頭が下がる。
「……でも」
アリスが、少しだけ強く言う。
「……本当に、行くの?」
「……」
その言い方が、少しだけ引っかかる。
「……なんか」
少しだけ笑って返す。
「その言い方、怖いじゃないですか」
「……え」
アリスが、少しだけ慌てる。
「ち、違くて……そういう意味じゃなくて……!」
「分かってます」
軽く言う。
「……」
でも——
内心は、全然軽くない。
「……」
正直、怖い。
何があるのか分からない場所に行く。
祇園と、また向き合う。
あの時の顔、あの言葉。
全部、思い出す。
「……」
それでも。
「……行きます」
静かに、言う。
「……」
アリスは、何も言わなかった。
ただ、小さく頷くだけだった。
「……」
そのまま、生徒会室を出る。
やることは、決まった。
「……」
その前に——
少しだけ、足を止める。副会長のスペースの方へ向かう。
「……失礼します」
軽く声をかける。
そこには、葵がいた。
「……あ、楽々浦くん」
顔を上げる。
「どうしたの?」
「……少しだけ」
近づく。
「……今日、少し外に出る用事があって」
「外?」
「はい」
軽く頷く。
「ちょっと……調べたいことがあるので」
「……そっか」
葵は、それ以上は聞かない。
「……」
少しの沈黙。
「……あと」
言葉を続ける。
「……奏先輩にも」
少しだけ視線を逸らす。
「……この前のこと、ごめんなさいって……伝えてもらえますか」
「……」
葵が、少しだけ驚いた顔をする。
「……うん」
すぐに頷く。
「伝えておく」
「……お願いします」
軽く頭を下げる。
「……」
それで、十分だった。
「……じゃあ」
「うん、気をつけてね」
その言葉を背に、生徒会室を出る。
「……」
廊下を歩く。
さっきよりも、足取りは重い。
「……」
でも、止まらない。
止まる気もない。
外に出る。
駅へ向かう。改札を通る。電車に乗る。
「……」
ドアが閉まる。
静かな揺れ。窓の外の景色が、流れていく。
「……」
行き先は、決まっている。
逃げることも、できる。
でも——
もう、逃げない。
「……」
手を、軽く握る。
少しだけ震えていた。
それでも——
「……」
そのまま、目を閉じる。覚悟を、決めるみたいに。
電車は、静かに走り続けていた。




