133話 俺×朝の余韻=少しだけ前と違います。
朝の光で、目が覚めた。
「……」
ゆっくりと、まぶたを開ける。
天井が見える。昨日と同じはずなのに、少しだけ違って見えた。
「……」
体を起こそうとして——ふと、動きが止まる。
隣に、白ヶ崎がいた。
「……」
静かに寝息を立てている。少しだけ髪が乱れていて、無防備な顔。
「……」
昨日のことが、頭に浮かぶ。
昼に、カレーを作って。夜もそれを食べて。
他愛のない話をして——
そのまま、また一緒に寝た。
不思議だった。普通なら、ありえない状況のはずなのに。
今は、それが当たり前みたいに感じている。
「……」
少しだけ息を吐いて、ゆっくりとベッドから出る。白ヶ崎を起こさないように、静かに動く。
「……」
制服に着替える。
ネクタイを締めながら、ふと思う。
昨日までの自分だったら、多分こんな風に動けていない。何も考えられずに、止まっていたはずだ。
でも今は、違う。
ちゃんと、動けている。
その実感が、少しだけあった。
「……ん」
後ろで、小さな声。
振り返ると、白ヶ崎が目を開けていた。
「……おはよ」
少し眠そうな声。
「……おはよう」
自然に、返す。
「もう着替えてるんだ」
「そろそろ行かないとだしな」
「そっか」
白ヶ崎もゆっくりと起き上がる。
そのまま、いつも通りの流れで準備が進む。
「……」
特別なことは、何もない。
でも——
その普通が、少しだけ心地よかった。
「行くか」
「うん」
二人で、玄関に向かう。
ドアを開ける。
朝の空気が、少しだけ冷たい。
「……」
並んで歩き出す。
なんだろう、この感じ。
隣に誰かがいる。
それだけのことなのに。妙に、しっくりくる。
「……」
学校が見えてくる。そのまま、教室へ。
扉を開けた瞬間だった。
「おーい楽々浦ぁ!!」
うるさい声が飛んでくる。
神宮丸だった。
「……朝から元気だな」
「そりゃ元気だろ!」
にやにやしながら近づいてくる。
「てかお前ら」
じろじろと見てくる。
「なんか距離近くない?」
「……」
その言葉に、一瞬だけ空気が止まる。
普通なら——
「気のせい」
白ヶ崎が即答して終わるはずだった。
でも。
「うん、そうね」
「……は?」
神宮丸の動きが止まる。
「……」
俺も、止まる。
「……え?」
神宮丸が固まる。
「え、認めるの?」
「うん」
あっさり。
「なんでお前もびっくりしてんだよ」
神宮丸に突っ込まれる。
「いや、だって……」
「いつもと違いすぎだろ!?」
「そう?」
白ヶ崎は、全然気にしてない。
「別に隠すことでもないし」
「いやあるだろ!?」
「ないわよ」
「あるわ!!」
朝から騒がしい。
「……」
そのやり取りが、少しだけ面白くて。
「……はは」
気づけば、少し笑っていた。
「おい楽々浦も笑ってんじゃねぇ!」
「うるせぇよ」
軽く返す。
「……」
その空気のまま。
でも、やることは決まっている。
「……ちょっと生徒会行ってくる」
白ヶ崎に言う。
「早速、会長のところに行くよ」
「うん、いってらっしゃい」
あっさりと送り出される。
そのまま、教室を出る。
廊下を歩く。
足取りは、昨日までより軽かった。
「……」
生徒会室の前に着く。
ドアに手をかける。
その時だった。
「あ……」
後ろから、小さな声。
「……?」
振り返る。
そこにいたのは——葵だった。
「……」
一瞬で、空気が変わる。
前回の記憶が、よぎる。
最悪の空気。
言葉。
全部。
「……」
どうする。無視するか。
それとも——
「……おはようございます」
先に、口が動いた。自分でも、少し驚く。
「……」
葵が、少しだけ目を見開く。
無視されるかと思った。
けれど——
「……おはよう」
返ってきた。
小さく。でも、ちゃんと。
「……」
一瞬の沈黙。
気まずさは、まだ残っている。
でも——
「……この前」
ぽつりと、言葉を出す。
葵が少しだけ身構えるのが分かる。
「……言い過ぎました」
視線を逸らさずに、言う。
「……あの時の言い方も」
一瞬だけ、言葉が詰まる。
「……全部」
小さく息を吐く。
「ごめんなさい」
「……」
葵が、固まる。
予想していなかったのかもしれない。
「……」
少しの沈黙。
そして——
「……ううん」
ゆっくりと、首を振る。
「……いいよ」
その声は、思っていたより柔らかかった。
「……」
空気が、少しだけほどける。
「……」
葵が、じっとこっちを見る。
「楽々浦くん……」
少しだけ首を傾げる。
「なんか、変わった?」
「……」
思わず、言葉に詰まる。
「……そうですかね?」
「うん」
はっきり言う。
そして——
ふっと、表情が緩む。
「……よかった」
そのまま、一歩近づく。
「ちょっと安心した」
さっきまでの気まずさなんて、なかったみたいに。
自然な笑顔だった。
「……」
そのまま、葵は生徒会室のドアを開ける。
「じゃあね」
軽く言って、中に入っていった。
「……」
一人、残される。
「……」
唖然としたまま、立ち尽くす。
けれど——
「……」
胸の奥は、前ほど重くなかった。
「……」
少しだけ、息を吐く。
確かに。
「……変わってるか」
小さく呟く。
自分でも分かるくらいに。
「……」
ドアに手をかける。
今なら——ちゃんと、前に進める気がした。




